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二週目に入ったCOP21交渉の見方


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院 教授


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交渉二週目の交渉状況

 「COP21一週目を終えて」に引き続き、現場からの報告をしたい。5日夜のCOP全体会合で議長国フランスのファビウス外務大臣は、自らが議長となり、全ての国に開かれた交渉会合(これをパリ委員会(Paris Committee)と呼んでいる)を設置すると共に、いくつかのテーマについて閣僚2名をファシリテーターとする交渉を行うとの進め方を示したことは既報のとおりである。
 このパリ委員会は190ヶ国が全員参加する場であり、実質的な交渉の場とはなり得ない。他方、閣僚ファシリテーターによるテーマ別の交渉については5日時点で特定されたテーマ(カッコ内はファシリテーターを務める国)は「実施手段(資金、技術協力、キャパシティビルディング)(ガボン、ドイツ)、「差異化(緩和、資金、透明性)」(ブラジル、シンガポール)、「野心と長期目標(定期レビューを含む)」(セントルシア、ノルウェー)、「2020年以前の行動の促進」(ガンビア、英国)の4つであったが、7日のパリ委員会では、これに加え、「協力的メカニズム(市場メカニズム)」(カナダ)、森林(エクアドル)、「適応とロス&ダメージ」(ボリビア、スウェーデン)、「対応措置」(未定)の設置がアナウンスされた。
 閣僚レベルファシリテーターによる交渉はクローズドであるが、多くの国が一堂に会する形ではなく、閣僚ファシリテーターが各交渉グループ(あるいはその代表)と次々にミーティングを行い、各グループのレッドラインを確認しつつ、着地点を模索しているようだ。7日のパリ委員会では各グループの調整状況が報告され、本日(8日)、引き続き水面下の調整が行われる。これを踏まえ、水曜日(9日)には議長国フランスが新たな合意テキスト案を提示することになっている。先週末、ADP共同議長から提出されたテキストは多くのブラケット、オプションを含んでおり、およそ最終交渉のベースになり得ない代物であったが、フランスが提示するテキストは閣僚レベルの最終交渉のベースとなるよう、ブラケットやオプションを極限まで減らしたシンプルなものとなるはずだ。この議長国案をめぐる水曜以降の攻防がCOP21の成否を左右することになる。関係者の間では、COP21は会期末の金曜には(当然ながら)終わらず、日曜朝までかかるだろうとの見通しが囁かれている。
 今回のCOPの場合、最終成果物が法的文書になるため、法律専門家による文言チェックや国連公用語への翻訳も行わねばならない。そのためには日曜朝よりも早いタイミングで実質的な合意を得なければならないとされている。

残された論点(補足)

 前回の報告では大きな争点として、「法的拘束性の範囲」「先進国と途上国の差異化」「資金援助」の3点を紹介したが、無論、論点はこれにとどまらない。ここでは前回、深掘りしなかった、あるいは紹介しなかった論点にも触れてみたい。

