Plastic China その後
-中国で「海外ゴミ」輸入禁止の動き-
青山 直樹
国際環境経済研究所主席研究員
中国で昨年、「塑料王国」(プラスチック王国)というドキュメンタリー映画が公開された。世界中から集まる廃プラスチックが汚染処理設備のない零細なリサイクル工場で処理され、中国の生活環境を脅かしている様を描いている。IEEIでも2月に小谷理事長が「Plastic China 世界中から廃プラを集める中国」と題してこの映画を取りあげている。
この映画の影響もあってのことだろうか。中国は国内の環境保護に真剣に取り組む姿勢を見せている。中国国務院は7月18日、「海外ゴミ」の輸入を禁止する「固体廃棄物輸入管理制度改革実施案」を発表した。2017年末までに生活由来の廃プラスチック、パナジウムくず、未分別の紙ごみ、破棄紡織原料等の廃棄物の輸入を禁止するとしている。
中国では規制が明文化されていても実効を伴っていないこともありがちである。しかし、環境に配慮した政策を強調した第13次五か年計画を受けて、中国は海外からの廃棄物の輸入規制を段階的に強化している。「固体廃棄物輸入管理制度改革実施案」の発表と同時に、世界貿易機関(WTO)に対し、年内に一部廃棄物の輸入を停止するとの通告も行っている。今回は本腰のようだ。
実際に輸入が禁止となった場合、廃プラスチックの輸出業者には打撃となる。同時に、中国に輸出されていた廃プラスチックが国内で処理されることになれば、日本国内のリサイクル市場にも影響が及ぶ。
特に使用済みペットボトルのリサイクル市場への影響が注目される。かつては逆有償(マイナスの価格。処理費用を支払わなければ処理できない)で取引されていた使用済みペットボトルだが、消費者、市町村の努力による分別排出の進展、単一素材の優位性や着色ボトルを自主規制する等の業界の取組により資源価値が高まり2006年を境に有償での取引が主となっている。また、一時は使用済みペットボトルの供給量に対して、リサイクル業者の処理能力が不足していたが、2002年以降、処理能力の不足は解消された。リサイクルの用途も拡大し、繊維、シートに加え、最近ではペットボトルからペットボトルへ再資源化するボトルtoボトルも増えている。
現在、日本で回収されている使用済みペットボトルは約60万トン。この約半分が海外輸出される。海外輸出分のほとんどが中国向けである。一方、リサイクル業者の処理能力は約40万トン。使用済みペットボトルという“原料”の国内向け供給は、リサイクル業者による需要に対して不足した状態が続いている。中国輸出が全面的に禁止されれば、国内の供給不足状態が解消され、逆に需要(処理能力)が不足する可能性もある。こうした需給の変化はリサイクル市場にどのような影響をもたらすだろうか。
ペットボトルのリサイクル市場では、かつて総事業費100億円の事業が破たんしたこともあった。
2000年代初め、日本ではペットボトルを化学的に分解しPET原料に戻すケミカルリサイクル事業が開始された。再生処理能力の増強とリサイクル用途の拡大のために国の補助金額40億円、総事業費100億円が投じられた。大量にローコストで調達できる使用済みペットボトルを原料にPET樹脂を製造、販売することにより収益を得る事業だったが、破たんした。その後事業は継承されている。
破たんの最大の理由は、使用済みペットボトルが中国に輸出されるようになり、国内供給量の不足と価格の上昇により原料調達が困難になったことだった。中国が廃プラの輸入を禁止すれば、日本市場の需給が緩和すると予想されるので、事業を継承した企業には朗報だろう。
ペットボトルリサイクルについては、日本が中国から輸入するPET樹脂について反ダンピング関税が検討されていることも注目される。経済産業省・財務省は8月4日、中国産のPET樹脂が不当に安い価格で日本に流入している事実と国内企業が損害を受けている事実を確認、課税調整に入る方針を仮決定した。リサイクルによるPET樹脂はバージンのPET樹脂よりも安価に販売されることが一般的である。反ダンピング関税が実施され、バージンのPET樹脂の国内価格が上昇すれば、リサイクル製品の価格競争力にプラスの影響が生じることになる。