[経団連]『。新成長戦略』


International Environment and Economy Institute

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 経団連は、11月17日、「。新成長戦略」を取りまとめました。同戦略は、環境問題に対する世界的な関心の高まりや、新型コロナウイルス感染症の拡大を契機に浮き彫りになった経済格差の拡大を背景として、企業・政府がマルチステークホルダーとの「価値協創」を基軸に、「サステイナブルな資本主義」の確立に向けた取り組みを進める必要性を訴えるものです。タイトルには、これまでの取り組みに一度終止符「。」を打ち、「新」しい戦略を示す意気込みが込められています。経団連が成長戦略をまとめるのは2015年以来となります。

 「。新成長戦略」は、「DX(デジタルトランスフォーメーション)を通じた新たな成長」、「働き方の変革」、「地方創生」、「国際経済秩序の再構築」、「グリーン成長の実現」の5本柱で構成され、それぞれの側面から、2030年の未来像とその達成に向けたアクションを整理しています。

 このうち「グリーン成長の実現」に向けたアクションとしては、(1)脱炭素社会を目指したイノベーションの加速、(2)競争力ある再生可能エネルギーへの支援重点化、(3)脱炭素化と経済性を両立する原子力の活用、(4)電化率の向上、(5)グリーン成長国家連合の形成――が掲げられています。

グリーン成長の実現

(1) 脱炭素社会を目指したイノベーションの加速
 新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い経済危機に陥った2020年でも、世界のCO2排出量は前年比8%程度の減少に留まると見込まれている#45。人々の暮らしが激変するほどにまで世界経済に急ブレーキをかけても、80%、100%といった抜本的な温室効果ガス削減には到底至らないことが明らかとなった。世界の人々の生活水準向上と脱炭素社会の実現は、既存の技術と社会経済構造のもとでは両立不可能であり、イノベーションを通じた経済社会の大改革が唯一の解である。

 新政権が新たなゴールとして掲げた「2050年カーボンニュートラル」を目指すうえで、既存の取り組みだけでは明らかに力不足である。脱炭素社会への移行に不可欠な革新的技術の開発・普及を産業政策の中軸と位置付けて国家プロジェクトを立ち上げ、産学官の総力を挙げて取り組みを進める必要がある。各技術分野において明確かつ野心的な価格・性能目標等を設定したうえで、これを支える長期かつ大規模の国費投入を行っていくべきである。例えば、大容量・低価格で安全な次世代蓄電池の導入や、安価な水素の大量供給および産業プロセス・発電等も含む需要側技術の開発、電化・水素化を進めてもなお排出されるCO2を固定・再利用するためのCCUSの商用化等がテーマとして考えられる。

 経済界としては、経団連「チャレンジ・ゼロ#46等のプラットフォームも活用しつつ、ネット・ゼロエミッション技術#47やトランジション技術#48の普及・実装、およびイノベーションに取り組む企業への積極的なファイナンス等を通じた支援に取り組んでいく。政府には、経済と環境の好循環をわが国の成長につなげるべく、イノベーションに取り組む企業に対する税財政面の支援や海外への情報発信での連携、さらには海外とのイコールフッティングを含めた産業競争力確保策、規制改革など、イノベーション創出に向けた総合的な施策の展開を求めたい。

 革新的技術の開発・普及を促し、そのための投資を確保し、ひいては効率的に脱炭素社会を目指していくうえでは、わが国のエネルギーの将来像を示すことも重要である。一定の将来像が存在し、その実現に向けた政策方針が予め示されることで、各企業は一貫性ある、時宜に適った投資戦略を展開できるようになる。現状、政府が2015年に積み上げで定めた2030年度のエネルギーミックスが将来像として存在しているが、その達成に向けた道筋は必ずしも明らかではない。また、2050年等、長期の断面についても、経済・社会・技術動向の不確実性を考慮しつつ、電源立地、ネットワークインフラ、エネルギー需要、国民負担等のあり方を具体化した複線シナリオとして、ビジョンを示すことが期待される。こうした点を踏まえ、政府には、足元で検討が本格化しつつある次期エネルギー基本計画において、定量的な分析やシミュレーションに立脚した合理的な将来像、および長期ビジョンを見据えたイノベーションの課題抽出・対応策を示すことを求める。それにより、危機的な停滞を続ける電力投資をはじめ、企業が投資を決断できる環境が整えられることを期待する。

