第4回 大阪ガス株式会社 エンジニアリング部エネルギー・電力ソリューションチーム・マネジャー 松本将英氏

スマートエネルギーネットワークで切り拓くガスの可能性


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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 第4回目にご登場いただくのは、大阪ガスのエネルギー・電力ソリューションチーム・マネジャーの松本将英氏です。ガス業界の新たな取り組みとして注目される「スマートエネルギーネットワーク」実証事業。政府の革新的エネルギー・環境戦略において、2030年台にはコージェネレーションを大幅に拡大する目標も掲げられています。スマートエネルギーネットワークの今後の展開など、ガス業界の新たな取り組みについてお話を聞きました。

コージェネレーションと太陽光発電を利用し、広域の電力融通の実証事業に取り組む

――「スマートエネルギーネットワーク」の取り組みは、現在どのような状況ですか?

松本将英氏(以下敬称略):スマートエネルギーネットワークの取組みは、東京ガスとご一緒に経済産業省様の事業に採択いただき、2010年度から3ヵ年で、今年度がいよいよ最終年度で結果がいろいろ取りまとまってきている段階です。

松本将英(まつもと・まさひで)氏。
1992年大阪ガス入社。
2012年4月よりエンジニアリング部エネルギー・電力ソリューションチーム・マネジャー。
 
 
 
 
 このプロジェクトの背景をまずお話しします。エネルギーの問題を大きく2つに分けて考えるならば、一つは低炭素化・省エネ、もう一つはセキュリティの確保かと思います。特に震災以降は節電が叫ばれ、電源確保も重要で、日本の世の中は大きく変わってしまいました。大きな課題である低炭素化に向けて、ガス会社、あるいはエネルギー供給者としてどんなことをやっていくべきなのかを考えています。電源選択の話題が国民的議論になっていますが、原発0%であるとか、最近は原発容認派の人たちがちょっと押し戻すなど、議論が定まらない状況です。しかし、よく考えてみると電気の話ばかりです。

――そうですね、電気についての議論がほとんどです。

松本:ところが私たちが使っているエネルギーは、電気だけではありません。熱の割合も大きいのです。家庭用・業務用・産業用の各分野におけるエネルギー消費の少なくとも半分、あるいはそれ以上は熱の需要だとするデータもあります。電気の事だけを議論していくのは、不十分ではないかと思います。

――本来は、電気と熱の利用における低炭素化にバランスよく取り組むべきですね。

松本:電気は、数年前までは日本は、原子力発電を推進していく方針でした。震災前の2010年6月に改訂されたエネルギー基本計画では、電源の半分を原子力発電にする目標でした。今ではそれは必ずしも現実的ではありませんが、大きな方策は再生可能エネルギーを極力たくさん導入していくことです。さらにさまざまな場面で、いろんな機器、家電でもLEDに代表されるように各デバイスがより高効率になることが期待されています。

 熱はどう効率を上げて、低炭素化を目指すのかというと、私たちはコージェネレーションをお勧めしています。これは、発電の際に出てくる熱をもう一度熱エネルギーとして給湯や蒸気などに使おうというものです。お客さま先に設置しますので、大規模集中で離れた所からの送電ロスがないため、非常に効率のよいシステムです。今後は、このコージェネを更に普及させていくことが、一つの方向性かと思います。

――実証事業は随分進んでいるのでしょうか?

松本:エネルギーの高度利用、再生可能エネルギーの大量導入、セキュリティの確保を目的に、2010年度から近畿地方一円で、主に広域で電気を融通するという観点で実証事業を行っています。具体的に設備は、1ヵ所あたり60kWの太陽光発電所を5ヵ所建設いたしました。東は滋賀県甲西の弊社の遊休地、西は兵庫県加古川の弊社の遊休地、その他一部はお客さま先の用地もお借りして、60 kW×5ヵ所で合計300 kW分の太陽光発電所を新設しました。

 既にお客さまがお使いのコージェネを一部お借りしていますが、近畿地方の工場や研究所など、業種・用途の違うお客さまにご参加いただき、太陽光とコージェネの発電出力を合わせることにより、より平滑化した変動の少ない電気を出せるかどうかを検証しています。コージェネの出力などを中央から遠隔で制御、あるいは遠隔でデータを収集できる機能に改造させていただいています。お客さま先のコージェネ設備が7ヵ所、5ヵ所の太陽光と合わせての実証事業です。

――2011年12月に実証実験現場を見学させていただきましたが、当時も研究が進んでいる印象を受けました。大阪ガスが実証に乗り出したのは早かったのですか?

松本:そうですね、この実証実験の前からその要素技術開発には取り組んでおりました。複数ではなくて1対1で、ある建物の屋上に置いた太陽光とお客さまがお持ちのコージェネで出力の平滑化を試みました。要素技術の蓄積が、広域のシステム的な実証事業につながっています。

スマエネでエネルギー融通を最適化し、安定供給を図る。

――狙った通りのデータが出ていますか?

