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気候変動交渉はなぜ難航するのか?(その2)


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院 教授


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 当然ながら、温暖化交渉の世界では、厳しい方に議論が傾斜しがちである。UNFPは2度目標に抑えるのに必要な排出パスと各国の2020年目標との「ギガトンギャップ」は80~120億トンに上ると論じている。更に2度目標でも不十分であり、1.5度にすべきだとか、450ppmではなく350ppmを目指すべきだという議論すらあり、その場合、ギガトンギャップは更に拡大する。

 科学に不確実性がある以上、最悪の事態を想定して厳しめの対応をとるという議論は理解できる。水没の危機を感じている島嶼国や、環境保全を至高の価値とするNGOがそういう主張をするのは当然かもしれない。問題は、そういう方向に議論が進めば進むほど、各国の政治的経済的現実との「ギガトンギャップ」が広がり、交渉の落としどころがなくなってくることだ。

長期の温暖化問題と短期の政治サイクル

 温暖化交渉に出ていると各国代表団の発言は「もっと野心的に!」のオンパレードであるが、50-100年をにらんだ長期的対策を講ずべき各国政府の多くは、往々にして、その時々の短期的な国内アジェンダに腐心せざるを得ない。特に経済や雇用に不安があれば、それが第1プライオリティになる。また民主国家の政府であれば、選挙を前にして逆進性の強いエネルギーコストに神経質になるのは当然のことだ。2013年のドイツ総選挙では固定価格購入制度による家庭用電気料金の上昇が政治問題になり、連立政権は軌道修正を余儀なくされた。本年5月に総選挙を控えた英国では、労働党のミリバンド党首が昨年秋に「労働党が政権を獲得したら20か月間エネルギー価格を凍結する」と宣言して支持率を上げた。エネルギー価格の上昇に人為的に介入することは温暖化対策の観点からすれば逆行になる。ブラウン政権の時にエネルギー気候変動大臣として数々のグリーン政策を推進していたミリバンド党首ではあるが、選挙となればなりふり構っていられないということだろう。英国総選挙に向けた選挙民の関心についての世論調査を見ると、経済が50%、医療制度が40%、年金が25%、移民問題が20%であるのに対し、環境については7-8%に過ぎない。

 このような状況下でコストもかかり時間もかかる温暖化対策をぶれずに進めていくことは決して容易なことではない。中国のように政権交代のない政治体制の方が、その気になれば長期的な視野に立った政策をとりやすいのかもしれない。

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