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大風呂敷の欧州グリーンディール?


読売新聞編集委員


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 欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は、発足までに紆余曲折があったが、26委員の欧州議会の承認を終え、ようやく昨年12月1日に発足した。すでに委員長は、ドイツのウルズラ・フォンデアライエン前国防相が昨年7月、承認を得ており、彼女が任期である2024年までの政策の柱として打ち出したのが「欧州グリーンディール」である。
 この政策は、2008年11月に当時のオバマ米大統領が打ち出した「グリーンニューディール」を念頭に置いているのだろう。遡ればかつての米国のニューディール政策がある。大規模な公共投資で気候変動対策を進めるとともに、再生可能エネルギー関連を中心とした新産業の成長を後押しすることを狙っている。
 「欧州グリーンディール」は昨年7月、彼女が委員長への選出を訴える欧州議会演説の中で言及された。その内容は、 ①2050年までに欧州を気候中立(温室効果ガス排出実質ゼロ)達成の最初の大陸とする②2030年までの40%温室効果ガス削減目標は十分ではなく、50-55%に引き上げる③EUは国際社会の議論を主導する④最初の「欧州気候法」を提案する⑤これらの目標を実現するために持続可能な1兆ユーロ(約120兆円)の欧州投資計画を提案する――だった。
 すでに欧州委員会は2011年3月、「低炭素経済ロードマップ2050」を発表し、2050年までに温室効果ガスを1990年比80~95%削減するためのシナリオを発表している。また、周知のように2015年12月のパリ協定で、21世紀後半における気候中立達成がうたわれている。「欧州グリーンディール」はそうした目標を上回る、野心的と言える事業である。

 「欧州グリーンディール」にはフォンデアライエン氏自身の信念に加え、環境スタンダード作りで欧州が世界を主導しようといったEUの長期的な戦略があると見ていいだろう。その後の展開を見ても、彼女が突出して進めているのではなく、少なくともEU主要国とは十分に意思疎通を図っていることがうかがえる。
 昨年12月11日、欧州委員会は、2050年までの気候中立化、2030年の40%削減目標を50-55%に引き上げることなどを内容とした「欧州グリーンディール構想」を発表した。この構想は、翌12日にブリュッセルで開かれたEU首脳会議で合意された。
 今年1月14日には、公約の通りフォンデアライエン氏が「欧州グリーンディール投資計画」と、化石燃料から再生可能エネルギーへの移行で負の影響を受ける地域の救済策である「公正移行メカニズム」を公表した。
 EUの発表に基づき、この投資計画の内容をまとめれば、以下の通りである。
 グリーンディール投資計画は、①持続可能な投資のための資金調達②機能の付与(環境投資を容易にするための制度整備)③実際的援助(計画、実行に際しての支援)の3本柱からなり、2030年までに公的、民間合わせて1兆ユーロを投資する。
 公正移行メカニズムは、次期多年次財政枠組み=EU長期予算(2021~2027年)の期間、少なくとも1000億ユーロを用意して、「化石燃料のヴァリューチェイン(この場合は炭坑や石炭発電事業)に依存する労働者やコミュニティーを助けるために」必要な投資を作り出す。
 財源はEU予算から25%を気候変動対策や環境政策に振り向け5030億ユーロを確保するとしているが、それだけでは十分ではないので、加盟各国の支出1140億ユーロや、投資基金「InvestEU」が欧州投資銀行(EIB)などに信用供与して2790億ユーロを確保する。これに公正移行プログラムを加え1兆ユーロとする――。
 ただ、とても大きな青写真だけに、個々の政策は果たしてどこまで現実の可能性を突き詰めているのか、特に財源のアテがあるのか、という疑問は感じる。
 私自身はその点について確固たる判断は出来ないが、ネット上に読むことが出来るいくつかのコメントは、1兆ユーロというプロジェクト規模を額面通りには受け取れない、といった疑問を提起している。
 英国の政治思想学者グレゴリー・クレイズ、イタリアのエネルギー問題専門の学者シモーネ・タグリアピエトラが連名で行っている分析は、EU予算からの支出は農業補助金なども含まれており、全てを投資と見ることは出来ない。EIBは気候変動関連の融資割合を25%から50%に引き上げることをすでに決めており、果たして信用供与がどれほど融資促進になるか不明。また各国もEUと共同支出するプロジェクトに予算を振り向けるだけで、実質的には気候変動関連支出が増えるわけではない。これでは「緑の投資の波」を引き起こすには不十分だろう――と指摘している。
 またフィナンシャルタイムズ紙(電子版)にはエネルギー専門家のニック・バトラーが、欧州グリーンディールは根本的に保護主義的、中央集権的、規制強化の政策。1兆ユーロの多くは今の開発ファンドの投資の転用であり、新規の投資額は75億ユーロに過ぎない。加盟国の拠出をアテにしているが、すでに反対に直面している――などと懐疑的に評価している。
 さらにEU各加盟国のエネルギー政策には相当な違いがあることも、EUの合意形成に影を落としている。例えば原発政策に関しては、脱原発のドイツ、オーストリアと、原発活用のフランス、フィンランド、チェコ、ハンガリーなどとは考え方に大きな隔たりがある。また国内産の石炭を主要なエネルギー源に使っているポーランドは早急な脱石炭に否定的である。ポーランドは12月のEU首脳会議の合意には加わらず、半年後の首脳会議で改めて態度を明らかにすることとした。
 このように欧州グリーンディールは、まだ大風呂敷を広げた段階という印象はぬぐえない。今後の具体的な進展を見守りたい。



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