松本:実証事業の試験メニューとして3つ実施しています。一つ目は、「エネルギー融通の最適化」です。エネルギー利用の部分最適より全体最適を図る目的です。5ヵ所の太陽光と7ヵ所のコージェネを合わせた全体で、エネルギー消費量を一カ所ごとの部分最適の合計値より下げることができないかと考えています。コージェネにより効率のよいお客さま、融通ができるとさらに効率の良くなるお客さまも含め、全体としてエネルギーの消費量を下げられるはずです。

 二つ目は、「太陽光発電出力変動の平滑化」です。太陽光は気候により、出力が大きく変動します。従って、太陽光が大量に導入された場合には、既存の電力系統網に悪影響を及ぼす懸念があります。蓄電池を置けばある程度解決できるかもしれませんが、その場合大量の蓄電池が必要となります。試算では、3.6兆円、最大では16兆円とも言われます。全て蓄電池で解決するのがよいのかという懸念が否めません。系統の変動の調整をもともと電力会社は火力発電で行いますので、コージェネも火力発電の一種として、太陽光の出力の平滑化に使えるのではないかと思います。

 三つ目は、特に震災以降大きくクローズアップされている電源セキュリティですが、コージェネが供給力として期待できるかどうか。コージェネは、1ヵ所あたりの出力は大きな火力発電所に比べると大きくありませんし、しかもいろんな場所に散らばっていて、これらを1つの発電所とみなすには少々無理があります。しかし、例えば発電所のトラブルが起きたなどのシナリオを想定して、中央からの遠隔制御や遠隔監視の技術を使って、バラバラに散らばっているお客さまのコージェネに制御の指令を出したとします。もしこれらのコージェネが一斉に揃って立ち上がってくれたならば、その出力を合計すると、大きな一つの発電所のようにみなすことができるのではないか、つまり「群制御による供給力の確保」というわけです。

――それぞれの試験の結果が気になりますが、いかがですか?

松本:ひとつ目のエネルギーの融通には2つの段階があります。一つは、理想論のように「部分最適より全体最適」ということを申しましたが、まずはそれがあり得るのかを計算します。あるサイトは普段より少し多く運転する、逆にあるサイトからは少なく運転する、そして多いところから少ないところへ融通する、この方が全体としてエネルギー量が少なくなるという計算結果が出てまいりました。我々は、これをシーソーのような「協調制御」と呼んでいます。

 この場合、複数台のコージェネをお持ちのお客さまで、普段は自分のところのためだけならば追起動しなくて済む2台目のコージェネを、全体最適のためには立ち上げた方がよい、という計算結果が出てくるわけです。ただ机の上で計算はできたが、本当にその通りにコージェネが動いてくれないと全然意味のあるものにはなりません。この試験の次の段階は、計算通り、また指令通り実際のコージェネが追起動してくれるかどうかという実験も行っています。

 その結果、お客さま先のコージェネは計算通りに稼動してくれ、電気を受け入れる側のお客さまでは、自分のところのコージェネはそれほどたくさん運転しなくて済みますので運転を抑制するというデータが取れました。計算で確認し、実際のコージェネもその通り動くという二段階の試験を無事終わることができています。ゆくゆくエネファームのような燃料電池が2万台、3万台とお客さま先に入っていった暁には、それらを遠隔制御できる世の中になるかもしれません。

――どういう地域に適していますか?

松本:広域で繋ぐことができるならば、電気の融通は都市部に限らず、いろいろなコミュニティでスマートエネルギーネットワークの取り組みが可能です。すべてICTで繋ぎますので、賢く制御ができます。その際、そのコミュニティに参加しているお客さまは、ある程度需要がバラついていたほうがより効率的と言えます。なぜならば、融通しようと思ったら同じ使い道の人同士では融通が難しいからです。昼間はあまり電気を使わなくて、夕方皆さんお家に帰られる時間帯で電気をたくさん使うような一般家庭の多いエリアですと、融通がうまくいきません。コミュニティの参加者としては、ある程度違うお客さまが混在している方が、よりメリットを出せるという条件はあります。

実証事業から広がるガスの発展可能性

――都市ガス事業は、給湯や暖房、厨房のイメージが強かったですが、これからは発電分野にも広がりが出てきそうですね。

松本:我々が、お客さまに対してベストミックスの提案などができるかにかかっています。現在、国の電力システム改革の検討では、すべてのお客さまに電力の選択の自由を保証するという方向です。つまり電力の自由化・小売りの自由化がされるということです。現在は大手の電力会社だけが各家庭に電気をお届けできますが、各家庭で電力会社を選べるような制度に変わっていくと言われています。そうなると、電力、ガスに拘らずに、お客さまにとってよりよいご提案ができる事業者にならないといけないと思っています。

――いつ頃スマートエネルギーネットワーク社会は実現する見通しですか?

