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2030年度電源構成のなかの再生可能エネルギー(再エネ)比率の意味を考える(その1)

不条理なFIT制度に引きずられた再エネ電力の利用は実現不可能である


東京工業大学名誉教授


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2030年度電源構成の再エネ比率が発表されたが

 経済産業省(経産省)が4月28日(2015年)の有識者会議で、2030年の電源構成(エネルギーミックス)案を示したと報道された (朝日新聞2015/4/29)。この新聞記事では、発電コストが安く、温室効果ガス(二酸化炭素(CO2)が主体、以下CO2と略記)の排出削減にもつながる原発が、少なくとも2割は必要との経産省の考えに沿ったものだとしている。
 いま、「再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)」の適用による再エネの導入では、市販電力の価格が高くなるから、経済成長を維持するためには、2030年度電源構成のなかの再エネ電力比率を一定値以下に抑えて、原発電力と共存する案をつくり、今回の発表となったと考えられる。今後は、この原案を基に、広く国民の意見を問うたうえで、6月までに最終的な再エネ比率を決めるとしている。
 本来、化石燃料の枯渇後、その代替となるべき再エネの開発・利用が、地球温暖化の防止を目的として、今すぐCO2の排出削減を求めるための再エネが求められるようになった。また、このCO2の排出削減に現状で最も効果の大きいとされる原発電力の利用が、3.11の原発事故の影響で20 ~ 22 % と抑えられるから、原発電力代替としても、2030年度の電源構成のなかで、22 ~ 24 % の再エネ電力が必要になるとした上で、この再エネ電力種類別の比率を表1-1 のように与えられるとしている。ここでは、先ず、この再エネ電力種類別の導入量比率の値が実現不可能であることを指摘する。

表1-1 経産省の2030 年度電源構成案のなかの再エネ電力種類別の比率(朝日新聞2015/4/29から)
再エネ導入ポテンシャルの推定値(文献1-1から)

表1-1

注:

*1;
朝日新聞2015/4/28から、2030年度の総発電量の推定値に対する各再エネ電力発電量の比率、ただし2030年度の総発電量の推定値の記載はない
*2;
既存のダム式水力発電量、2013年度で総発電量の7.8 % を含む。したがって、この値との差、1~1.4% 程度が、新エネルギー(再エネ)とされている中小水力と推定される。
*3;
環境省の調査報告書(文献1-2)を基に計算した導入 ポテンシャル発電量の推定値の2009年度の総発電量に対する比率(文献1-1)
*4;
411 %、すなわち、4.11 倍
*5;
中小水力の導入ポテンシャル発電量の総発電量に対する比率
*6;
環境省報告書(文献1-2)には記載なし。この値は、国内の人工林が100 % 利用されたと仮定し、用材の生産、使用の残り廃棄物の全量を発電に利用した場合の推算値(文献1-3)

FIT制度の適用を前提とした再エネ可能発電量の推定値は、電力の自由化で消失する?

 表1-1 に示した経産省による2030年度再エネ電力種類別の比率の値は、現在、再エネ電力の利用・拡大を図るために2012年7月以降導入されたFIT制度の適用実績を基にした再エネ電力発電量の推定値として求められたと考えられる。このFIT制度の適用による再エネ電力の導入では、昨年(2014年)夏頃から、出力変動の大きい太陽光や風力などの不安定電源の導入発電量が大きくなり過ぎることを懸念した電力会社が、その買取量を制限することを表明して以来、この問題が大きな社会問題に発展している。
 すなわち、いま、太陽光や風力などのFIT制度による買取価格が減額されようとしているが、既に認定を受けた電力の買取価格の変更はできないはずだから、認定量の多かった太陽光の発電可能量が、結果として、総発電量(30年時点の推定値)の7 % と大きな比率を占めている。
 FIT制度の適用による再エネ電力の導入は、各再エネ電力種類別に、それぞれの発電が収益事業として成立するように買取価格が決められている。したがって、このFIT制度は、近く予定されている電力の自由化(消費者が自由に電力の種類を選ぶことができるようになる)とは完全に相容れないはずである。
 最近の報道(朝日新聞 2015/4/7 )によれば、「経産省は、FIT制度の対象になっている太陽光や風力などで発電した電気を、“これはクリーンな電力です”などといった広告を禁止する考えで、・・・これに対し、全国消費者団体連合会が、再エネで作った(クリーンな)電気を利用者が選べなくなるから、再エネ比率を電源構成のなかに義務づけるべきだと訴えている」とある。電力が自由化されれば、どのような電力を選ぶかは、消費者の自由になる。クリーンだから高くても選ぶべきだと言うのはおかしいしいし、政府が、その広告を規制するのもおかしい。
 いずれにしろ、表1-1に示す経産省の有識者会合で決められたとされる再エネ電力種類別の発電量比率の値は、不条理なFIT制度に引きずられた何とも理解できない不可思議の第一として挙げざるを得ない。

