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日本政府は米中印の動きみながら戦略的交渉を

合意のポイントは目標の法的拘束力と差異化の扱い


国際環境経済研究所理事・主席研究員


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――なるほど

 「新たな枠組みでは、各国が自主的な目標を約束(プレッジ)し、国際的にその目標を評価(レビュー)して、目標に対する野心度のアップを図りますが、中国は他国からのレビューを受けることについては拒否反応を示しています。その点、日本の経団連『環境自主行動計画』のノウハウは、新枠組みの先行モデルであり、そうした知見を持つ日本は中国に対して粘り強くPDCAサイクルの必要性を説いていかねばなりません。また、温室効果ガス排出量をきちんと計測する技術を各国に提供することも、キャパシティ・ビルディング(途上国の能力構築)の観点から大切だと思います。中国をはじめとした新興国、途上国がプレッジ&レビュー型の新枠組みに参加できるような環境づくりをすることが求められます」

経団連『環境自主行動計画』=主要産業セクターごとに最先端の環境技術の最大導入を目指して自主的な目標を掲げ、未達の場合は原因の解析と対策の積み増し、過達の場合は自主的に目標の深掘りを行うといった形で、PDCAサイクルを回すのが特徴。

――日本の約束草案(温室効果ガスを2030年度に13年度比26%削減)への見解は?

 「約束草案の根拠になっているのはエネルギーミックス(長期エネルギー需給見通し)で、そのエネルギーミックスは非常にハードルの高い目標を掲げています。まず将来見通しを立てるにあたり、経済成長率を年率1.7%に設定し、2030年のGDP(国内総生産)は13年の531兆円から711兆円へと34%拡大することを前提にしています。経済が成長すれば、エネルギー消費量も増えるのが一般的ですが、エネルギーミックスでは徹底した省エネで電力需要を17%も削減することを見込んでいます。オイルショック時並みの大幅なエネルギー効率改善を想定していて、非常に厳しい目標だと思います」

――エネルギーミックスで描いた電源構成をどうみますか

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 「総発電電力量に占める再生可能エネルギー電源の割合を22~24%としていますが、ここまで導入拡大を進めるのでしたら、まず(現行の固定価格買い取り制度よりも)費用対効果の高い普及政策に見直さないといけません。併せて技術開発でコストを下げる必要もあります。それでもなお、日本のような閉ざされた電力系統の中で22~24%の再エネ電源を入れるというのは、チャレンジングなことだと思います」
 「原子力の20 ~ 22%も相当厳しいと思っています。発電電力量でみますと、2200億~2300億kWhが必要な計算です。これは3300万kWの原子力発電所が稼働率80%で動いて可能になる数字です。すでに再稼働したものと再稼働申請中のもの、設置許可済みのものを合わせても24基2400万kWしかない現状を考えれば、この数字の達成は非常に厳しいと思います。しかも、2030年には23基(約2100万kW)の稼働年数が40年以上になります。仮に新設するにしても、電力自由化などで投資回収に不透明感が増す中、1基5000 億~6000億円といわれる原子力発電所の建設に投資する事業者がいるのか疑問です。事業の不透明感が増せば、資金調達は非常に難しくなります」

――26%削減の達成はかなり難易度が高そうですね

 「約束草案を達成するにはまず、その根拠となったエネルギーミックスを実現しなくてはいけません。しかし、前に述べたように、再生可能エネルギーや原子力発電には多くの課題があり、実現は容易ではありません。そこで重要なのは、約束草案の削減目標を何がなんでも実現しなくてはいけない“金科玉条”に祭り上げないことです。もちろん目標達成のため最大限の努力はしますが、経済情勢など国内外の環境が変化してエネルギー基本計画の変更が必要になった場合は、エネルギーミックスを見直さなければなりません。逆に技術開発などによって達成が容易に見通せるようになる場合も含めて、約束草案も柔軟に見直すような姿勢で臨むことが大切です」

―― 約束草案を見直す際の仕組みについても議論が必要ですね

 「約束草案のバックスライディング(後退)は認めないルールにしようという声も出ていますが、そうしますと新枠組みへの参加のハードルを上げてしまうことになる上、当初目標を低く設定するモチベーションを与えてしまうため、いいことだとは思いません」

――石炭火力発電についてはどのような見解を持っていますか

 「日本の高効率な石炭火力の技術は、世界レベルでの気候変動対策に役立つ技術だと思っています。たとえばインドは石炭の生産国で、石炭火力の割合が過半数(全発電設備容量の約60%)となっています。そのような国に、化石燃料の中でも温室効果ガス排出量が少ない天然ガスを輸入し、ガス火力に切り替えていきなさいといっても現実味はない。高効率な石炭火力技術の導入が現実的だと思います」



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