ドイツが温暖化対策よりも重要とするもの
山本 隆三
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授
(「EPレポート」からの転載:2021年2月11日付)
菅義偉首相は新車販売を2035年に全て電動車にすると表明したが、欧州でも内燃機関自動車(ICE)の販売禁止に踏み切る国が増えている。
電気自動車(EV)導入に熱心だった北欧諸国に加え、イギリス、フランス、スペイン、オランダなどの主要国も禁止に踏み切る。目的は自動車部門からのCO2排出を削減することだ。
自動車が電気、水素稼働になっても、発電あるいは水素製造時にCO2を排出しては意味がない。米バイデン大統領は、50年脱炭素に先立ち35年には電源を非炭素化するとしている。一方、電源の非炭素化を進めるものの、ICEの販売禁止を打ち出していない珍しい国も欧州主要国の中にある。ドイツだ。
ドイツは気候変動アクションプロクラムの中で50年に自動車の化石燃科使用の大半はなくなるとしているが、ICE販売禁止スケジュールを打ち出していない。その理由は、欧州最大の自国の自動車産業を守るためだろう。ドイツの自動車メーカーはEV導入を加速することを決め、既に多くの車種を投入しているが、エンジン関連に多くの部品メーカーがあり、ICE禁止は国内産業に大きな影誓をもたらす。
英仏のように、温暖化第一ではなく、ドイツにとっては、まず雇用と経済が大事なのだ。温暖化対策のためとはいえICE禁止を具体的に打ち出すけわけには、まだいかないのだろう。
その視点で考えると脱原発も理解がしやすい。価格競争力がありCO2を出さない原発からの電力供給がなくても、南部工業地帯はフランスからの電力輸入で供給力を確保可能だ。
一方、原発政策が揺れ動き1989年以降新設がない国内に原発製造関連産業はほとんどない。
フランスでなく、ドイツ企業が原発製造を担っていたならば、脱原発にも異なった判断があったのではないか。経済と雇用を温暖化問題よりも優先しているドイツの姿勢を、同国と並ぶ製造業大国日本も参考にすべきだろう。