日本が学ぶべき「賢さ」を整理

書評:ケント・カルダー(著), 長谷川 和弘(訳)「シンガポール - スマートな都市、スマートな国家」


国際環境経済研究所理事・主席研究員


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電気新聞からの転載:2017年4月21日付)

 太平洋戦争の終戦から70余年。日本は今も平和を謳歌するが、北朝鮮のミサイル発射が日常的に行われ、米軍のシリア攻撃を受け中東情勢が不安定化している。国内に眼を転じれば、歴史的に例のない高齢化・人口減少の局面に入りつつあり、どうすれば生産性を高めて国力を維持できるのかが問われている。まさに内にも外にも国の生死を左右する課題が山積しているにもかかわらず、国会ではワイドショー受けする議論が延々と続く。この国の将来を憂え、ため息をついておられる方も少なくないだろう。

 太平洋戦争で完膚なきまでに叩きのめされたのが70余年前。そこから高付加価値の製造業を土台とする足腰の強い産業構造を確立し、「ジャパンアズナンバーワン」と評されたのはわずか35年前である。しかし今や1人当たりGDPでいえば主要国に大きく水をあけられている。今から35年後、2050年を迎える頃に我が国の国民が平和で豊かな生活を送れるようにするためには、少なくとも従来型の国家運営から脱却することが必要だ。

 本書はその際のモデルとなる存在としてシンガポールを採り上げたものである。著者であるジョンズ・ホプキンス大学教授であるケント・カルダー氏は日本に11年住んでいた日本通であり、また、幼少期を東南アジアで過ごしたそうで、その考察は鋭く、かつ、現実的である。マラッカ海峡という日本の資源調達にとって圧倒的な重要性を持つ地理的条件、アセアン諸国の中で最大となる100億米ドル以上の国防費を費やす防衛能力、教育と国防に予算の多くを費やす代わりに福祉のための給付や行政コストを極力抑えるメリハリのある予算運営、海外から優秀な人材をリクルートする戦略的発展計画など、日本がシンガポールを重視し、また、学ぶべき点が明確に整理されている。

 もちろんここに書かれていることがシンガポールの全てではない。同国に住む友人の言葉を借りれば「明るい北朝鮮」と評されるほど、国家の国民統制は厳しいと聞く。しかし資源の無い小国が生き残るための「賢さ」を学ぶ政策ラボとしてシンガポールに目を向けてみたいと思う。

※ 一般社団法人日本電気協会に無断で転載することを禁ず

シンガポール – スマートな都市、スマートな国家
(著):ケント・カルダー  (訳): 長谷川 和弘(出版社:中央公論新社)
ISBN-10: 4120049272
ISBN-13: 978-4120049279

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