「地層処分」って何?(1)

~「誰がなぜゲーム/地層処分場版」で考えよう~


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 関西経済連合会は、昨年夏、エネルギー政策や環境問題に関する理解の促進と情報普及を目的として、若い世代や女性を対象としたアクティブラーニングのプログラムを立ち上げた。温暖化対策やエネルギーミックスなどについて、日常的に触れる機会の無い方々にも、様々な角度から考えるきっかけを提供している。
 今回は、そのプログラムの一環として実施した「誰がなぜゲーム/地層処分場版」で考える高レベル放射性廃棄物の地層処分セミナーについて紹介しよう。
 「高レベル放射性廃棄物の地層処分」は、わが国のエネルギー政策における重要課題の一つである。にもかかわらず、自身の業務や会社の事業に全く関連の無い参加者からは、「『地層処分』という名前も聞いたことがなかった。」との反応が多くみられた。そこで、本稿では、地層処分について考える機会の無い方々に向け、この問題を考える機会を提供すべく、基礎的知識の整理から始めることとしたい。

(i) 地層処分って何?

 関西エリアで福井県の原子力発電所から初めて電気が届けられたのは、1970年に遡る。当時開催された大阪万博では、関西電力の美浜発電所1号機から原子力の電気が試送電されたことを知らせるメッセージが電光掲示板に表示され、話題になった。それ以来半世紀、原子力はエネルギー供給のいわば屋台骨として、わが国の産業活動や国民生活の基盤を支えてきた。
 同時に、この50年にわたる原子力発電所の稼働によって、使用済み核燃料が、原子力発電所の敷地内などに一時保管されることとなった。これら一時保管される使用済み核燃料は、その95%が再利用できる。資源の乏しい日本では、使用済み核燃料をリサイクル(再処理)する方針である(核燃料サイクル政策)。再利用後にも、放射能レベルの非常に高い成分(廃液)が5%、なお残される。この5%の廃液をガラスと混ぜ合わせて固化したもの(ガラス固化体)を「高レベル放射性廃棄物」と呼ぶ。「高レベル放射性廃棄物」は、その名の通り放射能レベルが非常に高いため、その処分方法として、地中深くに埋設して人間の生活環境から長期(数百~数万年)にわたり隔離する「地層処分」が世界的に共通した考え方とされている。

図1(出所:経済産業省資料)

(出所:経済産業省資料)

 日本では経済産業大臣の認可法人として、電気事業者等により「原子力発電環境整備機構(以下NUMO: Nuclear Waste Management Organization of Japan)」が設立され(2000年)、これが実施主体として地層処分事業を進めることとされている。
 NUMOによれば、わが国において原子力発電所の敷地内などで一時保管されている使用済み核燃料は現時点で約18,000トン、今後これをリサイクルした場合、既にリサイクルされた分も合わせ、約25,000本の「ガラス固化体」が発生するという。そのため、NUMOは、将来的に40,000本以上のガラス固化体を埋設する 「地層処分場」により最終処分することを使命としている。
 では、この「地層処分場」をどこに建設すればいいのだろうか?
 地層処分場の立地は、各国共通の課題として国際的に研究・議論されてきた。日本では2000年代に入り、調査受入れ自治体の公募が開始された。しかし、正式に応募した高知県東洋町では、その後、調査受入れの賛否をめぐって町が二分する論争に発展し、最終的に応募は取り下げられた。それ以降、現在まで応募した自治体はなく、地層処分場の立地調査(文献調査)の実施に至った例はない。

図3(出所:経済産業省資料)

(出所:経済産業省資料)

 他の国々でも地層処分場の立地は必ずしも順調に進んでいるわけではなく、苦労し悩みながら取り組んでいるのが現状である注1)。例えば、米国・ドイツ・英国は、一度は処分場の候補地や調査対象地域を決めたものの、その後に撤回し、改めて政策や進め方などを見直している。処分地の決定に至ったフィンランドやスウェーデンでも、過去には調査対象地域の住民から反対運動が起きるといった苦労もあり、処分場の決定までには実に20年近くの歳月を要している。

図3(出所:経済産業省資料)

(出所:経済産業省資料)