(1)差異化と透明性
 まず、最後まで揉めることが確実な「先進国と途上国の差異化」である。この問題は、「京都議定書のように先進国は削減義務、途上国は義務なし」というシンプルなものにとどまらない。「先進国=義務、途上国=義務なし」といった京都議定書型の二分論では米国の参加が不可能なことは広く認識されており、現在、大きな論点となっているのは、むしろ「各国が提出した目標の事前協議、内容確認、レビューの手続きにおいて先進国、途上国の段差を許容するのか」ということである。先進国は、キャパシティ面でハンディキャップのある脆弱国を除いては、全ての国が同じプロセスを経て目標内容、実施状況の透明性を確保することを強く求めている。先月、「中国の石炭消費量が報告よりも17%も多かった」という報道が注目を集めたが、各国が目標を持ち寄る枠組みの信頼性確保の根幹は透明性の確保である。
 これに対し、途上国は自国の提出した目標に対して国際的な事前・事後レビューが入ることを「内政干渉的(intrusive)」として強く反対している。例えばADPテキストの中には全ての締約国がINDCを提出した後、最終的な目標提出に先立ってその内容確認、透明性、理解増進のためのプロセスに関する条文が含まれているが、途上国の反対により全文がブラケットに入ったままだ。
 国際的な枠組みの中で、加盟国がお互いの政策の実施状況についてレビューを行うことを「ピア・レビュー」と言い、OECD等の場では確立された手法となっている。しかし多くの途上国はこうしたピア・レビューに晒された経験が乏しいせいか、内政干渉につながるとの懐疑心を持っている。筆者は国際エネルギー機関(IEA)で国別審査課長を務め、エネルギー分野でのピア・レビューを担当していたが、このプロセスは決して内政干渉ではなく、レビュー結果についても強制力は全くない。むしろ加盟国の相互信頼向上とお互いの経験に学ぶという観点で非常に有効な手段だと考えている。だからこそIEAから帰任後、APECの場で省エネ政策レビューの立ち上げを提案し、各国の賛同を得た。
http://ieei.or.jp/2013/07/special201212027/2/
 しかし対立的な雰囲気の強い国連交渉の場では、こうしたプロセスも別な意味を持ってしまう。途上国が先進国のみに詳細なレビューを求め、自分たちについては簡易な手続きという差別化を主張する根拠は、レビューを通じて先進国に目標の深堀りや途上国支援の上積みでプレッシャーをかけようと考えているからに他ならない。レビュープロセスを他国への批判と圧力に使おうとするから自分たちがその対象となることを忌避しているわけである。レビュープロセスを協力的、促進的なものにすることが極めて重要だ。

(2)差異化と資金支援
 「差異化」のもう一つの論点は資金援助の主体を先進国から広げるか否かである。前回報告したように、先進国は資金援助の主体を「先進国及び途上国支援を行い得る立場にある国々(Developed country Parties and Parties in a position to do so)」とすることを主張しているが、LMDCを中心に途上国が資金援助主体を先進国以外に広げることに強く反対している。折衷案として「途上国支援を行うことに前向きな国々(Parties willing to do so)」という表現が浮上しているが、「in a position to do so」であれば、経済力その他の客観指標に基づき資金援助主体の拡大を確保できるが、「willing to do so」の場合、経済力があっても資金援助するかどうかは各国の意向次第ということになってしまう。資金援助主体の問題は削減目標と並んで先進国、途上国二分論の象徴的な意味を持っており、注視が必要だ。

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(3)長期目標
 2050年に向けた長期目標をどう設定するかも論点だ。現在のADPテキストではカンクン合意に引き続き2度目標が盛り込まれる見込みであるが、温度目標に加え、世界全体の排出ピーク、2050年までの定量的な全球削減目標(例えばエルマウサミットのコミュニケに盛り込まれた2050年までに2010年比40~70%削減の高い方等)、今世紀末に向けた定性的な目標(低排出転換(low carbon transformation)、脱炭素化(decarbonization)、炭素中立性(carbon neutrality)等)を加えるかどうかで意見が対立している。EUや島嶼国は上記の要素がすべて必要であると主張しているが、新興国は定量的な削減目標はもちろん、定性的な目標、特に脱炭素化とか炭素中立性といった用語についても強い難色を示している。たとえ全地球の削減目標であろうと、先進国の総量削減目標を差し引けば、結果的に途上国にとっても総量目標がかかることを強く警戒しているからだ。全球目標については筆者が交渉官を務めていたラクイラサミット(2009年)でも大きな議論になったが、新興国は頑として受け入れなかった。今回は特にインドの態度が強硬であると言われている。定量的な削減目標を入れることは無理としても、定性的な目標をどこまで踏み込んで書き込めるかが焦点となろう。「今世紀末までの脱炭素化」というスローガンはIPCCの第5次評価報告書の450ppmシナリオに依拠するものだが、筆者自身はその実現可能性には相当程度の疑問を持っている。政治家は長期目標になればなるほど野心的なことを書きたがる性癖がある(長期目標の目標年次には自分は政権の座にいないとお気楽に考えているからかもしれない)が、ひとたびそれを書けば、そこから逆算して現在の目標のレベルを評価するというトップダウンの議論につながる。長期目標であっても実現可能性のチェックや努力目標としての定性的な性格の確認が必要であろう。

