再生可能エネルギーを軸とした地域活性化を考える

-海外事例から見えてくる日本に求められる姿勢-


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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 地元の協力を得ることは再エネの導入にあたって必要不可欠である。実は再エネに対して総論賛成しているドイツ国民も、陸上風力発電設備や送電線が近くに建設されることには反対が強い。

褐炭の露天掘りと風力発電所=ドイツ西部ノイラート

褐炭の露天掘りと風力発電所=ドイツ西部ノイラート

送電線が通ることで景観が悪化し地価が下がるとして反対運動が多く、エネルギーを自国内で「地産地消」するために必要な送電線建設が遅々として進んでいないことは、ご存じのとおりだ。
 こうした状況を打開するため、系統整備計画の投資総額の最大15%に対して、住民参加を可能にするスキームが創設された。地域住民や関係者が送電線敷設事業に対して出資することを認め、彼らのアクセプタンスを高めるという制度であり、住民への利回りは5%を確保するよう努めるとされている。しかし、その利用は進んでいない。

夢破れた数々のグリーン成長

 地域の実態などを考えず、漫然と再エネの雇用創出効果に期待を寄せたことで痛い目を見た例は、数多くある。例えば、オバマ米政権の第1期、再エネで500万人の雇用を創出することを柱とした「グリーン・ニューディール政策」に人々は熱狂した。そもそも労働人口が1億5000 万人という米国で、500万人の雇用創出といってもインパクトのある数字ではないが、国民に大きな期待を抱かせるには十分であった。
 しかし、オバマ大統領が工場見学に訪れ、グリーン・ニューディールの象徴と言われた太陽電池メーカーのソリンドラ社やエバーグリーンソーラー社、スペクトラワット社などは相次いで経営が破綻。政府がこれら企業の債務保証をしていたため税金が投入される事態となり、大きな非難を浴びた。結局、グリーン・ニューディール政策は2万人程度の雇用を創出したに過ぎなかったとも報道されている。
 それでも雇用が増加しているなら良いが、既存産業から失われる雇用を加味するとマイナスであるとの結果も示されている。昨年12月19日、米国エネルギー情報局(EIA)は、労働省労働統計局(BLS)のデータに基づき、2011年から2014年6月までの間に、発電分野で5800人分以上の雇用が失われたと発表した。太陽光など再エネ部門での雇用は増加が見られたものの、既存電源からの雇用喪失とあわせるとマイナスになるという報告内容である。
 同様の結果は、ドイツでも示されている。ドイツ連邦環境省は再エネ導入による雇用創出効果として、2010年末には約37万人に達したとPRするが、再エネへの補助のためにほかの産業にかかる負担を加味すると、2020年までに5.6万人しか増えないとしている。さらに、2005年に行われた研究では、再エネへの投資により当初3.3万人の新規雇用が創出されるものの、その後、他セクターで雇用喪失が発生し、2010年までに計6000人の雇用減になると試算されている。
 実際、一時は世界第1位の生産量を誇ったドイツの太陽光発電メーカー、Qセルズは2012年4月に経営破綻し、韓国のハンファグループに買収された。現在、その労働組合委員長を務めるウーベ・シュモール氏によれば、最盛期に2200~2300人いた従業員は現在、リストラされて880人程度になった。今後、生産拠点を人件費が安いマレーシアに移転することになったため、350人程度まで縮小される予定とのことである。なんとも物悲しい凋落ぶりだ。
 究極の生活財・生産財たるエネルギーを生産する手段として、汎用品を使って行う再エネ事業に対し、特に先進国で雇用創出効果を期待することはそもそも難しい。部品点数の多さや金属強度の点で技術力が求められる風力産業ならまだしも、太陽光産業において先進国企業が勝ち残って行くことが困難であることは、これまでの歴史が明らかにしている。

ドイツ東部の平原に立ち並ぶ風力発電所

ドイツ東部の平原に立ち並ぶ風力発電所

 次に、再エネの導入、具体的にはメガソーラー(大規模太陽光発電所)の建設による地域振興効果の現実を見てみる。再エネで発電した電力の全量固定価格買い取り制度(FIT)の導入により、ドイツでもメガソーラーが多く建設された。その一つ、ベルリンの東方に位置するブランデンブルク州のノイハルデンベルクの空港周辺の敷地で再エネビジネスも手がける空港運営会社エアポート・ノイハルデンベルク社への聞き取りによれば、この事業による地域振興効果はほとんど期待できないようだ。
 現在建設中のメガソーラーが完成すれば、出力1550MWとなり、欧州で最大級になるという。こうした大規模メガソーラーの建設により、確かに地元には、建設前、建設中、建設後とそれぞれのタイミングで臨時的に雇用創出効果はあった。しかし、再エネ事業者であるノイハルデンベルク社の言葉を借りれば、「メンテナンスフリーであることが太陽光のメリット」であり、雇用創出は「決して大きくはない」そうだ。
 このメガソーラーはハンブルグにある送電管理センターで遠隔監視しており、モジュールに不良があれば、どの列のどのパネル不良かまですべて把握できるほど自動化されていると聞けば、同社の言葉もうなづける。設備の管理会社を地元にもってくる、もしくは地元企業に委託することにしたとのことだが、雇用創出効果は確かに薄いのであろう。