意思疎通の難しさを笑いに変える

書評:米原 万里 著「ガセネッタ&シモネッタ」


国際環境経済研究所理事・主席研究員


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電気新聞からの転載:2016年4月22日付)

 最近、「異文化コミュニケーション」に苦労されておられる方が多いようだ。これは別に、社内公用語が英語になった、あるいは、海外取引が活発になっていることなどを意味するのではない。異文化とは「ある人が所属する文化と異にする文化」と定義されるものであり、人種、宗教、地域、言語などの相違で見られることが多いが、社会の価値観が多様化し、隣に住む人に「異文化」を感じることも増えている。電気はほしいときにそこにあるのが当たり前と思っている消費者や、電力設備という迷惑施設の立地地域住民とのコミュニケーションにおいて、暗中模索をされている方からの相談をいただくことも増え、この分野の難しさを私自身もつくづく感じている。

 そんなコミュニケーションの壁にぶつかった時にお勧めしたいのが本書だ。ロシア語通訳として活躍された米原万理氏の著書は、いずれもユーモアに満ちており、異文化コミュニケーションの難しさを笑いに変えてくれる。と同時に、具体的な手法についてのヒントにも満ちている。例えば本書所収のエッセー「三つのお願い」。貧しい夫婦の前に神様が現れ、三つの願い事を叶えてくださるというものの、願い事を的確に伝えられず結局元の状態に戻るというおとぎ話で、世界各国に同じような話があるという。相手に的確に自分の意図を伝えるというのは、思っている以上に難しい。言葉は記号にすぎず、その記号からイメージするものは人によって千差万別なのだから当然のことだ。その記号からイメージし得ることはなにか、最大限想像力を働かせて誤解の無いように記号を使わなければならない。かといって、間違いが無いように作文した文章が相手に伝わるかと言えばそうではない。笑いや感動が無いところに共感も理解も無いというのは私の年来の持論だ。

 コミュニケーション学の草分けであった伯母に以前もらった言葉がある。「コミュニケーションはキャッチボール」。相手の状況を見て、相手の捕れるところに球を投げること。相手が手を伸ばしてでも捕りたいと思う球を投げること。最も重要なのは、キャッチボールを楽しもうとする気持ちかもしれない。

※ 一般社団法人日本電気協会に無断で転載することを禁ず

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「ガセネッタ&シモネッタ」 
著者:米原 万里(出版社:文藝春秋)
ISBN-10: 4167671018
ISBN-13: 978-4167671013

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