日本政府は米中印の動きみながら戦略的交渉を

合意のポイントは目標の法的拘束力と差異化の扱い


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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――COP21を受けた国内対策はどうあるべきなのでしょうか

 「目標達成を確実なものにするためには、政府の介入度が高い政策を求めがちですが、こうした政策はうまくいかないことが多いのです。たとえば介入度がもっとも強い政策として、政府による二酸化炭素(CO2)排出権割り当てと排出量取引がありますが、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第5次評価報告書はEU-ETS(欧州連合域内排出量取引)について、思ったほど温室効果ガス削減の効果はなかったと指摘しています。経団連の環境自主行動計画は、29業種が41回にわたって目標の引き上げを行いましたが、排出量取引は、一旦割り当てられた排出枠で余りが出れば、誰かに売っても自分が将来に使ってもよいという制度で目標の深掘りなどはありません。EUETSは現在市況が低迷していて、低炭素技術選択のインセンティブ付与にはほとんど役に立たない状況です」
 「そもそも新枠組みは自主性を重んじることが理念になっています。それを受けた国内対策が、政府からのトップダウン方式で拘束力を持つものでは理念の面で整合性がとれなくなってしまう。日本では、経団連の『環境自主行動計画』『低炭素社会実行計画』が産業界の自主的な取り組みとして省エネや温室効果ガス削減に大きな成果を上げています。国内対策は、ボトムアップ型の新枠組みとリンクする形にし、政府は産業界の自主的、主体的な取り組みを後押しするのを基本とすべきでしょう」

――COPウオッチャーとしてパリに行かれるそうですが、どういったところをみてきたいですか

 「COPの大きな論点の1つになっている途上国への技術移転と資金供与の議論がどうなるか関心があります。技術移転と資金供与は個別に議論しても意味がありませんので、どうリンクさせていくかが重要です。ただ、国連だけが地球温暖化を解決する場ではなく、いろいろなステージがあっていいと思います。途上国が気候変動対策を実施するにあたり技術と資金が必要で、その担い手となりえるのは産業界でしょう。産業界が気候変動問題に関与していくことを促すような仕組みも楽しみですね」

――なるほど。気候変動問題を解決する手段としてのCOPに限界説もあります

 「温室効果ガスは経済活動に伴って排出されます。その温室効果ガスの排出抑制はその国の経済に大きくかかわってきます。COPは“負の配分”を話し合う場といえ、貿易条約の交渉とは違って残念ながら“抜けたほうが得”という性格を持ちます。“ 負の配分”を交渉で解決するのには限界があると思います」

――交渉だけでは解決が難しいとなると、日本の環境技術への期待がより高まりそうです

 「日本の産業界が、温暖化対策に有効な環境技術リストのようなものを作成し、リストの中の技術を導入する場合は優先的にファイナンスも行われるような仕組みがつくるなどといったことも検討されるべきでしょう。官民一体となって口(交渉)ではなく手(技術)で温暖化に貢献する。これからが日本の頑張りどころだと思います」

インタビューを終えて
 「エネルギーと環境はバランスが大事」が竹内純子氏の持論だ。環境を優先するあまりエネルギー=経済活動や国民生活が犠牲になってはいけないし、経済を優先するあまり環境がおろそかになってもいけない。両立させるのは困難だけど、将来世代のことを考えながら、うまくバランスさせることが大切というわけだ。
 エネルギーと環境に通じるCOPウオッチャーだけに、メディアからの取材が押し寄せ、この時期は多忙を極めることになる。本誌インタビューの翌日は、21世紀政策研究所のシンポジウム「COP21に向けた戦略を考える」でモデレーターを務めていた。12月に入ってパリ入りする竹内氏。時間に追われる日々が続く。

(本田)

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