産業競争力と再エネ導入の両立


一橋大学イノベーション研究センター教授


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 適切な環境/エネルギー政策は、それが環境/エネルギー問題の解決に寄与できるのかという技術的側面だけでなく、国民負担の少ない対策であるかという経済的側面と、長期的な産業発展を通じて富の還元をもたらすかという産業競争力の側面の3つをバランスよく実現する必要があります。温暖化対策、エネルギー自給率向上のために、日本が再エネの導入を進める必要があることは確かですが、適切な方法で導入を進めることが大事です。
 2012年7月に施行された固定価格買い取り制度(FIT)の調達価格が議論されている頃から私は太陽光発電(PV)に対する高い買い取り価格に反対していました。PVは筋の良い技術だと思いますし、FITそのものが問題だとも思いません。ただ高すぎる調達価格は、一時的に国内産業の保護するものの、長期的には産業競争力に悪影響を与えます。当初40円/kwh(+税、10kW以上)という買い取り価格でしたが、当時すでに中国におけるPVシステム単価は10〜12元/w程度でした。当時の為替レートと日本の日照条件からおおよその発電単価を計算すれば10〜12円/kwhくらいです。それを40円/kwhで買い取るわけですから市場が一気に拡大するのは当然です。
 しかし、国民負担を抑えるために、調達価格は年々低下し、一方で中国からPVセルやモジュールが流れ込み、発電設備の市場価格は低下しました。その結果、2014年に入ると、日本のPVセル/モジュール製造事業の多くが赤字に転落しました。こうした帰結はほぼ自明であったと思います。
 私はここ5年ほど中国におけるPVセル産業の発展を観察してきました。中国のPV産業の発展の根幹には、企業の枠を超えた、人材や技術、経営ノウハウの柔軟な移転と共有があります。決して政府の援助だけではありません。友人ネットワークを介して希少な資源や情報が産業内で共有され、それらが効率よく利用されるところに産業の急発展を理解する鍵があります。しかし、こうした発展は、一方で企業の同質化をもたらし、熾烈な価格競争を引き起こしてきました。
 中国企業でさえ利益がでない状況が続きました。このような国際競争を前提とすれば、高い調達価格による一時的な国内市場の拡大が、決して日本企業の競争力向上につながらないことは自明であったと思います。既に日本国内では3,000 万kWを超えるPV発電設備が導入され、系統が受け入れるには限界に近づいています。もっと経済的に日本の太陽光セル製造企業に壊滅的な影響を与えることなく導入する方法があったと思うと残念です。
 しかし、PVが筋の良い発電手段であることは確かです。既存技術でもまだコスト削減の余地があります。中国では人件費の増大にもかかわらず、多結晶モジュールで2.6元-2.9元/wまで下がっており、今後さらにウェハコストの低下が期待できそうです。
 発電コストだけみれば、日本円で10円/Kwhを下回るレベルに入りつつあります。こうなるとボトルネックとなる蓄電技術、蓄エネが鍵となります。中国では既に大規模な電池向上への投資が始まっています。米国ではテスラによるソーラーシティの買収もありました。再エネをシステムとしてどう展開するのか。日本企業はどこに位置取りをするのか。中国におけるコストダウンの状況と新技術の発展を慎重に見極め、全体観をもった対応が必要だと思います。

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