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カーボンゼロ社会への布石を打つ

山梨・米倉山の水素・燃料電池研究開発拠点を訪ねて


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授


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(「月刊ビジネスアイ エネコ」2018年11月号からの転載)

 山梨県甲府市の南部、米倉山にある水素・燃料電池の研究開発施設を先日、視察してきました。同県内には、燃料電池関連の最先端の技術開発を行っている山梨大学などの研究開発拠点があり、同県は水素ステーションの誘致や燃料電池自動車(FCV)の普及促進を図りながら、水素・燃料電池産業の集積地「やまなし水素・燃料電池バレー」の実現に向け、積極的な取り組みを進めています。

10年前から始まった構想

 同県は、「山梨燃料電池実用化推進会議(現:やまなし水素・燃料電池産業化推進会議)」を2009年に設立し、水素・燃料電池バレーの実現に向けた取り組みの方向性について意見や情報交換を行ってきました。15年には、県内の関係機関からなる「やまなし水素・燃料電池ネットワーク協議会」を設立し、産学官が連携した取り組みを推進しています。「水素エネルギーの利用拡大」「CO2フリー水素サプライチェーンの構築」「水素・燃料電池関連産業の振興」が2030年度に向けた取り組みの柱となっています。
 山梨県内には現在、商用水素ステーションとして2016年2月にオープンした「イワタニ水素ステーション甲府」がありますが、「山梨県燃料電池普及促進計画」(14年7月策定)に基づき、水素ステーション整備設置事業費補助金として、整備費の4分の1(上限9500万円)、土地賃借料の全額を10年間助成し、事業者の誘致を進めたものです。
 普及初期段階の需要を喚起するため、FCV購入者への助成制度も創設し、10台を対象に1台あたり50万円の補助を行い、県の公用車としてもトヨタ自動車のFCV「MIRAI(ミライ)」を3台導入しています。15~25年にかけて、FCV800台、燃料電池バス(FCバス)10台を県内に導入する目標を掲げています。

米倉山の研究開発拠点

 今回は、トヨタのFCバス「SORA」に試乗し、米倉山にある水素・燃料電池関連の研究開発施設を訪ねました。ここには、P2Gシステム(再生可能エネルギーの電力を水素に変換、貯蔵、利用する技術)の開発や、水素ステーションの安全運用技術などの拠点が集まっています。
 山梨県は全国有数の日射量を誇ります。その地域特性を活かし、米倉山で1万kW(10MW)の大規模太陽光発電所を同県と東京電力が共同で運営しています。
 この発電所に隣接する県営のPR施設「ゆめソーラー館やまなし」(写真1)には、大型モニターによる情報展示やマルチスクリーンシアターがあり、次世代エネルギーや地球温暖化対策について楽しく学べるようになっています。PR施設は、再エネの導入拡大に向けた、出力変動抑制技術などの研究開発拠点と位置づけられています。

写真1 「ゆめソーラー館やまなし」の外観=山梨県甲府市

写真1 「ゆめソーラー館やまなし」の外観=山梨県甲府市

 また、PR施設内で使用するエネルギーは自給自足で賄っています。冷暖房には、地中熱ヒートポンプ(地中から熱エネルギーを集め、冷暖房などに利用する技術)が導入され、電力は屋上に設置した太陽光パネル(20kW)や雨水を利用した小水力発電でつくった電力を利用しています。太陽光は季節や時間によって発電量が変動するため、安定的に電力を確保する手段として、バッテリー蓄電のほか、余剰電力を利用し水電解装置で水素をつくって貯蔵し、必要な時に燃料電池で電力をつくっています(写真2)。

写真2 「 ゆめソーラー館やまなし」内の燃料電池などの装置

写真2 「 ゆめソーラー館やまなし」内の燃料電池などの装置

 PR施設の裏手では「P2G(Power to Gas)技術開発事業」が行われています(写真3)。これは、山梨県、東レ、東京電力ホールディングス、東光高岳の4者が連携し、CO2フリーの水素エネルギー社会実現を目指すための事業です。この事業は16年8月、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託事業「CO2フリーの水素社会構築を目指したP2Gシステム技術開発」に採択されました。

写真3 P2G 技術を開発するための実証施設

写真3 P2G 技術を開発するための実証施設

 プロジェクトの目的は、天候や時間によって出力が変動する太陽光発電の電力で年間45万m3(計画値)の水素を製造、貯蔵、利用するPower to Gasシステムの確立を目指すことです。今年6月に稼働した実証施設は、太陽光パネル(出力35kW)、固体高分子型水素発生装置(定格25kW)、水素吸蔵合金タイプの水素タンク(最大52Nm3、定格40Nm3)、純水素型燃料電池システム(定格5kW×3台)、水電解装置用電源(定格25kW)などからなっています。
 現在、水電解装置の大面積スタック評価試験を行っており、19年度には、隣接する太陽光発電所(10MW)と連携し、1.5MW級の水電解装置の開発に取り組む予定です。21年度には、純水素燃料電池を使って工場やスポーツ施設などに電力と熱を供給する実証試験を開始する計画となっています。

HySUT水素技術センター

 PR施設から5分ほど歩いたところに、HySUT(一般社団法人・水素供給利用技術協会)が運営する「水素技術センター」(写真4)があります。HySUTは、NEDOの「水素利用技術研究開発事業/水素ステーション安全基準整備に関する研究開発/実環境下における安全運用技術の研究開発」事業の委託を受け、研究開発を行う施設として同センターを建設しました。

写真4 水素技術センター

写真4 水素技術センター

 同センターは、高圧水素圧縮機、水素を蓄えておく蓄圧器ユニット、水素を車両に供給するためのノズルを備えたディスペンサー、冷凍機、水素受入設備などからなり、充填圧力87.5MPaにも対応可能な標準的なオフサイト型(ほかの基地でつくった水素を受け入れて供給するタイプ)の水素ステーションとなっています。
 このプロジェクトでは、「水素ステーション用設備・部品の実証」「充填プロトコルの実証」「連続充填の実施による氷結発生の有無の検証」「低コストステーション技術の安全性の検討」などの項目について、17年12月から実証を行っています。
 今年7月に閣議決定された第5次エネルギー基本計画では、水素社会の実現に向けた取り組みの抜本強化が打ち出されています。山梨県の取り組みが、分散型エネルギー社会の構築やカーボンゼロ社会への布石になることが期待されます。



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