太陽光パネルで“国境の壁”

トランプ大統領は再エネが好き?嫌い?


国際環境経済研究所所長、常葉大学経営学部教授


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(「月刊ビジネスアイ エネコ」2017年8月号からの転載)

 大統領選期間中のトランプ米大統領は、再生可能エネルギー(再エネ)に常に批判的だった。太陽光発電については、コストが高いことを大きな欠点と指摘。風力発電については外観が醜く、騒音の問題があるとしており、英スコットランドに所有しているゴルフコースの近くに建設予定だった風力発電設備を対象に建設差し止め訴訟を起こしたほどだ。
 そのトランプ大統領が最近、太陽光パネルについて前向きな発言をしたと話題になった。選挙期間中から約束していたメキシコ国境の壁を太陽光パネルでつくると、6月21日に開催されたアイオワ州での集会で発言したのだ。
 国境の壁建設については、議会の承認待ちだった2017年予算(2016年10月~2017年9月)に当初必要な30億ドル(3300億円)を盛り込むことをトランプ政権は要求した。しかし、民主党はもちろん、与党・共和党の一部からも壁に予算を付けることに反対の声が上がり、2018年予算案に16億ドル(1800億円)を盛り込むことで先送りされた。
 実質2200マイル(3500㎞)に及ぶ壁を建設することは現実的ではないと考える議員が多い。
 そんななかでの、太陽光パネルによる壁の建設案だが、15mの高さの壁を太陽光パネルで覆えばそのコストはいくらになるのだろうか。メキシコ国境は、太陽光パネルを設置するには絶好の場所と大統領は自画自賛したが、予算面から実現は不可能と考えられている。実際に建設されれば、皮肉なことに、太陽光パネルの盗難を防ぐために国境警備を一段と厳しくする必要があるかもしれない。
 トランプ政権が再エネで前向きな姿勢を示しているのは、唯一、国境の壁の話だけと言っていいほどで、予算案などからは再エネに極めて冷淡ともいえる政権の考えが垣間見える。

エネルギー省は再エネを分析

 米エネルギー省のリック・ペリー長官は、テキサス州知事時代に風力発電を推進したことで知られる。同州は風量に恵まれていたこともあり、全米一の風力発電州になった。2016年末の全米の風力発電設備容量8200万kWのうち、テキサス州は2000万kW以上で4分の1近くを占める。米国の総発電電力量に占める再エネの割合は8%だが、その過半は導入量が急増している風力発電が占めている。の通りだ。

図 米国の再エネ発電電力量

図 米国の再エネ発電電力量

 ペリー長官は4月14日、エネルギー長官として実質的な初仕事となる「電力市場と信頼性調査研究」と題したメモをエネルギー省幹部に送ったが、内容は再エネ推進に水を差すものだった。
 「米国の電力システムは、世界で最も技術的に進んだものだが、最近、経済さらにはエネルギー安全保障にまで影響を及ぼしかねない大きな変化が電力システム内で起きている。この変化については研究調査が必要だ」とペリー長官は述べ、「ベースロード電源は、正しく機能する電力網には欠かせない。米国は、競争力のあるベースロード電源である石炭、天然ガス、原子力、水力に恵まれ、安定的な信頼に足る電力網が形成されている。しかし、ここ数年ベースロードを侵食する動きがあると専門家は指摘している」とした。
 さらにメモの中では、「前政権により導入された石炭火力の発電量削減を目的とした重荷(規制)が経済成長と雇用を破壊している。また、他のエネルギーの犠牲のもと導入された、1つのエネルギーを推進する連邦政府の補助金が市場を破壊する効果をもたらし、適切なベースロード電源の維持に慢性的な問題を生じさせている」とも指摘し、「この分析結果が電力網を守るための政策を形づくることになる」としている。
 メモには再エネという言葉は一切登場しない。しかし、ベースロード電源を侵食する連邦補助金を受けているエネルギーが、連邦政府税額控除の対象になっている太陽光、風力発電を指すのは明らかだ。
 メモの中の分析を行っている中心人物が、再エネに否定的な見解を持つことをニューヨークタイムズ紙が報道したため、民主党の上院議員がペリー長官に対し「偏った考え方に立つ分析は米国の納税者に危害を与えることになる」との書状を送ることになった。ペリー長官は60日以内に分析を行うように指示していたが、まだ報告書は開示されていない。
 米国では再エネ政策の大半は州政府に任されている。しかし、ペリー長官は、安全保障問題を理由に州政府の再エネ政策に介入する可能性があると言われている。連邦政府の州行政への介入は、連邦法により緊急事態時には許されることになっており、過去に一度だけ介入が行われたことがある。

再エネ予算は大幅削減?

 トランプ政権の再エネに対する厳しい態度は、5月23日に発表された2018年度予算教書でも明らかになっている。連邦政府予算の決定権は議会にあるので、教書の要求がそのまま予算になるとは思えないが、教書にはトランプ政権の政策が反映されている。
 予算総額は4兆1000億ドル(455兆円)で、メディアは、健康保険、フードスタンプ(生活保護のため配布される食品購入券)、学費ローン予算の削減案を取り上げている。多くの省庁の予算が減額されているが、なかでも最大の減額幅となったのは環境保護庁で、予算額は82億ドル(9100億円)から57億ドル(6300億円)に31%削減された。
 エネルギー省の予算額は5.3%減の280億ドル(3兆1000億円)にとどまったが、これはエネルギー省管轄の原子力関係予算に配分がなされたためで、再エネ、省エネなどの予算は大きく減額か予算措置なしになった。
 例えば、エネルギー省と環境保護庁が1992年から共同で進めている省エネ製品の製造を促進するプログラム、エネルギースターに関する予算はゼロになった。今までに400以上の事業を取り上げたARPA-E(エネルギー関連先進研究プロジェクト)の予算もなくなった。また、化石燃料関係予算も大きく減額されており、二酸化炭素の回収・貯蔵(CCS)の予算は80%以上削減された。エネルギー省関係予算のうち、再エネ、省エネ、CCSなどに関する予算額はの通り。

表 米エネルギー省予算案の抜粋

表 米エネルギー省予算案の抜粋

 環境保護庁関係の予算でも配分ゼロ、廃止になる事業が多く出ている。例えば、温室効果ガス排出報告プログラムは廃止対象になっている。また、メタンなどの温室効果ガスに関する多くのプログラムも廃止対象に挙げられている。技術・科学プログラム予算は39%減。大気・エネルギー研究予算67%減、自動車燃費認証制度予算も18%減となっている。
 予算案を見る限り、トランプ政権は再エネに限らず技術開発に大きな関心はないようだ。議会が予算をどう判断するか注目される。



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