CO2削減目標△26%をどう「位置づける」べきか


(一財)電力中央研究所/IPCC統括執筆責任者


政府は2030年に2005年比で26%の温室効果ガス削減という数値目標を提示した。だがこれは、コストをあまり考慮せずに積み上げた数字であって、最大限努力した場合の「削減ポテンシャル」と見るべきである。もしもこの数値を見直すことなく約束草案に記入するならば、これは「努力目標」である旨を、内外に対して明確にすべきである。これが「確実に達成する目標」と位置づけられるならば、それは多大な国民負担に帰結する懸念がある。

1.数値目標達成のコスト

 4月30日に開催された専門家会合注1)において、政府は国連事務局に提出する約束草案(案)として、「2030年に2005年比で26%の温室効果ガス削減」という数値目標を提示した。

 この数字は積み上げ計算に基づいたものではあるが、実現に当たっては、多大なコストがかかる懸念がある。これには同会合で多くの委員から指摘があった:

再エネのコストについて:「過大な国民負担を行う現状のFITを前提とすることには異論がある」(丹村委員)、「FITの買い取り費用が3.7~4.0兆円となれば、電気料金が震災前から3割増加している現状とほぼ変わらない」(竹内委員)

省エネのコストについて:「電力の需要に関して、対策ケース以外のGDP弾性値はだいたい0.7くらいだと思う。これであればまだ許容範囲内という感じがする。だが対策ケースでは、対策前に比べて17%削減することになっているので、相当厳しい対策をしなければならない。もし価格効果でやろうとすると電力料金を170%くらい上げないといけない」(秋元委員)

 特に問題となるのは「長期エネルギー需給見通し策定の基本方針」の一つとして「電力コストは現状よりも引き下げること注2)」が明記されているにも関わらず、専門家会合資料では「徹底した省エネ」の結果、電力需要は0.1%年しか伸びない注3)と想定している点である。これは会合でも指摘された:「今回検討された数値は1.7%の経済成長だが、本日提示された数値と電力料金が、現状水準と仲違いすることなくそれと整合するのかについて、丁寧な議論をお願いしたい」(丹村委員)」、「電力の省エネについて、数値として大きい。一方で、電気料金を下げて、かつ省エネするというのはかなり難しい」(山地委員長)。

 モデル計算によれば、かかる大幅な省エネは、電力価格が倍増するような、大幅な価格上昇を想定しないと実現しないことが知られている。これは民主党政権下のエネルギー環境会議でも、すでに明らかにされてきた。(詳しくは大幅な省エネ見通しの国民負担を精査せよ:既存のモデル試算は電力価格倍増を示唆している)。
 今般の△26%という温室効果ガス削減の数値目標についても、徐々に研究結果が公開されつつある。例えば、5月8日に発表された国立環境研究所増井氏の試算では、CO2価格は26300円/tCO2と試算されている注4)。これは例えば電力価格の上昇に翻訳すると10円/kWh程度の上昇になる注5)。またRITE秋元氏は、近年に電力価格が高騰した欧州諸国においてすら、価格による電力需要減少は少なかった(価格弾性値が小さかった)ことを示して、日本政府が「電力コストを現状よりも引き下げながら需要を大幅に抑制することは「少なくともこれまでに世界にほとんど事例がないチャレンジである」として、それが困難であることを述べている注6)

2.約束草案の文言をどうするか

 このようなコストを精査しないまま、軽々に数値目標を提示してしまったことは問題があり、本来であれば、この数字は大幅に見直すことが望ましい。だが残念ながら、政府が一度提示した数字がすぐに大幅に変わることは稀であるように思うので、今は、この数字があまり変わらないという想定のもとで次善策を考えてみる。

注1)
産業構造審議会 産業技術環境分科会 地球環境小委員会 約束草案検討ワーキンググループ中央環境審議会地球環境部会2020年以降の地球温暖化対策検討小委員会合同会合(第7回)
注2)
資料3 長期エネルギー需給見通し 骨子(PDF形式:297KB)
注3)
2013年の9666億kWhから2030年に9808億kWhと想定されている(専門家会合 資料3 p3)
注4)
増井利彦、AIM(アジア太平洋統合モデル)による日本の約束草案の評価、環境経済・政策学会 20周年記念シンポジウム、2015年5月8日、p10
注5)
概算のため0.4Kg-CO2/kWh程度の原単位を想定した
注6)
秋元圭吾、エネルギーミックスと温暖化目標の分析・評価-RITEによる分析-、環境経済・政策学会 20周年記念シンポジウム、2015年5月8日、p23

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