松本:これは難しい質問です。現在はいろんな実証がなされている段階です。具体的な実案件はまだ出てきていない状況です。より安い通信技術や、標準的な通信規格の導入の問題もありますし、何よりもエネルギー供給を融通する主体がどこなのかという問題があります。電線は電力会社、ガス管はガス会社と完全に棲み分けている状況ですので、地域としてネットワークでつながった全体を誰が供給するのかというと、エネルギー供給主体やサービス供給主体を決めたビジネスモデルを確立しなくてはなりません。

――たしかに供給主体をどこにするのかは、難しい問題ですね。その他に主だった新たな取り組みはありますか?

松本:将来的な事業の発展形のひとつとして弊社が取り組み始めたのが「デマンドレスポンス」です。節電の世の中になると、電気が足りないならば発電所を増設すればいいと、供給サイドの考え方として当然出てくるわけですが、電気が不足するのはそんなに長い時間ではありません。大型の発電所を1基作らなくても、ある時間帯のピークカットができたら、供給サイドで追加の大きな設備を持つことを回避できる可能性があります。使い方を変えていく、需要側でやり方を変えていくのです。

 その一例として、コージェネを使ったデマンドレスポンスがあります。コージェネをお持ちのお客さまがいつもより少しコージェネを運転する量を増やします。そうすると、そのコージェネのお客さまは並行して普通に電力会社さんから受電されている量が少なくて済むわけです。つまり、世の中の電力需要がピークの時ならば、コージェネを少し多く運転することで、受けなければならない電力の量が減り、電力会社さんが送らなければならない電力の量が減るので、ピークの緩和に貢献できるのではないかと考えています。

 具体的には、弊社は新電力のエネットと一緒に、エネットから電気を買っているお客さまで、かつコージェネをお持ちのお客さまとご一緒に、この取り組みを始めています。エネットから「今、電力需給が逼迫しています」という情報を私達大阪ガスが頂きます。私たちは仲介のポジション(アグリゲーター)として、その情報を複数のお客さまに「今需給が逼迫しています。コージェネの運転増加、追起動しませんか」と通信で募集をかけます。お客さまと同じシステムを共有して、システム上で行います。

 我々はお客さまにメリットをお渡ししますので、お客さまは追加コストなども考慮され、それに見合うメリットを受け取ることができると判断された場合には、「わかりました、運転を増加します」と返してくれるわけです。その複数のお客さまのコージェネの運転増加分を私たちがまとめてエネットに返す。エネットはその分だけ送る電気の量が減りますので、需給の逼迫が緩和されるという仕組みです。

――お客さまにとってインセンティブを与えて、需給のバランスを取るわけですね。

松本:その通りです。その原資はどこから出てくるのかですが、需給逼迫の頃はおそらく高い値段がついている、けれども供給しなければならないので高い値段で電気を調達して、それをお届けする、ということになります。しかし、需要サイドで工夫してくれて、送らなければならない電気の量を減らせるとなると、追加で高い電気を調達することが不要になり、コスト負担を回避できるわけです。その回避できたところを原資としまして、お客さまにメリットをお渡し、私たちやエネットもメリットが出る、ということでWIN-WIN-WINの関係になるというわけです。このような実証を今年6月から始め、現在ある程度実績が出てきているところです。

――コージェネを核としたスマートなエネルギー社会を目指す上で、普及の課題は何ですか?

松本:導入促進と稼働促進という2つの側面があります。導入促進は、やはりイニシャルの時の工事費のようなものですが、技術開発、コストダウンです。もう一つは、やはり熱をうまく組み合わせて使えるか、という点です。熱があるところでその熱を使えると、他の燃料でボイラー炊くことが回避できますので、電気と併せて熱も出てくるのを需要といかにセットして、コージェネをご提案できるかです。

 政策面でのご支援も期待したいです。例えば、デマンドレスポンスの仕組みは、お客さまは別に私達に言われなくても「今どうも節電の世の中だ、ならばこのコージェネをもうちょっと運転増加して、電気を世の中に出そう」という方が、もしかしたらいらっしゃるかもしれない。一方現在すでに、分散型・グリーン市場が創設されておりますが、運用的には少し使いにくいところがあるように思います。そこで現状ある制度のさらなる拡大や、またある程度小さい単位、あるいは節電分(ネガワット)でも買ってくれるような新しい取引市場ができると、ずいぶん後押しになるかと思います。また、ドイツではコージェネの電気もFITのように買い取ってくれる制度があると聞いています。日本でもコージェネを2030年に向けて大きく導入する目標が掲げられているわけですから、その後押しとなるような市場や買取制度の創設をぜひお願いしたいと思っています。

【インタビュー後記】
 スマートエネルギーネットワークの構想や現況のお話を伺うのは、ワクワクして楽しかったです。エネルギー自給率わずか4%に日本において、技術革新が著しい天然ガスの活用は、より高効率にエネルギーを使っていくためには、不可欠だと思っています。松本さんのストレートで飾らない言葉も心に残り、今後の取り組みにエールを送りたいと思います。コージェネレーションが核となるスマートエネルギーネットワークについて、その仕組みだけでなく、社会的意義をより多くの方に理解してもらえるようにと願います。

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