テキサス州はなぜ電力不足になったのか


Policy study group for electric power industry reform

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kWhの市場だけでなくkWの市場も必要

 対して、米国東部のISO(独立系統運用者)であるPJMでは、系統全体で確保すべき予備率を予め定め、電力小売事業者に対して、当該予備率を確保できる、即ち「自らの需要規模×(1+所定の予備率)」に相当する供給力を、事前に確保する義務を課している(供給力確保義務、他のISOでも類似の制度がある)。小売事業者は①自ら電源を保有する、②発電事業者と相対契約を結ぶ、③PJMが運営する発電設備容量市場で調達する、のいずれかの方法で、供給力の所要量を確保する。テキサスの市場では、電源は稼働して発電、つまり電力量(kWh)を産み出さなければ、収入は得られない。したがって、電源は短期限界費用による売り入札をして、とにかく電源の稼働を確保しようとする。その結果、一年の大半の時間帯で、市場の価格はピーク電源にとっては固定費が回収できない水準となってしまい、長期的に適正な予備率を維持することが出来ない。PJMの場合は、供給力確保義務が存在することで、小売事業者は、電源が発電した電力量(kWh)だけでなく、発電設備容量(kW)に対しても対価を支払う必要がある。つまり、kWhの市場だけでは回収しきれない固定費の回収をkWの市場で確保し、適正な予備率を維持しようというものである。

 テキサス州は、米国でカリフォルニア電力危機以降に自由化に踏み切った数少ない州のひとつであるが、供給力に余裕があり、カリフォルニアのようにはならないとされていた。しかし、単純なkWhの市場だけを導入したために、新設電源の採算確保が難しく、規制時代の遺産である余剰設備を食いつぶしてしまった。同じようなことは欧州の幾つかの国でも起こっており、PJMと同様の「kWの市場」の導入が検討されている。テキサス州でも同様の仕組みが検討されていくのではないか。
 日本でも、先日経済産業省が公表した「電力システム改革の基本方針」の中で、「容量(kW)の売買を行う容量市場」が検討課題としてあげられている。完全ではないにしろ、適正な予備力確保の一助に期待できる仕組みであるので、前向きに検討されることを望みたい。

kWの市場の設計も簡単ではない

 もっとも、kWの市場の設計もそれほど簡単ではない。この市場もシンプルなオークション市場としてしまうと、系統全体の予備率が義務量を超えた、つまり、設備余剰となった途端に価格が一気に下がる不安定な市場になってしまう。PJMでも様々な試行錯誤の結果、kWの価格は、実質的に市場でなくPJMが一元的に決めてしまっているのが実態であり、規制色がかなり強いものになっている。また、一部には、電気料金の上昇要因になっているとの批判もある。さらにPJMでは、供給力確保の義務量を3年先まで定めているが、日本のように電源建設のリードタイムの長い国にはこれでは不十分かもしれない。日本における検討にあたっては、こうした実情や課題に留意する必要があるし、英国、ドイツなどで進行している同様の検討をフォローしていくことも有益であろう。

(参考文献)
The Brattle Group,”ERCOT Investment Incentives and Resource Adequacy”(2012年6月)
http://www.hks.harvard.edu/hepg/Papers/2012/Brattle%20ERCOT%20Resource%20Adequacy%20Review%20-%202012-06-01.pdf

経済産業省,電力システム改革の基本方針(2012年7月)
http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/sougou/denryoku_system_kaikaku/pdf/report_001_00.pdf
 ※ P16で「容量(kW)の売買を行う容量市場」に言及

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