航空業界におけるこれからの環境課題


ANAホ-ルディングス株式会社 コーポレートブランド・CSR推進部

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 2015年に開催されたCOP(国連気候変動枠組条約締約国会議)21で、各国が自主的に目標を立ててCO2削減に取り組んでいくことが合意(パリ合意)されたのは記憶に新しい。ところがこの中に国際航空分野が含まれていないのはご存知だろうか?実は国際航空はその名の通り国を跨いでの交通でありCO2排出地域について特定できないことから、COP3で合意した京都議定書の範囲外と判断され(国内航空は範囲内)、ICAO(国際民間航空機関)の場で議論することが決められた。これは海についても同様で、IMO(国際海事機関)で議論されることになっている注1)
 ICAOによれば国際航空は2020年以降も4~5%での生産量拡大を予測しており、排出されるCO2も増加し、CO2削減の為の運航方式の改善、新技術、新機材の導入を図っても2050年には2020年度比で約2.5倍になると予測している。この為、ICAOは2010年の総会で2021年以降CO2排出量の上限値を設定し、それを上回った場合にはクレジットでOffsetする経済的手法を用いた枠組みに合意し、約6年かけてその具体的実施方法を各国と詰めてきた。
 前述の通り航空業界は生産量の拡大がある中でCO2排出量の上限値を設定することは、例え経済的手法でOffset可能とは言え、経営に影響を及ぼすことも想定され、航空会社にとっては非常に厳しいチャレンジとなる。ここではその経緯と今後の方向性等について紹介する。

1.経緯

 1970年代にはいると地球温暖化が深刻な問題として扱われ始め、1985年に開催された地球温暖化に関する初めての世界会議(フィラハ会議)をきっかけにCO2による地球温暖化の問題が大きく取り上げられるようになった。
 その後1992年に採択されたUNFCCC (United Nations Framework Convention on Climate Change: 国連気候変動枠組条約)に基づきCOP (Conference Of the Parties to the UNFCCC)が1995年に開催された。1997年京都で開催されたCOP3で「京都議定書」が採択され、2020年までの温室効果ガス排出削減目標を定める枠組みが合意された。COP21では2021年以降の枠組みが合意(パリ合意)され、昨年モロッコ・マラケッシュでCOP22が開催された。
 京都議定書が対象としたのは、航空については国内航空だけであり、国際航空についてはICAOの場で議論することになった。

ICAOは2010年の第37回総会にて、以下のグローバル削減目標を決議した。

2050年まで年平均2%の燃費効率改善
2020年以降、温室効果ガスの排出を増加させない(CNG2020:Carbon Neutral Growth 2020)

 上記目標達成に向け各国は次の対策を推進することも合意した

新技術の導入・運航方式の改善・代替航空燃料の活用に向けた取組み・経済的手法の確立

 2013年のICAO第38回総会ではICAO及び加盟国は夫々に対して代替航空燃料の導入促進に向けた取組みを要請する旨を決議。
 2016年の第39回総会では経済的手法の詳細(CORSIA: Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation)が合意された。

内容としては、

2021年以降2026年までは各国の自発的参加注2)とし、2027年からは後発、小島嶼、内陸開発途上国を除いた全加盟国の参加とすること
2021年以降の上限値としては2019、2020年のCO2排出量の平均値とすること
超過量に対する負担については2029年までは航空会社個社の各年のCO2排出量に応じた割り当てとし、2030年以降2035年までは各社の個別の削減努力を段階的に反映すること

が合意されたものの、使用できるクレジット等の詳細については議論中であり、2018年のICAO理事会までに決定されることになっている。

2.今後の方向性

 国土交通省は、2021年以降上限値をオーバーした場合の日本の航空会社の負担見込み額は航空会社の合計で制度開始当初年間数十億円程度から2035年には年間数百億円程度に段階的に増加するとしている。
 従ってこの負担額を下げる為にはCO2排出量の削減(=燃料削減)の為の前述の新技術の導入、運航方式の改善、燃料効率の良い機材の導入といったCO2削減に向けた弛まない努力と従来の燃料と較べてCO2排出量の少ない代替航空燃料の導入が必要となる。特に航空会社で構成しているIATA(International Air Transport Association:国際航空運送協会)では2021年以降の上限値設定の他に2050年のCO2排出量を2005年比で半分にする目標も立てており、その達成の為にはバイオジェット燃料の導入は必須となる。

(1)燃料節減
 ANAでは過去から実施してきた燃料節減を2014年4月から「グループ全社一丸」、「見える化」をキーワードに体制を刷新し、3ヵ年のプロジェクトとし取組んできた。
 本プロジェクトは、2017年3月末までの3か年の間に確実な成果を出すべく、様々なアイデアを出し合いながら地道な活動注3)に取り組み、すでに2014年度の活動を通じて、B777-200型機で羽田=大阪便 約1950往復に相当する燃料節減効果を創出した。今後とも継続した取組みにより、一層の節減が求められる。
(2)日本におけるバイオジェット燃料の動向
 2014年4月から東京大学をファシリテーターとし、ANA,JAL,日本貨物航空、成田国際空港株式会社, 石油資源開発、ボーイングをコア・メンバーに、バイオ燃料生産会社、関係メーカー、商社等の全ステークホルダーを集め次世代航空機燃料イニシアチブを立ち上げ、約1年に渡り議論した。尚、経済産業省、国土交通省、農林水産省、環境省、防衛省等はオブザーバーとして出席。次世代航空機燃料のサプライチエーン確立に向けたロードマップが作成された。
 2015年7月には、上記結論をベースに2021年以降のICAOの動きを視野に入れた国産バイオジェット燃料導入の可能性や、その活用を考慮したサプライチエーンの確立、更に2020年オリンピック・パラリンピック東京大会に合わせてバイオジェット燃料を用いたフライトの実現を目的に国土交通省、経済産業省を中心に定期航空協会、石油連盟、バイオ燃料生産会社等が参加し「2020年オリンピック・パラリンピック東京大会に向けたバイオジェット燃料導入までの道筋検討委員会」が設立され、今日に至っている。

 国内産バイオジェット燃料は2020年に向けてやっと端緒についたところで、これから生産が開始される段階である。一方海外では既に有償フライトに使用されているものの、量的にはまだ少なく2020年で全必要ジェット燃料の2%程度と予想されている。生産量を増やす中でCO2排出量を下げることが求められる中、現在の技術でその達成に寄与できるにはバイオジェット燃料しかないというのが航空業界の認識となっている。今後とも政府、民間が協力して国内産バイオジェット燃料の実現を図っていきたい。

注1)
京都議定書第2条の2「附属書1に掲げる締約国は国際民間航空機関及び国際海事機関を通じて活動することにより、航空機用、船舶用の燃料からの温室効果ガスの排出の抑制又は削減を追及する。
注2)
2016年10月22日現在で66か国が参加表明。これらのRTK(有償貨物トンキロ)ベースでのカバー率は86.5%。
注3)
例えば機材面で言えば環境性能の高い新型機材の積極的導入、運航面では省エネ降下方式の促進、着陸後の逆噴射抑制と片側エンジン停止での地上走行、地上での取り組みとしてエンジンの洗浄、機内搭載品の軽量化等

<参考文献>

(1)
全国地球温暖化防止活動推進センターHP
(2)
外務省HP
(3)
環境省HP、気候変動枠組条約、京都議定書関係
(4)
ICAO Environmental Report 2016
(5)
ICAO HP, Environmental Protection, Global Market Based Measures -CORSIA
(6)
国土交通省28年9月20日付けPress Release「国際航空分野の温室効果ガス排出削減制度への参加を決定」

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