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中国で大規模なグリーン水素製造が始まる


YSエネルギー・リサーチ 代表


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 今年の3月7日、福島県浪江町で、世界最大級の再生可能エネルギーを活用した水素製造拠点「福島水素エネルギー研究フィールド」の開所式が安倍首相も出席して行われた。1万キロワット規模の太陽光発電からの電力で水を電気分解して水素を製造する設備が完成し、これから稼働が始まるにあたっての式典だった。水素の製造、輸送、貯蔵、利用に関わるシステム開発の拠点となる。日本が水素社会に向けて大きく踏み出したと思わせるものだった。

 この式典の1ヶ月半後の4月20日、中国のBaofeng Energy社が、中国北部の寧夏で太陽光発電による水電解水素製造プラントの建設を始めるとの発表を行った。太陽光発電の規模は20万キロワットだということだから、浪江町の設備規模の20倍であり、現時点で世界最大級の設備となる。水素製造能力は2万立方メーター/時。同社は炭坑での石炭採掘から石炭化学事業までを手がけてきたが、この水電解設備の運用によって脱石炭に向けて踏み出すとしている。建設コストは1.98億ドルということだが、中国政府の手厚い補助策がある筈だ。さらに、水素充填設備の新設や燃料電池バスへの水素供給も事業の対象になるとしている。2020年末までに稼働する計画になっている。

 世界の水素製造量(IEA:2018年)注1)は7,000万トンだが、天然ガスからの水素が石炭からのものの2倍以上になっている。一方、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が2020年1月に出した「中国の水素・燃料電池産業の動向」注2)というレポートに拠れば、2017年の中国の水素製造量は推定約2,136万トンと多いが、2016年では石炭由来が62%と圧倒的に高く、天然ガス由来は19%と低い。石炭事業者であるBaofeng Energyは、水素の製造・供給にも関わっているようだから、水電解で製造される水素へシフトさせるだけで済み、グリーン水素としての付加価値を上乗せした販売ができる可能性もある。


出典:「中国の水素・燃料電池産業の動向」2020年1月

 太陽光発電からの電力を全て水電解に消費する必要はないだろうが、可成りの量の水素需要がなければ事業として成立しにくい。同社が対象としている運輸部門について見ると、2019年末までの累計で約6,200台の燃料電池バス、トラックが販売されているから注2)、かなりの規模の水素が供給されているはずだ。2019年9月末での登録内訳も示されているが、物流車の比率がもっとも高い。省ごとの台数は広東省1,676台、上海市858台、江蘇省246台などと広域で利用されており、中国には、これら燃料電池バス、トラックへの水素供給ネットワークができていると認識できる。


出典:「中国の水素・燃料電池産業の動向」2020年1月
内訳は物流車が2230台、バスが1285台、乗用車が3台。

 中国で走行している燃料電池バスとトラックの画像をご紹介する。


山東省済寧の燃料電池バス
出典:http://www.chinabuses.org/news/2019/1113/article_11967.html


燃料電池トラック
出典:https://www.ballard.com/markets/truck

 そして、燃料電池バス・トラックに加えて、日本ではまだ見られない燃料電池路面電車が2019年末の時点で3つの都市部、山東省 青島 と河北省 唐山、広州 仏山で走行している。


広州 仏山で走り出した燃料電池路面電車
出典:https://www.railwaygazette.com/modes/foshan-welcomes-hydrogen-fuel-cell-tram/55268.article

 バス、トラック、路面電車に使用されている燃料電池は、カナダのバラード社などの技術を導入して製造され、トヨタ自動車も支援している。水素の利用によって都市部の大気汚染を確実に抑制でき、再エネ電力による水電解からの水素利用が増大すれば、地球温暖化ガスであるCO2の排出量が世界で最も多い中国への批判を和らげることにもなる。また、送電系統容量の不足から、風力・太陽光発電の拡大が難しくなっているのを解消できるかもしれない。今後の動向を見守る必要があるだろう。

注1)
The Future of Hydrogen, Report prepared by the IEA for the G20, Japan
https://webstore.iea.org/download/summary/2803?fileName=English-Future-Hydrogen-ES.pdf
注2)
「中国の水素・燃料電池産業の動向」2020年1月
https://www.nedo.go.jp/content/100902859.pdf