ミッシングマネー問題にどう取り組むか 第3回

再生可能エネルギー大量導入の帰結②


Policy study group for electric power industry reform


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 第2回では、FIT電気の大量導入が、ミッシングマネー問題発生の誘因となることを述べた。そのメカニズムは;

kWh市場の価格について、固定費を考慮しない限界費用による価格形成を促すこと
メリットオーダー効果
により、従来型電源のkWhの売値を引き下げるとともに、
設備利用率を低下させること
により、従来型電源がkWhを売る機会を減少させることによる。

 今回は、上記①のメカニズムを簡単な例を用いてもう少し詳しく説明する。

<前提:送配電事業者を買取主体とする>

 FIT電気の買取主体を送配電事業者とするか小売電気事業者とするかでFIT電気の取引の仕組みは異なるが、ドイツでも採用されている、送配電事業者が買取主体となる前提で、FIT電気のkWh市場への大量流入が、限界費用による価格形成を促すメカニズムを説明する。

 この場合のFIT電気の取引の仕組みを図5に示す。簡単に手順を示すと次のようになる。

送配電事業者は、FIT電気を固定価格で買い取る。
送配電事業者は、FIT電気をkWh市場(主としてスポット市場)に成り行きで売却する注15) 。言い換えれば、小売電気事業者は自己のニーズに基づき、FIT電気をkWh市場で購入する。すなわち、回避可能費用はkWh市場の価格となる。
①の固定価格と②のkWh市場価格(回避可能費用)の差分は、賦課金として需要家から回収される。

図5 (出所)筆者作成

図5
(出所)筆者作成

 上記②のプロセスでFIT電気を購入する小売電気事業者は、通常FIT電気を購入しない場合に稼働させるつもりであった火力発電を抑制するので、小売電気事業者にとってFIT電気の価値は、火力発電の燃料費、すなわち限界費用である。したがって、②のプロセスにおいて、小売電気事業者は自己が確保している火力発電のうち、出力を抑制することが可能なものの限界費用以下の価格で買い入札をすることが合理的である。その場合、kWh市場の価格形成がどのようになるか、簡単な例で示す。

<小売電気事業者2社を仮定する>

 前提は次のとおりである。(図6参照)

小売電気事業者は2社存在する。自社電源を持たずに供給力をkWh市場(スポット市場)に全量依存する小売電気事業者aと、電源の保有し、自社需要を賄うとともに、発電余力を市場で販売する小売電気事業者bである。
市場に存在する電源は、小売電気事業者bが保有する石炭火力、ガス火力、石油火力のほか、FIT対象の再生可能エネルギー電源であり、火力電源の限界費用は、石炭火力が6円/kWh、ガス火力が11円/kWh、石油火力が22円/kWhである注16)
ある日のある時間帯(30分;これを「コマ」という)における需要について、前日のスポット市場が開場する前の段階における、小売電気事業者a/bの想定はそれぞれDa/Dbである。
小売電気事業者bは、スポット市場前の計画として、メリットオーダーにしたがい、石炭火力はフル稼働し、ガス火力はフル稼働に至らない部分負荷運転をして、Dbに相当する発電量を確保する。

図6 (出所)筆者作成

図6
(出所)筆者作成

注15)
成り行きで売却とは多くの場合、価格ゼロで売り入札することと同値であるが、ドイツのkWh市場では、価格がマイナスになることを許容する。日本の場合、マイナス価格を想定するかどうかは現時点では不明である。この考察では、価格ゼロで売り入札することとする。
注16)
経済産業省(2015)に基づく。

 上記の前提において、スポット市場前後の小売電気事業者a/b及び送配電事業者の入札行動は次のようになる。

A)
小売電気事業者bは、スポット市場前の計画として、メリットオーダーにしたがい、石炭火力はフル稼働し、ガス火力はフル稼働に至らない部分負荷運転をして、Dbに相当する発電量を確保する。
B)
小売電気事業者bは、ガス火力と石油火力の発電余力は、市場に売り入札する。
C)
小売電気事業者aは、自社需要Da相当量、成り行きの買い入札をする。
D)
小売電気事業者bは、送配電事業者より市場投入されるFIT電気の購入のため、上記A)で計画した発電量のうち、抑制可能な部分を買い入札する。

 以上を図示したものが図7である。上記B)の売り入札の価格は、ガス火力、石油火力相当であるが、固定費の回収を意識して、限界費用に1円/kWh加算している。C)の買い入札は、成り行き(Price Taker)なので、理屈上はどんな価格でも購入する意思表示になるが、ここでは指し値をX円/kWhとする注17) 。D)の買い入札は、この購入の小売電気事業者bにとっての価値を反映して、火力発電(ガス火力、石炭火力)の限界費用以下の指し値となる注18)

図7 (出所)筆者作成

図7
(出所)筆者作成

 以上の入札が行われた上で、これに送配電事業者によるFIT電気の売り入札が加わる。図7はFIT電気がゼロであった場合であり、このときは、小売電気事業者bの石油火力までがkWh市場で約定し、市場価格は23円/kWhとなる。

<FIT電気の投入量による価格の変化>

 FIT電気の投入量を段階的に増やしていくと、図8~図11になる。図8は、FIT電気の投入量が小売電気事業者aの需要を満たすには不足しており、小売電気事業者bのガス火力の発電余力まで約定し、kWh市場価格は12円/kWhである。図9は、FIT電気の投入量が小売電気事業者aの需要を満たす以上あり、小売電気事業者bが確保していたガス火力を差し替えてFIT電気を受電している。kWh市場価格はガス火力の限界費用である11円/kWhになる。図10は、FIT電気の投入量が増え、小売電気事業者bはベースの石炭火力まで抑制してFIT電気を受電している。kWh市場価格は石炭火力の限界費用である6円/kWhまで下がる。図11は、FIT電気の投入量が更に増えて、石炭火力を最低出力まで絞っても受電しきれないため、FIT対象電源の一部について出力抑制が必要となる注19) 。この場合、kWh市場価格はゼロとなる。

図8

図8
(出所)筆者作成

図9

図9
(出所)筆者作成

図10

図10
(出所)筆者作成

図11

図11
(出所)筆者作成

 以上をまとめると、FIT電気の投入量が図9のケース以上に増えると、市場参加者が合理的に振る舞う限り、kWh市場価格は限界費用以下になる。市場参加者が合理的に振る舞わないとは、この例に則して言えば、「小売電気事業者bが抑制可能な火力発電の限界費用を超える価格で買い入札をすること」を指す。小売電気事業者bにとってのFIT電気の価値は火力発電の限界費用であるので、それを超える価格でわざわざ購入する行動は合理的でない。他方、もともと電源を確保せず、kWh市場からの調達に100%依存している、小売電気事業者aにとっては、FIT電気は限界費用以上の価値がある。そのため、図7、図8のように、小売事業者aだけがFIT電気を購入する場合には、kWh市場価格が限界費用よりも高い価格となっても不合理ではない。

注17)
Xは市場のシステム上入力できる最大値とすることも考えられる。
注18)
ここでは、限界費用に等しい、11円/kWh (ガス火力)、6円/kWh(石炭火力)を指し値とした。
注19)
この例は簡単な例であるが、実際は、出力抑制を発動する前に、揚水動力として受電する、デマンドレスポンスを発動して需要を底上げする等の回避措置を講じる。
<参考文献>
 
経済産業省(2015),“長期エネルギー需給見通し小委員会に対する発電コスト等の検証に関する報告

執筆:東京電力株式会社 経営技術戦略研究所 経営戦略調査室長 戸田 直樹

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