(ⅱ) NIMBY(Not In My Back Yard)問題

 地層処分場は、公共の利益、即ち国全体の公益のために必要な施設である。そのことは理解できるが、その反面、「我が家の裏庭にはお断り」という反応も招きやすく、所謂、NIMBY(Not In My Back Yard)問題の一つと言われる。この「NIMBY問題」という言葉は、1980年のアメリカ原子力学会で、Walter Rogersが、原子力発電の恩恵は享受しながらも、近くに建設されることには反対する人々に向けた発言に由来するとされる注2)
 身近な地域における原子力発電所やごみ処理場などの立地を、一人一人が自分の利益を守るために拒絶した結果、どこにもこれらの公共施設が建設できず、結果として公益そのものが実現できなくなり(即ち公共の利益を損ねてしまう)、結局みんなが困ってしまうというジレンマが、NIMBY問題の構造である注3)。NIMBY問題の解決が難しい要因としては、当該施設が立地地域の少数者に及ぼす影響は直接的で目に見えやすいのに対し、公益を得る広範な多数者への影響は間接的で目に見えにくいという構造であることも一つに挙げられる注4)
 なかでも地層処分場は、例えば米軍基地や刑務所といった他のNIMBY問題と比べて、立地が最も難しい公共施設とされる注5)
 地層処分の難しい点は、数万年という超長期の時間軸でリスクを考えなければならないことである。具体的には、初期の文献調査開始から処分場の立地、高レベル放射性廃棄物の搬入、管理の安全確認を経て、処分場を埋め戻して閉鎖と、ここまでのプロセスはおよそ100年にも及ぶ。その後、人間の管理を離れた後も、数万年に及ぶ超長期的な安全性の確保が必要になる。長期的な視野で捉えない限り、公共の利益や損失が見えにくいことに加え、長期スパン故に、現世代だけで決断しにくい、世代を超えた責任をどのように果たすかといった世代間の倫理的な問題も、地層処分場の立地に向けたハードルが高い要因の一つに挙げられる。

図4(出所:NUMO資料)

(出所:NUMO資料)

図5(出所:経済産業省資料)

(出所:経済産業省資料)

 このように地層処分場は、立地地域の住民と公益を得る国民多数者という地域間の問題に加え、現世代と将来世代という世代間の責任を問う点で、他のNIMBY施設よりも難易度が高い問題であると言える。
 現在、原子力発電所などに一時保管されている使用済み核燃料は、人間の手で管理されており、まずコストの問題が生じる。加えて、地上での管理は、地下でのそれと比較して、建物や保存容器の劣化・腐食、あるいは地震や津波といった災害の影響も含め、安全上のリスクが大きい。使用済み核燃料を地上で長期にわたり保管し続けることは、コストとリスクの両面で負担が増加する。原子力発電による利益を享受した現世代の責任として、将来のコストとリスクを低下させ、問題を先送りせず、この課題に向き合い、解決に向けて一歩一歩進めることが重要である。
 そこで、我々現世代の一人ひとりが、地層処分について考えるきっかけとして、今回、関西学院大学社会学部教授の野波 寛氏による「誰がなぜゲーム/地層処分場版」を実施した。

注1)
「諸外国での高レベル放射性廃棄物処分」((公財)原子力環境整備促進・資金管理センター)
http://www2.rwmc.or.jp/
注2)
Burningham et al.(2006). The limitations of the NIMBY concept for understanding public engagement with renewable energy technologies: a literature review.
http://geography.exeter.ac.uk/beyond_nimbyism/deliverables/bn_wp1_3.pdf
注3)
野波寛 (2017). 「“誰がなぜゲーム”で問う正当性:職場,学校,原子力施設から国際関係まで,『誰が決めるべきか』を考える模擬体験」ナカニシヤ出版
注4)
同上
注5)
Easterling, D. (2001). Fear and Loathing of Las Vegas: Will a Nuclear Waste Repository Contaminate the Imagery of Nearby Places? In J. Flynn, P. Slovic & H. Kunreuther (Eds.), Risk, Media and Stigma: Understanding Public Challenges to Modern Science and Technology. VA: Earthscan Publication Ltd.

次回:「地層処分」って何?(2)~「誰がなぜゲーム/地層処分場版」で考えよう~



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