(4)市場メカニズム
 日本は二国間クレジット制度(JCM)により、途上国に対する低炭素技術の移転と当該技術による排出削減の「見える化」を図っている。日本のINDCにはJCMを算入していないものの、今回の交渉では、日本と途上国の双方でダブルカウントされないことを確保しつつ、「国際的に移転される削減結果(internationally transferred mitigation outcomes)」をカウントできることを目指している。しかしEU-ETS(EU排出量取引制度)的な枠組みの世界展開を狙っているEU等は、クレジットの同質性を確保すべく、国連の下で厳格に管理された市場メカニズムを志向しており、仮に国連外の取り組みであっても国連が定める厳格なガイドラインに従うことを主張している。他方、ベネズエラやボリビアのようにそもそも排出削減を取引するという市場メカニズムの発想そのものに反対している国もある。この問題は、バリ行動計画以来、何度となく取り上げられてきたが、「反市場メカニズム国」の反対により、議論の進捗がブロックされてきた。他方、反市場メカニズム国もこのイシューを葬ることはできない。市場メカニズムを重視する国々が反対に回るからだ。いわば、ペンディング状態が続いているわけだが、COP21で決着できる可能性は低いと思われる。日本にとって最も望ましくないシナリオは、市場メカニズムは認められるが、国連の管理の下に置かれたガチガチのものになってしまうことだ。それくらいであれば、市場メカニズムについて「認める」とも「認めない」とも書いていない曖昧決着の方が望ましいであろう。

(5)知的財産権
 知的財産権(IPR)の取り扱いも火種となっている。今回の合意成立のカギを握っているインドが「IPRは技術移転の障害であり、先進国は環境技術のIPRを開放し、IPR取得のための資金援助、基金設立をすべきである」との強硬な主張を展開しているのだ。この問題の背景、問題点については、本日掲載された竹内純子研究員のCOP21参戦記(その2)に詳しい(以下URL:http://ieei.or.jp/2015/12/takeuchi151209/)。インドのモディ首相は「本件について絶対に妥協するな」と指示していると言われている。しかし、IPRについて中途半端な妥協をすれば、その適用範囲がなし崩し的に拡大し、温暖化防止に決定的に重要な革新的技術開発を阻害しかねない。我が国の将来の国際競争力、経済発展にとっても大きな禍根となる。米国等とスクラムを組み、この点については「絶対に妥協しない」ポジションを貫く必要があろう。

足元を見られていないか?

 前回の投稿で述べたとおり、今回のCOP交渉を見ていると、「とにかくまとめなければ」というフランスの強い意気込みがひしひしと伝わってくる。「合意を得るためには、なりふり構わず」という感じすらする。米国には「オバマ大統領の下で合意をまとめたい」という強い思いがある。他方、温暖化で深刻な被害を受けている脆弱国と異なり、新興国は「是が非でもまとめねばならない」という状況にはない。国際交渉の世界では、足元に火が付いた国はどうしても不利になる。先週から今週にかけての動きを見ていると、こうしたフランス、米国の「焦り」を途上国が利用しているような気がしてならない。今週に入り、フランスは閣僚ファシリテータープロセスを通じて先進国に妥協を迫っているようだ。また、目標の法的義務の回避、資金面での新たなコミットの拒否、という正真正銘のレッドラインを除き、米国代表団のポジションも軟化しているとの声が聞こえてくる。パリで合意を作ることだけを考えれば、それでもいいのかもしれまい。しかし米国が妥協を重ねるほど、交渉結果に対する米国内での受容可能性が低下していくという潜在的リスクを忘れてはならない。合意だけが目的ではない。合意内容が持続可能な形で実施されることこそが重要なのだ。
 明日フランスが提示するテキスト内容が注目されるところだ。

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