容量メカニズムに関する制度設計WGでの議論で整理が必要なこと(第2回)

容量メカニズムはどのようにして電力供給コストを下げるか


Policy study group for electric power industry reform


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 第1回に引き続き、第5回制度設計WGにおける、容量メカニズムに関する議論を取り上げる。具体的には、大橋委員(東京大学大学院経済学研究科教授)による次の発言である。

(1)
これまで議論してきたのは、kWh(量)の電力市場である。今回は、kWに応じた支払いをする市場やメカニズムである。一見すると、kWh市場に加えて、容量メカニズムが出来るので追加的な支払いが生じるという印象を持たれるかもしれないが、そうではない。容量メカニズムがなくてkWh市場だけで固定費を回収するケースと、容量メカニズムを加えてkWh市場を持つケースは、等価である。
(2)
場合によっては、容量メカニズムがある方が料金を安く抑えることができることが理論的に言える。需給だけでなく、色々な思惑で価格が動くkWh市場だけで固定費を回収しようとすると、禁止的な価格にkWh市場が持ち上がるケースがあり得る。それを防ぐためにkWの支払いのメカニズムを入れる。こうした議論を通じて、全体の発電のコスト、最終的には消費者の電気料金を下げるための工夫をしていくのが、ここでの議論である。

 この発言は、容量メカニズムの本質あるいはその理想的な姿を的確に述べていると思う。しかし、その後の委員間の議論では正確に理解されていない印象を持ったので、誤解がないように、補足する。

上記(1)の趣旨:容量メカニズムは、電力供給のために必要なコスト回収の方法を変えるものであって、回収すべきコストは基本的に同じである。

 容量メカニズムがない場合、kWh市場がほぼ唯一の収入源であるため、多くの時間帯で限界費用により価格が形成されていたとしても、一定程度の時間帯においては、限界費用を上回る価格が形成され、固定費の回収が確保されないと、電力システムは持続可能ではない。図1の左図がこのような価格形成の一例である。ある一日のkWh市場の価格推移を示しているが、薄い網掛けの部分は各時間帯の限界費用で、多くの時間帯はこれによって価格が形成されているとしても、例えば、午後のピーク時間帯などでは、限界費用を上回る価格が形成され、固定費の回収原資となる。濃い網掛けの部分がそれに当たる。

図1 容量メカニズムの有無によるkWh市場の違い(イメージ)

 (出所)筆者作成

 図1の右図は、容量メカニズムを導入した場合のイメージである。kWh市場価格が限界費用により形成される場合、回収しきれない固定費(ミッシングマネー)が発生する。その額に相当するkW価値が容量メカニズムによって補完されれば、kWh市場が限界費用により形成されても、電力システムとして持続可能になる。同時に、本稿第1回で取り上げた「広域メリットオーダーの利益」が実現している状態でもある。

 つまり、容量メカニズムは、その作りから考えても、「kWhの価格がそのままで、kW価値の負担が加わるだけ」というものではない。回収すべきコストは同じで、回収の方法がkWh価格だけであったものが、kWh価格とkW価格の二本立てに変わるものである。通常は、容量メカニズムが導入されれば、一定の時間帯に限界費用に上乗せされていた固定費回収原資が、kW価値による収入に置き換わって、kWh価格は下がるはずである。大橋委員の言う「禁止的な価格」も、基本的に発生しなくなる(非常時でなければ発生する必要がなくなる)。

上記(2)の趣旨:容量メカニズムは、市場のプレイヤーのリスクを下げることにより、電気料金を安く抑える。

 「容量メカニズムがある方が料金を安く抑えることができることが理論的に言える」との発言については、少し言葉を補う必要があると思う。

 上述の通り、容量メカニズムがない場合、電源固定費の回収を確保するには、kWh価格が限界費用を上回る時間帯が一定程度存在しなければならない。それは、委員が言うとおり、しばしばピーク時間帯において、禁止的な水準までkWh価格が上昇することによって実現する(これをプライススパイクという)。このような市場は、消費者にとっても、事業者にとってもリスクが大きいものとなる。禁止的な価格に突発的に直面する消費者は勿論であるが、事業者にとっても、いつ起きるか予想することが難しい、あるいは、涼しい夏になってしまったら、全く発生しないかもしれないプライススパイクに固定費の回収を委ねるのは、事業リスクが大きい。市場原理の活用は重要であるが、インフラ中のインフラであり、かつ設備の維持、新設に多額の資金が必要な電気事業が、事業リスクが大きくなりすぎるのは良いことだとは言えない。容量メカニズムは、発電事業者による固定費の回収をより安定的なものにすることによって、事業リスクを緩和する。それにより、安定供給上必要な設備量が安定的に維持されることを目的とする。それは、事業者が調達する資金の金利を下げること等を通じて、電気料金を下げる効果も持つ。

 「容量メカニズムがある方が料金を安く抑えることができる」のはこのような仕組みによるものである。また、容量メカニズムの目的はあくまで「必要な設備量の維持」であり、新設電源に補助金を付与して、電源の「余剰」感を高め、kWh価格が下がる、といったことを期待するものではない。kWh価格が下がったとしても、余剰電源に対する投資が社会全体でロスになるのでは望ましくない(むしろ、余剰電源を淘汰することが、電気事業に市場原理を導入する目的の一つである)。

執筆:東京電力企画部兼技術統括部 部長 戸田 直樹
※本稿に述べられている見解は、執筆者個人のものであり、執筆者が所属する団体のものではない。

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