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岐路に立つドイツの再エネ政策

FIT先進国の「憂うつ」


国際環境経済研究所理事・主席研究員


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(「月刊エネルギーフォーラム」2014年2月号(No.710)からの転載)

ドイツが固定価格買い取り制度(FIT)による再生エネルギー拡大に取り組んで10年以上が経過した。順調に再エネ導入が進む一方で、負の側面も顕在化しつつある。注目を浴びるドイツの再エネ政策について分析する。

 ドイツは1998年に電力市場を自由化し、料金の形成を市場に任せて需給を調整する仕組みに移行した。そうした中、バランスあるエネルギー政策のための補完として、再エネはFITにより固定・長期の買い取りを保証して投資環境を整備し、さらに優先接続・優先給電といった優先利用ルールを設け、自由化市場の外に置いて普及を促進してきた。その結果、発電電力量に占める再エネの比率は200年の6.6%から12年の21.9%と約3倍に拡大し、太陽光発電システムの価格は06年の1W当たり5.1ユーロから13年には同1.7ユーロと約3分の1にまで下落した。FITによって再エネの拡大には成功したが、その結果どんなことが起きているのか。

費用対効果は悪い

 FITによる温室効果ガス(GHG)の削減効果については、ドイツ環境省(BMU)が11年単年で再生可能エネルギー法(EEG)の補償を受けた電気による削減分が約7000万tと、同年の排出量の約8%を削減したと発表している。11年の再エネ賦課金総額が135億ユーロなので、単純計算で1t当たりの削減費用は190ユーロを上回る。これまでも多くの研究で指摘されている通り、排出削減の手段として再エネは非常に費用対効果が悪い。
 また、12年には前年比1.6%排出量が増加。その要因としてアルトマイヤー環境大臣は、石炭火力発電が3.4%、褐炭火力発電が5.1%増加したことを指摘した。この石炭、褐炭火力増加の一因が再エネの大量導入なのだ。補助を受けた再エネの電力が大量に市場に出ることで卸価格が低下したことや、シェールガス革命の影響で米国産の安価な石炭が欧州に流入したこと、CO2排出権の価格下落などの理由によって、石炭火力の競争力が増した影響と考えられている。再エネの導入がGHG削減に直結するわけではない。

増大する国民負担

 下表のように、電気料金は2011年に02年比約1.8倍に上昇しており、その主要因のひとつが再エネ導入の賦課金だ。止まらない賦課金の増大に、連邦消費者センター連盟が「我慢の限界を超えている」とコメントするなど政治問題化。13年5月には、国際エネルギー機関(IEA)からドイツの電気料金高騰に警告を発する文書が出された。
 FITによる需要家負担の総額は買い取り単価と再エネによる発電量の積であり、制度導入からの年月経過に伴ってこの積が層となって積み重なるため、需要家の負担はおのずと増えていく。制度の根本原則が、長期の買い取りを約束して投資に対する利益を確保することで参入を促すものであることから、負担の大きさに気づいて制度の見直しを行っても、既設分の負担については基本的に変更することはできない。また、買い取り価格の改定には議会の承認が必要となる。人為的価格決定プロセスによる買い取り価格の低減は、特に設備価格の下降が著しい太陽光については追いつかず、ブームが長期化しFITによる国民負担増大の要因となってしまった。

 さらに、ドイツでは03年以降、国際競争力の確保などの観点から電力多消費産業の負担を軽減しており、しわ寄せで家庭や中小企業の負担が増大、その不公平感も問題を複雑にしている。電力多消費産業への免除が「特定産業への補助」に当たる可能性もあるとして、欧州委員会から競争法抵触の懸念が示されてもいる。13年11月11日にはEEG改正案の骨子が示されたが、助成金の増大に歯止めを掛ける具体性に乏しいとして批判を受けており、本稿執筆時点で改正の方向は定まっていない。

脅かされる安定供給

 再エネは導入にかかわる政策支援コストのみならず、大量に導入した場合に別途必要となるコストがある。そのひとつが送電線の整備だ。振れ幅の大きい間欠性電源はその導入と並行して送電網を整備し、生み出される電力を大きな需要で吸収することが必要になるが、景観の悪化による地価下落や電磁波による健康影響を懸念する地域住民の反対や、州をまたぐ送電線建設計画の許認可手続きに時間が掛かり、送電線建設は遅々として進んでいない。ループフローによって東欧諸国の安定供給を脅かしており改善が急がれている。

難しい判断を迫られるドイツ政府
 もうひとつ重要なのが調整電源の維持である。再エネは優先接続・優先給電によって保護されているため、その導入量が増えれば、自由化によって競争市場に置かれた従来電源の稼働率は低下する。不安定な再エネが増えれば、系統の安定性を保つために水力やガスタービン・コンバインドサイクル発電などの調整電源が必要となるし、風力・太陽光が稼働しない時のベース電源として石炭火力も維持する必要があるが、これらを保有するインセンティブが働かなくなるのだ。

自由化効果の減殺も

 ドイツ政府は、既存の発電所維持に関する支援策に加えて、新鋭のガスコンバインドサイクル火力発電所などの建設に対して何らかの助成を行うことも検討しているという。従来型電源を市場の価格調整機能の下に置く一方で、再エネは優先利用ルールと固定価格で優遇・助成する措置を進めれば、自由化した市場もまた保護の対象とせざるを得なくなり、自由化の効果を減殺することは踏まえておかねばならない。
 13年2月、アルトマイヤー大臣が発表した試算では、ドイツのエネルギー転換コストは、再エネ賦課金や送電線建設コストなど全てを含めて、30年代末までに1兆ユーロ(約120兆円)に達する可能性があるという。同国の再エネ政策はこれから正念場を迎える。

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