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環境物品の自由化交渉、日本は欧州産業界などと連携を

福島事故は新たなビジネスチャンスもたらす可能性も


国際環境経済研究所理事・主席研究員


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―― 日本はEU市場でどのようなチャンスを得られると考えますか

 「日本の高効率な石炭火力発電の技術やそのコンポーネントの技術は、世界最高水準とみていますので、EU 市場で非常に大きなチャンスを得られるのではないでしょうか。欧州ではドイツが“脱・原発”を進めていて、原発の代わりに石炭火力への依存度を上げる必要性が出てきます。CO2排出量削減の観点から、いかに高効率な石炭火力を導入するかがポイントになってきますので、これは日本にとってビジネスチャンスになると思います。また、米国のシェールガス革命によって石炭の価格が下がっていますので、発電コストの面からも石炭火力に追い風が吹いています。このほか、日本の製鉄所のエネルギー効率も世界最高水準と聞いておりますので、この技術も大きなチャンスになると思います」
 「さらに、日本は省エネを推進するため『トップランナー制度』という素晴らしい政策を導入しています。エアコンや冷蔵庫などの家電製品、自動車などの省エネ性能について、すでに市場に出ている同じ製品の中でもっとも優れている製品の性能レベル以上を目指すもので、これらの製品はEU 市場で大きなチャンスがあると思っています」

―― EU市場でチャンスを得る可能性がある一方で、環境基準がより厳しくなる、あるいはEUの考える環境基準になることで逆にリスクも生じることになるのではないでしょうか

 「もしEUの環境基準や自由化対象物品に関する環境定義を厳しくするようになるとしても、それには良い面も悪い面もあると思います。製品や技術には、環境対策だけを目的にしているものもあれば、使用目的でつくられた製品のエネルギー効率を改善し環境性能を高めたもの―日本が得意とする分野だと思いますが―もあります。こうした観点をいかに自由化交渉に取り入れていくかがポイントになると思います」

―― 日本企業の環境技術が諸外国で導入されることを支援し、世界での温室効果ガス排出削減を図る仕組みとして、日本政府は『二国間クレジット制度』を海外に提案しています。この制度に対する見解を聞かせていただけますか

 「JCM(二国間クレジット制度)は非常に独創的で、途上国の排出削減を進めていく上で可能性のあるメカニズムだと認識しています。地球温暖化はグローバルな問題ですので、グローバルに温室効果ガス排出量を減らしていく手段としてはとても有用だと思います。JCMは、京都議定書のCDM(クリーン開発メカニズム)が抱えていた難しい課題を柔軟に解決するため、工夫が凝らされた制度だと思います。重要なのは透明性、信頼性をどれだけ担保できるかでしょう。今後、JCMで生まれたCO2排出量削減のクレジット(排出枠)が取引されるようなものになるのかどうかに関心があります。また、2015年には気候変動対策の新たな枠組みが決まる予定ですので、日本がまたこの分野でリーダーシップをとることを期待しています」
 「一方、日本自身がどれだけ温室効果ガス排出量を減らすことができるかについても、世界は関心を持っていると思います。そのため、世界の排出量削減に貢献すると同時に、日本自身の排出量も減らすという両面のバランスが必要になってくると思います」

―― 環境物品の貿易問題というと、EU市場で中国製太陽光パネルのダンピング問題が、日本では関心を持って報じられました。この問題をどのようにみていますか

 「中国とEUの太陽光パネルをめぐる問題は、太陽光発電をより拡大していくという観点というよりも、産業振興の論点から語られているのでしょう。EU 内には1800の太陽光発電関連企業があり、中国からの太陽光パネルの輸出攻勢を受けている一方で、太陽光発電に関する部品や製造装置、メンテナンスサービスを提供しています。こうした企業は中国をはじめとする海外市場から恩恵を受けています。ダンピングを是正するための賦課金(ダンピング防止税や補助金相殺関税)を中国製太陽光パネルに課すことが果たしていいことなのかどうか。EU は太陽電池に使われるポリシリコン(高純度の多結晶シリコン)や製造装置などを輸出しており、賦課金を課すことが、EU 自身の足元を撃つことになるのではないかと懸念しています。また、気候変動問題への対応という観点からは、太陽光パネルの価格上昇によってクリーンなエネルギーを生み出す太陽光発電設備の建設コストが上がるという懸念もあります」
 「太陽光発電分野は欧州内で多くの雇用を生み出しており、製造部門よりもメンテナンスなどサービス部門で約3倍もの多くの雇用を生み出しているという実態があります。今回の問題をみていく上で、太陽光発電のコスト上昇に伴う雇用への影響も重要な点だと思います。スウェーデンのシンクタンクによると、ダンピング防止税の賦課などEUがとっている貿易対抗措置対象の輸入価値の実に75%はこのクリーンエネルギー分野に関するもので占められており、その追加負担が、結局、欧州内のクリーンエネルギー市場のコスト上昇という形で跳ね返ってきています」

―― 日本企業がチャンスをものにするためのアドバイスと、それを後押しする日本政府へのアドバイスをいただけますか

 「日本企業の強みなどについても、まだ詳しくは把握していませんのでクリアなアドバイスは持ち合わせていませんが、加盟国に自由貿易交渉の場を提供するWTOにしても、二国間・地域間で自由貿易を行うことを目的としたFTA(自由貿易協定)にしても、日本政府がリーダーシップをとっています。ですので、日本の産業界は政府とより緊密に連携をとることが大切でしょう。政府と産業界が共同戦線を張ることが重要です。併せて、他国の産業界がどんな考えを持ち、どう動いているのかを見ながら、他国の産業界と連携することが大事だと思います。ICTSDは欧州産業界などと『SETI Alliance』という産業界の連携組織を立ち上げました。このアライアンスが交渉を勝ち抜いていく上での日本の産業界との連携のプラットホームになればと願っています」

インタビューを終えて
 インタビューを終えて 今回のインタビューでは、国際環境経済研究所の竹内純子理事と菊川人吾主席研究員にお世話になりました。竹内さんはエネルギー・環境の専門家として本誌読者にはおなじみですが、菊川さんはスイス・ジュネーブにある国際機関を相手に活躍されている方です。オルティーズICTSD所長の訪日をアレンジし、本誌インタビューにも同席していただき、いろいろ協力していただきました。
 日本の産業界の国際競争力を語る際、企業の製品や技術力に脚光が当たりがちですが、その陰には菊川さんのような方々のサポートがあることを今回のインタビューを通して垣間見ました。
 目下、国際舞台で汗を流している菊川さんですが、国内では能登和倉温泉などで有名な石川県七尾市の「ふるさと大使」も務めており、実に多彩な活動をしています。

(本田)

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