 なお、成果が上がるまでに長い時間を要するエネルギー・環境分野においては、エネルギー基本計画のみならず、地球温暖化対策計画等の各種政策文書に2030年以降をターゲットとする施策が掲げられている。それらの着実な遂行を図ることも重要である。

(2) 競争力ある再生可能エネルギーへの支援重点化
 再生可能エネルギーの利用を望む電力ユーザーが、リーズナブルなプレミアムの支払いによって再生可能エネルギーの価値にアクセス可能な市場環境の整備はきわめて重要である。ニーズの存在が再生可能エネルギーの導入拡大に資するのはもちろんのこと、投資家や取引先企業が再生可能エネルギー利用を求める動きも見られるようになっている。ESG#49重視のサプライチェーンから日本が切り離されないようにするためにも、安価な再生可能エネルギーが潤沢に供給されるよう、重点的な支援策を講じる必要がある。

 2012年に再エネ特措法#50が施行されて以来、政府はあまねく再生可能エネルギーに漫然と政策的なプレミアムを上乗せする施策を講じてきた。しかし、その国民負担は既に年額2.4兆円#51まで膨らんでおり、到底持続可能とは言えない。また、政策補助を受けた電源が大量に市場に流入することで、卸電力市場価格が下落し、他の電源の投資回収の予見可能性にも悪影響を及ぼすようになりつつある。

 こうした状況を踏まえれば、政府は、手広く再生可能エネルギー全般を支援する政策を抜本的に転換し、競争力ある再生可能エネルギーに支援を重点化すべきである。

 競争力獲得が見込まれ、かつ大量導入のポテンシャルがある電源として、例えば、調整コスト込みでも価格競争力を有する屋根置き等の太陽光や、大規模洋上風力発電などが考えられる。こうした電源の導入拡大を念頭に、地域偏在性がある再生可能エネルギー導入を促進するための送配電網の更新・増強やその監視・制御技術の導入、あるいは部品やメンテナンス等のサプライチェーン確立といった環境整備面の支援を重点的に行うべきである。なお、再生可能エネルギー由来の電気であるという価値自体は、政策によるプレミアムの上乗せではなく、非化石価値取引市場#52等を通じて評価されることが原則となる。

 同時に、事業者が将来に向けた投資を決断できるよう、国として、将来の市場規模、すなわち導入目標を示すことも重要である。事業者には、政府が提示する将来の導入目標を踏まえ、市場拡大を見据えた再生可能エネルギーの低コスト化への取り組みを加速していくことが期待される。

 経済界としては、国際的なイニシアティブへの参加も含め、各社において野心的な非化石エネルギー・再生可能エネルギーの開発・利用目標を積極的に設定し、履行していく。

(3) 脱炭素化と経済性を両立する原子力の活用
 脱炭素社会の実現を追求するうえで、原子力は欠くことのできない手段である。福島第一原子力発電所事故の教訓を活かし、最新の科学的知見を踏まえて安全確保を確固たるものとすることを大前提に、原子力を継続的に活用していく必要がある。原子力事業者と規制当局とが連携・協力して不断の安全性向上に取り組むとともに、国が前面に立って、原子力の安全確保策と国策の観点からの必要性を正面から論じる必要がある。そうした取り組みを通じて、既設再稼働・建設再開、リプレース・新増設を問わず、安全性が確認され、地元の理解が得られた原子力発電所の稼働を推進していくべきである。とりわけ、足元では既設発電所の再稼働の停滞が大きな課題となっている。わが国では建設・運転・保守を支える人材が既に枯渇しつつあり、技術とノウハウの継承が強く懸念される。取り組みの加速は待ったなしの課題である。

 将来を見据え、軽水炉の安全性向上につながる技術はもちろんのこと、安全性に優れ経済性が見込まれる新型原子炉(例:SMR#53、高温ガス炉、核融合炉等)の開発を推進することもきわめて重要である。脱炭素社会の早期実現を目指し、2030年までには新型炉の建設に着手すべく、国家プロジェクトとして取り組みを進める必要がある。

