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気候変動交渉はなぜ難航するのか?(その3)


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院 教授


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図2

 次に1900年以降、2005年、2020年、2050年、2100年までの温度上昇に対する寄与度をみると、1900年から2005年でみれば附属書Ⅰ国の寄与度が非附属書Ⅰ国を上回っているが、2020年、2050年、2100年と将来を見ると非附属書Ⅰ国の寄与度が附属書Ⅰ国を上回っており、2050年までで見れば、中国の寄与度は米国、EU25か国をも上回ることがわかる。

図3

 温暖化問題は2100年をも見据えた長期の取り組みが必要な課題である。1992年当時の別表が2015年の今日においても未だに交渉の議論を呪縛していることこそ、「化石賞」ものであろう。事実、私が参加した交渉の中でも、附属書Ⅰ国、非附属書Ⅰ国の区分けの見直しは、非附属書Ⅰ国の「卒業論」を含め、何度となく提起されてきた。しかし、現状変更を嫌う途上国の反対により、上記の意思決定プロセスの問題と同様、その都度、頓挫してきた。

 気候変動枠組条約上の附属書Ⅰ国のリストは、全員一致でなければ改正できない。ということはミッション・インポッシブルということである。このため、米国、EU、日本等の先進国は、実現の見込みのない条約改正をトライするのではなく、「共通だが差異のある責任」を「国際経済情勢の変化に応じてダイナミックに解釈する」ということで主要排出途上国の行動を促そうとしている。しかし、中国、インドの参加するLMDCグループの議論を聞いていると、相変わらず、枠組条約の二分論から一歩も出ていないことが多く、前途多難である。

劇場型交渉と期待値とのギャップ

 温暖化交渉には多くの市民団体、NGOが関与している。全体会合では市民団体にも発言の機会が与えられているし、政府代表団に参加しているケースも多い。また化石賞をはじめ、交渉中には種々のイベントを行い、交渉団に対するある種の圧力団体になっている。このように交渉官以外の聴衆が多数参加していると、交渉自体も劇場型になってくる。特に全体会合の場では、温暖化の危機を強く訴え、特に先進国の野心のレベルが低いことを悲憤慷慨する大演説がよく聞かれる。会議の成果に対する要求水準はどんどん上がっていき、それに満たないものは「失望だ」「失敗だ」ということになってしまう。温暖化交渉がうまくいかない背景には、これまで述べてきたような構造的要因に加え、会議に対する要求水準と現実との間のギャップが広がり、「交渉がうまくいっていない」というパーセプションに拍車をかけている側面もあるのではないか。

終わりに

 以上、自分自身の経験を踏まえ、気候変動交渉が難航する要因を整理してみた。しかし、ここで、「仮に中国、インド、ボリビアの元交渉官が同じテーマで文章を書いたら、自分が書いてきたことと全く違った絵姿が現出するに違いない」ということに思い至った。交渉の成否を握るのはそれを構成する人である。ひょっとすると私を含め、職業交渉官が交渉成功に対する最大の障壁なのかもしれない。

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