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燃料電池駆動の列車(3)


YSエネルギー・リサーチ 代表


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 前回のコラムで述べた鉄道総研の開発の現状から見て、燃料電池駆動の列車が日本で実用化されるまでにはもう少し年数が必要だろう。燃料電池本体を国産に変更して欲しいとは思うが、これが実用化の大きな障害になることはなかろう。JR東日本とトヨタとの事業提携が、実用化を早めることになるかも知れないという期待もある。一方では、日本の鉄道電化率が67%ほどということから、電化や燃料電池駆動列車の普及を促進する緊急性はないという考え方もありうる。しかし、地球温暖化対応が求められる中、化石燃料を使うディーゼルエンジン駆動の妥当性が問われるようになり、路線の電化と並行、あるいは先行して、燃料電池駆動列車の実用化も進展するのではなかろうか。

 日本の鉄道の電化率を地域別に見ると偏りが大きい。最も低いのが22%弱の北海道、それに次いで低いのは四国の33%だ。JRの長距離列車は、電化区間もディーゼル駆動で走行している事例も少なからずあり、大気汚染の低減、静粛化、そして、化石燃料消費量の削減効果の大きさからすると、燃料電池駆動に切り替える必然性は高くなるだろう。また、路線電化を進めるには、架線や送電線、変電設備など電力供給関連の大きな投資を短期間で行わなければならないのに対し、燃料電池駆動列車の場合、通常の電気モーター駆動の列車に比べて車両製造コストは大きくなるものの、列車と水素燃料供給設備へ順次投資することになり、普及が進めば、車両や水素供給設備の製造コストも下がるはずだ。一挙に投資する必要がないのは大きな利点となり得る。

 燃料電池駆動列車の場合、高圧で備蓄された水素を供給する必要があるが、それをどこから調達するかが一つの課題となる。先に紹介したドイツの事例でも、水素の調達についての説明はなかった。おそらく当面は副生水素など化石燃料を起源とするものを使い、将来的には再生可能エネルギーで水を電気分解して得られる水素に切り替えていくのだろう。同じことが日本についても言える。今年の8月に発表されたNEDOのプロジェクトだが、福島県浪江町で、世界最大級の規模を誇る再生可能エネルギーを利用した水素製造システムの建設がスタートしている。2019年秋の完成を目指しており、2020年7月までにシステムの実証運用と製造した水素の輸送を開始する予定になっている。隣接する太陽光発電と系統からの電力を用い、1万kWの水素製造装置により年間最大900トン規模の水素を製造し、貯蔵・供給するということだ。


完成設備のイメージ図(NEDO資料)
http://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101007.html

 北海道の鉄道路線電化率は22%。この地域、特に北部は風力発電の適地である。その利用促進のために、資源エネルギー庁の採択プロジェクトとして、稚内から南部に向けた77.8キロメートルの高圧送電線敷設が今年10月に着工され、大規模な蓄電池も併設されることになっている。風力発電の総連系定格容量は約600MWということだから、蓄電効果の出せる大規模な水素製造プラントを併設し、ここからの水素を、まだ電化されていない稚内からの鉄道路線を走る燃料電池駆動列車に供給することも構想できるだろう。

 同様のことが言えるのは九州である。今年の秋に入って、電力需要が落ちる土日に、九州電力は太陽光・風力発電出力を抑制せざるを得なくなっているが、水素製造設備を設置して余剰分の一部を消費できれば、抑制量を小さくしながら送電系統の安定化にも資することができる。そして、ここで生産される水素を九州で走る燃料電池駆動の列車に供給する、ということだ。四国もこの範疇で導入を検討できる。

 鉄道総研が2019年度に予定している走行試験が順調に進み、そこで確立された技術が早期に鉄道車両メーカーへ移行して、燃料電池駆動列車の実路線走行が2~3年の内に実現することを期待している。2両編成の列車を駆動する燃料電池の出力は300kW程度だと想定されるが、何両編成で1日に何本走行するかによって、高圧水素の製造・貯蔵設備の規模が決まるだろう。また、どれ程の水素が消費されるかなどの条件によって、路線沿いで製造するのか、遠隔地から調達するかなどが決まる筈だが、他のプロジェクトとの連携も念頭に、導入を具体化してほしいと考えている。地球温暖化対応として国の支援が必要なのは言うまでもなかろう。