導入ポテンシャル量の定量的な評価なしに進められた再エネ発電種類別比率の値

 もう一つの不可思議は、表1-1 に示す経産省の2030年度再エネ電力の比率の値が、上記したように、同じ表1-1に参考として付記した環境省の再生可能エネルギー導入可能量調査研究報告書(以下、環境省報告書(文献1-2)を基に計算される再エネ電力種類別の導入ポテンシャル比率の値(文献1-1)を完全に無視して与えられていることである。
 実は、この再エネ電力の種類別に推定された導入ポテンシャル比率の値は、環境省報告書で、設備容量(kW)で与えられた値を、私が再エネ電力種類別の年間平均設備利用率の推定値を用いて発電量(kWh)に換算した値を基にして、総発電量に対する比率として求めたものであり(文献1-1)、一般には知られていないかもしれない。しかし、FIT制度の施行案をつくる資源エネルギー庁(エネ庁)のFIT制度の担当者であれば、この制度の導入に明確な反対を直接、エネ庁にも伝えていた私の著書(文献1-1)に留意すべきであった。FIT 制度施行後、間もなく、私の問い合わせに、エネ庁の担当者は、原報の環境省報告書(文献1-2)の存在すら知らないと答えた。彼らには、FIT制度の導入に際して、再エネの導入ポテンシャルを考慮する必要さえ判っていないようである。
 特に問題になるのは、表1-1に示す導入ポテンシャル比率の値が411 % と、他に較べて圧倒的に大きな値を占める風力の2030年度再エネ電力比率の値が、その生産可能の適地が北海道や東北地方の遠隔地に偏在するため、送電線が無いとの理由で、僅か1.7 %しか与えられていないことである。風力発電の適地は、海岸で、海洋国日本では、風力発電の導入ポテンシャルは、北海道以外にも、現状の需要を十分満たせることが、環境省報告書(文献1-1)にはっきりと示されている。
 これに対して、上記したように、FIT制度の施行時の最も高い買取価格で、実際の導入時期を確約しないまま認定を与えてしまった太陽光発電(家庭用と非家庭用の合計)は、2030年再エネ発電比率7%と高い値を推定している。しかし、その導入ポテンシャル比率は、表1-1 に示すように13.3 %と、3.11 原発事故前(2010年度)の電源構成のなかの原発比率24.9 % の半分程度しかない。国民に経済的な負担をかける一方で、手っ取り早く事業利益をあげることのできた非家庭用太陽光発電(メガソーラー)は、それを支えていたFIT制度の崩壊と同時に、やがて姿を消すようになることを敢えて予言しておく。

大きな矛盾を抱えたバイオマス発電のFIT制度による導入の不可思議

 もう一つの、大きな不可思議は、バイオマス発電の利用である。表1-1に見られるように、2030年再エネ比率で、バイオマス発電は3.7 ~ 4.6 % と、太陽光発電に次いで、大きな比率を占めている。理由は、不安定な太陽光発電をバックアップするための安定電源として必要だとされている。
 バイオマス発電は、在来の火力発電の固体化石燃料(石炭)の代わりに、再生可能とされるバイオマス(その主体は木材)を使用するものだが、その量的確保の困難と、価格が高いために、事業用の発電では利用されてこなかった。それが、地球温暖化対策としてのCO2排出削減の要請から、石炭火力発電所で、バイオマスの石炭への混焼が行われるようになった。しかし、この燃料用バイオマス(木材)を国内で調達することができないから、それを輸入に頼らなければならなくなっている。
 この現実を無視して進められているのが、FIT制度の適用によるバイオマス発電である。この発電事業を地域産業振興の一つにしようとする人々が林野庁や森林組合などを巻き込んで、FIT制度を利用した発電を収益事業として成立できるようにと、資源エネルギー庁に働きかけた結果を反映しているのが、この表1-1 のバイオマス発電の利用比率の値である。
 しかしながら、この値は、表1-1の 注 *6に記したように、国内の用材の需給量を完全自給できるように日本林業を創生できたとした場合の仮想の導入ポテンシャル比率の値 0.8% をはるかに超えている。したがって、このバイオマス発電の再エネ比率を実現するためには、大量の燃料用木材を輸入しなければならない。いま、貿易赤字に苦しむ日本経済にとって、現在、火力発電用の燃料として最も安価な石炭に代わって、その単位エネルギーあたりの価格が2倍以上もする木質燃料を輸入する余裕は何処にもない(文献1-3)。 

引用文献

1-1.
久保田 宏;科学技術の視点から原発に依存しないエネルギー政策を創る、日刊工業新聞社、2012 年
1-2.
平成22年度環境省委託事業「平成22年度再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査報告書」、平成23年
1-3.
久保田 宏、中村 元、松田 智;林業の創生と震災からの復興、日本林業調査会、2013年

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