COP18の概要~産業界の視点(第2回)


国際環境経済研究所主席研究員、JFEスチール 専門主監(地球環境)

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(第1回目は、「COP18の概要~産業界の視点(第1回)」をご覧ください)

「宗教」になっている京都議定書

 国民の税金を使った膨大な資金協力の実績を示した日本が「化石賞」で批判される一方で、京都議定書第二約束期間への参加に逡巡していた豪州が、最終的に参加を決めたことは、途上国やNGOから賞賛と喝采を持って受け止められていた。しかしよく見てみると豪州が第二約束期間で実際に掲げた削減目標は、「2020年までに90年比0.5%の削減」というものである。これで賞賛されるのだったら、日本もいっそのこと90年比1%削減目標でも掲げて第二約束期間への参画を宣言して、誉められるべきだったのではないか? そう思ってもおかしくない、実に不思議な展開である。京都議定書はもはや削減のための実質的な枠組みというより、NGOや国連関係者にとって「神聖な」象徴的存在になっているのかもしれない。今年からスタートした京都議定書第二約束期間に参画している国は、EU、スイス、豪州などに限られ、世界排出量の15%しかカバーしていない。一方で中国やインドなどの新興国は経済成長に伴い、排出量を激増させてきており、中国1国が2011年に排出したエネルギー起源CO2は77億トンで日本の排出量の実に7倍近くになっているだけではなく、前年からの排出増加が約7億トンと、日本の総排出量の実に6割以上を1年間で「増やして」いるのである。それを考えればわが国が6%削減しようが25%削減しようが、地球温暖化問題の本質的な解決に繋がらないことは明らかである。京都議定書型の「先進国のみに排出量のキャップをかける」というアプローチを続けることが、実際の地球温暖化対策にとって、ほとんど効果が無いどころか、いまや排出増の主役となっている新興国に免罪符を与えているという意味で、かえってマイナスになるということに各国は早く気づくべきであろう。

暗礁に乗り上げる国連交渉

 今回もCOP交渉自体はKP、LCA、ADPと大きく3つのトラックに別れ、さらにLCAトラックの中が11のサブセッションに分かれて交渉が進められ、日本も各分野に外務省、経産省、環境省、林野庁の交渉官をそれぞれ貼り付けて対応していた。結局資金支援や先進国の責任追及、野心の強化などをめぐって途上国の要求が際限なく盛り込まれていたLCA交渉が紛糾を続け、分科会での合意は得られず、さらにKPだけを先取りされたくないEU、ADPだけを先取りされたくない中国などの思惑もあって、3つのトラックが相互に複雑に絡み合う形で閣僚級のハイレベル協議、全体会議の場に持ち込まれた。
 KPでは2013年以降へのホットエアー(AAU)の持ち越しを条約上の権利とするロシアが議事を止め、ADPでは全体会合の平場で中国が突然「ダーバン合意」になかった「共通だが差異ある責任原則(CBDR)」の追記を執拗に求めて紛糾するなど、会期はほぼ1日延長され、12月8日午後9時半過ぎに全ての決議を終えて終了した。各国交渉官はたびたび中断する議事と、次々と修正される採択文書、個別の協議などに対応するため、最後の40時間あまり、不眠不休の交渉を余儀なくされていた。
 全会一致で決議するはずの合意文書も、ロシアの主張が無視される中で強行採決されるなど、190カ国のコンセンサスを得ることの難しさが浮き彫りになったが、今後主張を無視されたロシアなどがどういうスタンスを取ってくるか、大変興味深い。