パリ協定の展望と気候関連財務情報開示

~企業のリスクとチャンス~


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 関西経済連合会 地球環境・エネルギー委員会は、アジア太平洋研究所と共催で、東京大学公共政策大学院教授/アジア太平洋研究所上席研究員/国際環境経済研究所主席研究員の有馬純氏をモデレーターとして、年4回程度のセミナーを開催している。今回は、「パリ協定の展望と気候関連財務情報開示~企業のリスクとチャンス~」をテーマとした、東京海上ホールディングス事業戦略部部長兼CSR室長の長村政明氏による講演、および同氏をパネリストに迎え行ったパネルディスカッションの概要を紹介したい。
 本題に入る前に、マクロ視点から本テーマを整理する目的で、関連する用語等について、概念図を用いて俯瞰する。企業のステークホルダー(株主、従業員などの企業の利害関係者)の意識や行動は常に変化するが、最近では、企業の目的、あるいは投資を行う基準として、2015年9月に国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」や、投資の際に環境・社会・ガバナンス(企業統治)といった非財務情報を考慮する「ESG投資」の利用が世界的に拡大している。また、SDGsへの取組みが、ESG投資の評価軸の一つとしても活用される動きも注目されている。

企業の投資機会と事業機会の概念図(出所:筆者作成)

(出所:筆者作成)

 SDGsの達成のためには、「経済成長」、「社会的包摂」、「環境保護」の3つの主要素を調和させることが不可欠とされており、更にもう一つの捉え方においても、5つのP、即ち「人間(People)」「豊かさ(Prosperity)」「地球(Planet)」「平和(Peace)」「パートナーシップ(Partnership)」という重要な要素が含まれている注1)。従って、SDGsにおいては、気候変動問題は全体の中の一つの要素として位置づけられており、地球温暖化対策を考えるにあたっては、全体との調和が重要である。
 気候変動問題そのものを扱った枠組みとしては、2015年12月にCOP21で採択され、2016年11月に発効した「パリ協定」があり、現在、詳細ルール作成の議論がなされている。一方、金融セクターにおいても、2015年4月、G20財務大臣・中央銀行総裁会合が金融安定理事会(FSB)に対して、気候変動問題が金融セクターに及ぼす影響について検討するよう要請したことを契機に、同年12月、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD: Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」が設立された。

気候変動問題に関する、企業の投資と事業に関する概念図(出所:筆者作成)

(出所:筆者作成)

 なお、TCFDは気候変動問題そのものを扱う国連気候変動枠組条約(UNFCCC)や同枠組締約国会議(COP)とは別の枠組みであり、気候変動問題そのものを議論するのではなく、気候変動がもたらす将来の社会の変化に備える適切な金融市場を形成するため、情報開示を通じた透明性の向上により、金融市場の資本配分の効率性や経済の安定性を高めることを目的としている点に留意が必要である注2)
 現在の日本において、TCFDは、ESG投資ほど認知されていない。しかし、中長期的にみれば、このTCFDの動向は、エネルギーや環境に関わる企業にとって、リスク・チャンスの双方ともに大きなインパクトを与えるであろうことから、以下に、有馬教授と長村氏の講演およびパネルディスカッションの概要を紹介する。

(i) COP23を含む最近の国際動向(有馬教授の講演から)

 パリ協定は大枠だけを定めたものであり、具体的な実施のためには、詳細ルールおよびガイドライン作りが必要になっている。今年ポーランドで開催予定のCOP24ではその詳細ルールの合意が期待されている。昨年ドイツで開催されたCOP23では、先進国・途上国で差別化されたレビューメカニズムを主張する途上国と、共通枠組みを主張する先進国、資金援助にこだわる途上国と、援助の野放図な拡大を避けたい先進国との対立等、多くの争点について対立構造が根深く、各国の主張を全部連ねただけに終わった。

パリ協定に関する主な合意事項(出所:有馬教授講演資料等より筆者作成)

(出所:有馬教授講演資料等より筆者作成)

 昨年のCOP23では石炭に対する厳しい声が目立ち、英国、カナダの主導により伝統的な石炭火力からのフェーズアウトを目指すアライアンス”Powering Past Coal Alliance” が25の参加国・州により発足したが、これらの国・州は、石炭をほとんど使用しておらず、これらの国・州保有の石炭火力が世界全体に占めるシェアはわずかに2~3%程度であった。一方で、同時期に開催された東アジアサミットでは、クリーンコールテクノロジー等の化石燃料のクリーンな利用の重要性を再確認する声も聞かれた。
 各国の立場を全て盛り込んだ250頁を超える議論に対して、COP24において議長国ポーランドがリーダーシップを発揮して落としどころを見出せるかどうか。状況如何によってはガイドライン策定が来年に持ち越される可能性もある。いずれにせよ、先進国の資金援助を強化する一方、途上国が共通のレビューメカニズムを受け入れるといったパッケージでの解決が必要になるだろう。
 2050年に向けた日本政府としての「長期低排出発展戦略」に関しては、国境を越えたグローバルな削減とイノベーションを重視する経済産業省と、国内削減とカーボンプライシング導入を志向する環境省で考え方が分かれているが、来年大阪で開催されるG20までに一本化した戦略の策定を目指すだろう。日本の2050年80%削減との大きな方向性に向けて、原子力発電所の新増設を位置づけられるかどうかが注目される。G20という国際舞台で「良い格好」をし、自縄自縛に陥ることのないよう、留意が必要である。

今後の国際会議予定とパリ協定に関するタイムライン(出所:有馬教授講演資料より筆者作成)

(出所:有馬教授講演資料より筆者作成)

注1)
国際連合広報センターホームページ参照。
http://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/
注2)
気候関連財務情報開示タスクフォース(2017年6月)「気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言・最終報告書」参照。
https://www.fsb-tcfd.org/


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