セキュリティに重点を置いたエネルギー政策への転換を


国際環境経済研究所前所長

印刷用ページ

基本計画ににじむ日本のエネルギー政策の苦しさ

 第一に、我が国の資源エネルギーの安定供給確保に対する制約が一層深刻化しているという認識である。アジアを中心に世界のエネルギー需要は急増を続けており、資源権益確保をめぐる国際競争は熾烈化している。一方で、資源国等における地政学的リスクは高まり、資源ナショナリズムは高揚している。その結果、資源エネルギー価格の乱高下も顕著となっており、今後も中長期的な価格上昇が見込まれる。また、テロや地震などのリスクは減じておらず、エネルギーの輸送・供給や原子力などについては一層の「安全」確保が求められる(このような指摘があったにもかかわらず、今次震災で原発の安全性が大きく揺らいだことは、極めて残念である。)

 第二に、地球温暖化問題の解決に向け、エネルギー政策による、より強力で包括的な対応に対する圧力が高まっていることである。2008 年から京都議定書に基づく第一約束期間が開始され、同年の北海道洞爺湖サミットでは世界全体の温室効果ガス排出量を2050 年までに少なくとも50%削減するとの目標で一致した。2009 年7月のラクイラ・サミットではこの目標を再確認し、その一部として、先進国全体で90 年比またはより最近の複数の年と比べて、2050 年までに80%またはそれ以上削減するとの目標が支持された。

 こうしたなかで日本は2009 年9月の国連気候変動首脳会合で、すべての主要国による公平かつ実効性ある国際的枠組みの構築及び意欲的な目標の合意を前提として1990 年比で2020 年までに温室効果ガスを25%削減することを表明した。その後のコペンハーゲンでの第15回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)で成立したコペンハーゲン合意やその後のカンクン合意に基づく中期目標の登録にも、日本は同じ目標を維持している。日本の温室効果ガスの約9割はエネルギー利用から発生するため、メタンなど他の温室効果ガスの割合が比較的大きい欧州や米国に比べると、温暖化対策の中でエネルギー政策が担う役割が相対的に大きい。

 第三に、エネルギー・環境分野に対し、経済成長の牽引役としての役割が強く求められようになったことが、最近のエネルギー政策議論の一つの特徴である。2008 年のリーマンショックを契機に世界経済は歴史的な大不況に直面し、各国は産業構造・成長戦略の再構築を迫られている。多くの国が、エネルギー・環境関連の技術や製品の開発・普及により新たな市場や雇用を獲得することを国家戦略の基軸としつつある。原子力発電やスマートグリッド、省エネ技術などの分野では、各国政府の積極的関与の下、世界規模での市場争奪戦が激烈なものとなっている。日本でも、2009 年12 月に閣議決定した新成長戦略(基本方針)において、この分野の強みを生かした産業政策が志向されている(この点に関しても、原子力発電技術の輸出については見直しが行われることになるだろう)。