気候変動交渉はなぜ難航するのか?(その1)


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授

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温暖化交渉の風刺漫画

 気候変動交渉に関する風刺漫画は多い。試みにclimate negotiation, cartoonというキーワードで画像検索してみると、あきれるほど多量の漫画が出てくる。そしてそのどれもが、遅々として進まない温暖化交渉を揶揄したものばかりだ。典型的なものを4枚ほど紹介する。

 最初は2007年のCOP13(バリ島)の後に出たもので、交渉官たちが「バリ気候変動会議で合意に達した」とプレスに語っている。しかし何に合意したかというと「他の誰かが温室効果ガス削減をすべきこと」である(!)。

図1

 2つ目は2011年のCOP16(カンクン)の後に出たもので、議長が高らかに会議の成果を紹介している。しかし、その合意内容とは「新たなサミットに向けたアジェンダを進めるための新たな協議を路線に乗せるための詳細な交渉を開始することに合意するための新たなサミットに向けたアジェンダを進めるための新たな協議を路線に乗せるための詳細な交渉を開始することに合意した」という訳のわからないものであり、国連交渉用語に対する痛烈な皮肉になっている。

 3つ目では互いに手をつなぎ合った政府代表たちが「我々は大胆で決定的な行動をとることに合意した!」「そして我々のコミットメントを再確認する野心的な結果に合意した!」と高らかに謳いあげている。しかしそのコミットメントとは「(我々の交渉に対する)期待を2050年までに少なくとも50%削減すること」である(!)。2050年までに温室効果ガス半減という議論が難航していることを揶揄したものだろう。

図2-3

 4つ目は、水中からシュノーケルが顔を出し、「セクション315の1405行目について」「酢だ、蒟蒻だ(英語ではBlah, Bulahh, Bulahhhだが、日本語にすればこんな感じだろう)」「よろしい。2160年までにはCO2排出量を削減できるね?」と言っている。温暖化交渉を延々と続けている間に地球が水没してしまうということだろう。これは漫画の中の話だけではない。温暖化の進行による水没を懸念するモルジブ政府は2009年に水中閣議というデモンストレーションを行っている。

図3-4

 ことほど左様に温暖化交渉に対するフラストレーションは強い。交渉に関与する誰もがフラストレーションを共有しているといっても良い。皆が同じフラストレーションを共有しているのであれば前に進むのだろうが、問題はフラストレーションの方向性が全く異なっていることだ。途上国は先進国が野心的な削減目標を出さないことや途上国への資金、技術移転が進まないことにフラストレーションを募らせ、先進国は今や大排出国となった一部途上国が相変わらず先進国責任論のみを言い募ることにフラストレーションを募らせている。

 2000年~2002年、2008年~2011年と二度にわたって温暖化交渉に関与したが、もともと気候変動交渉には合意が極めて難しい要素がてんこ盛りになっているように思えてならない。そうした要素を自分の経験に照らして順不同で挙げてみたい。