(4) 電化率の向上
 再生可能エネルギーと原子力がいずれも主に電気の形で利用されることを踏まえると、経済全体として電化率を向上させることは脱炭素化に向けた有効な施策といえる。同時に、一定の電力需要が見込まれることは、電力投資の誘因となり、電源の脱炭素化を含む電力システムの次世代化の原動力ともなる。

 政府においては、データセンターをはじめとする大規模電力需要の維持・開拓・誘致を推進するとともに、給湯・空調等、家庭やオフィスビルの電化や、運輸部門における電動化を加速していくことが求められる。影響を受けるエネルギー事業者等に対する公正な移行のための施策も含め、支援策の実施や関連制度の整備を行っていく必要がある。

 電化の推進は、自宅や職場、自家用車等、国民生活の身近にある設備等を置き換えていくことを意味する。行政や企業のみならず、国民一人ひとりが必要性を理解し、主体的に取り組んでいくことが重要である。

 経済界としては、産業プロセスや海上・航空輸送等、現時点では技術的・経済的に難しい領域の電化の実現可能性を検討・検証し、経済合理性ある技術の実装へとつなげていく。

 なお、社会の広範な領域にデジタル技術が導入されていくことも踏まえれば、今後、社会のライフラインとしての電力の役割は一層重いものとなる。政府には、高経年化設備の着実な更新等、必要な投資が円滑に行われる事業環境整備を図り、自治体・事業者等との連携のもと、電力インフラのレジリエンス向上に取り組むことも求められる。

(5) グリーン成長国家連合の形成
 気候変動問題の最終的な解決に不可欠な地球規模でのカーボンニュートラルを実現するためには、産業構造やエネルギー構造が異なるさまざまな国・地域のすべてが脱炭素社会への移行の取り組みを進める必要がある。

 政府は、わが国同様の稠密な都市・人口構造と旺盛なエネルギー需要を擁するアジア各国を中心に、ネット・ゼロエミッション技術とトランジション技術の積極的な導入を図ることによってグリーン成長の実現を目指す国家連合の形成を主導すべきである。さらに、そうした場を活用し、脱炭素化に資する幅広い技術や経済活動への資金動員を可能とする、実効ある「サステナブル・ファイナンス」#54のあり方(情報開示のあり方を含む)等について共通の考え方を取りまとめて国際社会に発信し、世界の脱炭素化をリードしていくことも期待される。これは、わが国が有するネット・ゼロエミッション技術とトランジション技術の海外展開に一層の弾みをつけることにもつながる。

 経済界としても、技術リストの提供等、わが国のトランジション・ファイナンスに関する基本方針やロードマップの検討に積極的に貢献するとともに、グリーン成長を支えるサステナブル・ファイナンスのあり方等について、アジア・欧米等のさまざまな国・地域の経済団体と連携を模索し、脱炭素社会への移行に向けた幅広い技術・活動への資金動員がグローバルに実行されるよう、ともに取り組んでいく。

45.
IEA「Global Energy Review 2020」(2020年4月)の予測。
46.
「脱炭素社会」の実現に向けて企業や団体がチャレンジするイノベーションのアクションを、経団連が日本政府と連携し、力強くPR・後押ししていくプロジェクト。
47.
温室効果ガス排出を実質ゼロにする技術。
48.
温室効果ガス排出を実質ゼロにする技術ではないが、途上国をはじめとする世界全体での温室効果ガスの大幅削減に資するもので、脱炭素社会の実現に必要となる技術。CCUSと組み合わせることで実質排出ゼロに繋げることができる。
49.
環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)への配慮。
50.
電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法。
51.
2020年度の賦課金総額。再生可能エネルギー電気の買い取りに要する額(買取費用総額)は3.8兆円。
52.
非化石電源由来の電気から環境価値を分離した「非化石証書」を売買する市場。2018年5月からFIT電源(固定価格買取制度の対象電源)について、2020年4月から全非化石電源について、取引を開始。
53.
Small Modular Reactor。小型モジュール炉。
54.
資金動員を通じて持続可能な社会を形成することを志向するファイナンス。気候変動分野のサステナブル・ファイナンスに係る経団連の考え方について、詳細は提言「気候変動分野のサステナブル・ファイナンスに関する基本的考え方と今後のアクション」(2020年10月)を参照。

 詳細は、以下のホームページを参照。

『。新成長戦略』
http://www.keidanren.or.jp/policy/2020/108.html