報道ステーションはバラエティー番組?
山本 隆三
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授
平日の夜10時前、テレビをつけ報道ステーションを見ている方は多いのではないだろうか。民放の報道番組では最も視聴率があり、10%を超えているといわれている。私も時々見ることがあるが、ゲストを含め出演者のコメントに呆れることがしばしばある。
いつも見ているわけではないので、偶々かもしれないが、STAP細胞に関する小保方さんの不正を巡る話題については、不正と認定されたと他局が大きく報道していた日にも殆ど報道せず、「問題はSTAP細胞があるかないかだ」とキャスターの古館氏(以下敬称略)が、不正の有無という本質から外れたコメントをしていた。
パソコンの遠隔操作事件の報道についても、偶々見た時には片山被告が番組に出演し冤罪を訴えていた。犯人と同じ行動を取り雲取山に行き、それから江の島に行き猫に接触したのも偶然との片山被告の主張だ。そういう偶然が起こる可能性は殆どないと思うのが普通だろうが、報道ステーションのスタッフは片山被告の冤罪の主張を報道することが重要と思ったようだ。
他局とは違う報道の姿勢は、「弱い者の味方」という主張からきているように思える。少なくとも表面的には、大組織と対立する、あるいは権力と対立する立場の人を支えるという姿勢だ。しかし、それは報道の姿勢としては正しいのだろうか。権力と対立する人がいつも弱く、正しいとは限らないのは当たり前だ。
さらに、疑問は大組織、権力というのは具体的には何を指すのかということだ。悪いのは大企業、官庁というときには、企業あるいは官庁で働く人のなかで意思決定をしている人が悪いということなのだろうか。組織と働く人は分けて考え、慎重に報道すべきだろう。
この権力、大組織を好まない報道姿勢は、電力・エネルギー問題になると更に顕著になる。しかも、問題の本質から離れた議論、あるいはデータ、事実関係すら間違えた解説が行われることにもなる。
私も、NHK、民放の討論番組、情報番組に出演することがあるが、どの番組のディレクターも番組で使用するデータを元の出所に当たり確認するのが普通だ。多くの人が見る以上間違ったデータが流れては困るという当然の考えに沿ったものだろう。しかし、報道ステーションのスタッフはそうではないようだ。
一例をあげよう。元経産省の古賀茂明氏(以下敬称略)が5月下旬に出演していた時にドイツの再エネについて間違ったことを述べていたので、過去の出演時の発言を調べてみたところ、5月2日の番組で英国の原子力発電について、古館が全て間違った説明をしていた。それを受けて古賀が再エネに関し、まったく間違ったコメントをしていた。古館の発言の要旨は以下だ。
安倍首相が原発の輸出に触れたことを受け、古館は英国の原子力発電について、次のように述べている。「今英国では原発は非常に高いエネルギーになっている。その証拠に再エネの買い取り制度に原発を加えてしまい、風力発電なんかよりはるかに高い補助金を出して35年保証という破格の扱いをしている。安全基準を高めたために、ヨーロッパでは原発は高く、普通にやったらできない。安倍さんは今日も安いものという前提で話をしている。恥ずかしい。ドイツもフランスも逃げ、中国企業を引っ張ってきたけど逃げられてしまった。日立や東芝はイギリスで電力会社を買収し原発を作るが冷やかにみられている。それを安倍さんが一生懸命宣伝し、胸をはっている。いま世界では原発は見切られ、再エネにシフトしてものすごい競争が始まっている」。
安倍首相が嫌いなのか、原発が嫌いなのか、両方かもしれないが、35年という部分を除き最初から最後まで間違った説明だ。事実を以下に説明しておく。
英国政府は、フランスの国営電力会社EDFが中心になり進めているヒンクレーポイントC原発からの電力を35年間購入することを、昨年10月に発表した。購入価格は風力を含めどの再エネよりも安い。表-1の通りだ。普通にやったらできないから長期契約を行うわけではない。電力市場を完全に自由化した英国では、将来の電気料金、即ち収入が不透明なので、老朽化した発電所の建て替えが進まない。このために、政府は火力発電所を建設すれば設備に対して料金を支払う容量市場と再エネと原子力に関しては固定価格買い取り制度を導入した。