直流社会定着に向けた動き


YSエネルギー・リサーチ 代表

印刷用ページ

 7月初めに竹中工務店が行ったプレス発表が、「竹中工務店、太陽光発電から照明へ直流給電するシステムをビルに初導入」というタイトルで報じられた。具体的な内容は、同社が独自開発したエネルギーマネジメントシステム「I.SEM」を用いて、オフィス照明への直流給電による次世代給電方式を確立し、BCP対応・デマンドレスポンス・直流給電を組み合わせたシステム「I.SEM+DCPS(Direct Current Powered Systemの略)」を、「栗原工業ビル」(大阪市北区)に初導入したというものだ。これが実証設備ではなく、施主の8階建てオフィスビルで常時利用されるものとして設置されたということは、今後、このようなビル内直流給電システムの市場が拡大するということを示唆するものだろう。

 このプレス発表資料に示されている電力のフローを見ると、直流は、太陽光発電と蓄電池(リユース)からに加えて、電気自動車からの直流と、発電機と系統からの交流電力が変換された直流があり、全部がまず直流420ボルトに取りまとめられる(なお、竹中工務店は今年の2月に燃料電池自動車からビルへの電力供給の実証試験に成功したと発表している)。この直流が直-直変換で直流100ボルトに降圧され、直流分電盤を介して各階のLED照明設備に結ばれている。この直流仕様のLED照明設備は、パナソニックに依頼して新規開発して貰っている。LEDは直流3ボルト前後で発光するが、おそらく市販のLED照明の交流100ボルト仕様に内装されている交-直変換機を、直流100ボルト対応の直-直変換機に取り換えて、3ボルトほどに電圧を落としているのだろう。また、照明のオンオフに必要なスイッチは直流仕様のものになっているはずだ。オフィスで使われる照明に消費される電力の需要変動に応じて、エネルギーマネジメントシステム「I.SEM」が電源の制御をするが、直流電力を直流のまま給電したことにより、従来生じていた「直流→交流→直流」の変換による電力ロスを定格時約10%低減することができるとしている。


出典:竹中工務店の発表資料
https://www.takenaka.co.jp/news/2019/07/01/index.html

 この新設されたビルでは、LED照明設備だけに直流が流されているが、直流420ボルトから減圧した直流を、パソコン、サーバー、オフィス機器、テレビ、冷蔵庫、調理器具、空調機などで利用できるようにすることは可能だろう。というのは、これら電気機器の内部では全て直流が使われているからだ。竹中工務店に問い合わせてみたが、直流が直接使える電気機器が市販されていないので、今回は照明だけになったということだった。電気機器の内部で使われている直流電圧は様々であろうが、近い将来進展すると予想される建物内供給電力の直流化に備えて、各種の電気機器が直接外部から直流を取り込むことができる端子を備えるなどの対応を進めることが必要ではなかろうか。

 エネルギー消費の効率化が重要な政策課題となっている今、オフィスビル、マンション、住宅などに直流給電を普及させれば、太陽光発電や蓄電池、燃料電池との相性が良いこともあり、建物分野での電力消費を大きく削減できるだろう。ただ、直流の利用には、漏電や感電のリスクが交流より高いという課題もあり、接続端子、スイッチ、配線設備などの安全規格、標準規格の設定を急ぐ必要がある。国際規格の検討も進んでいると理解しているが、早期に具体的な規格を導入すべきだろう。前々回に紹介した半導体変圧器のような技術開発が進展することも相俟って、直流社会が地域から生まれて拡大し、エネルギー消費効率向上に貢献すると確信している。