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原子力損害賠償法の改正に向けて①


国際環境経済研究所理事・主席研究員


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 国による差異が大きいのは、賠償金額の制限を設定しない無限責任にするか、あるいは、賠償措置額をいくらに設定しているか、という点であろう。無限責任を負わされれば、事業者としては財務的な見通しが立たず、冒頭に述べた原子力損害賠償制度2つの目的のうちのひとつ、「原子力事業の健全な発展」に相反する。にもかかわらず、原子力を国策として推進してきた我が国において、事業者の責任が無限とされた背景については詳しく見る必要があるだろう(以降の回で取り上げる予定)。

 下記に各国の賠償措置額を整理する。

※社団法人日本原子力産業協会「あなたに知ってもらいたい原賠制度2011年版」より作成
※為替レートは2011年11月1日時点
※米国、ドイツについては責任保険に加えて独自の事業者共済制度等を取り入れており、その合計額で表記。

国境を超えた取り組み

 国境を超えて被害が拡大した場合に備え、複数の国際条約(パリ条約、ウィーン条約、原子力損害の補完的補償に関する条約)も存在している。今回東京電力が汚染水を排出した際の近隣各国の反応を見るまでもなく、原子力損害は国境に関係なく広がり、係争に発展する可能性をはらむ。

 原子力損害に関する国際条約には、欧州諸国が加盟するパリ条約(1960年OECD/NEAで採択。1968年発効。2004年に旧条約に参加していた15カ国にスイスが署名して改正パリ条約として採択されたが、未発効。賠償措置額7億ユーロ。)、主に中東欧・中南米諸国が加盟するウィーン条約(1963年にIAEAで採択。中東欧・中南米等の34カ国が参加し1977年発効。1997年の改正条約はアルゼンチン・ベラルーシ・モロッコ等が加盟し、2003年に改正ウィーン条約として発効。パリ条約より賠償措置額が低く、3億SDR)、アルゼンチン・モロッコ・ルーマニア・アメリカが参加するCSC(1997年にIAEAで採択。アメリカは2008年未に批准。2012年6月現在未発効)の3つの系統があるが、日本はいずれも未加盟である。

 これまで日本がこれらいずれの条約にも批准しなかったのは、日本は島国であり偏西風の風向などを考慮しても越境損害の恐れが少ないと考えられること、自国の原子力賠償制度が十分に整っていること、周辺のアジア諸国も加盟していないことなどが理由であったとされる。さらに、ここにも原子力関係者の「日本が事故を起こして、加害国になるはずがない」という意識があったことは否定できない。すなわち、国際条約に批准すると、日本が被害国となった場合には、事故発生国の裁判所が管轄裁判所となり、日本の被害者にとって不利になるから、あえて批准しなかったわけだ。

 しかし、今回の事故で周辺各国が見せた原子力越境損害に関する関心や、福島事故の後もアジア各国は原子力を積極的に導入するというエネルギー計画を変更していないこと等に鑑みるならば、国際条約への加盟を通じてアジア地域における原子力国際賠償レジームを発展させる貢献も、現在の日本には求められるのではないだろうか。チェルノブイリ原発事故で旧ソ連は周辺国に対する補償は何ら行わなかったと言うが、我が国がそのような強硬姿勢を貫けるとは到底考えられず、自国で事故が起きてしまった場合、他国で起きた場合両方に備える意味で、国際的な枠組みづくりを真剣に検討すべきであろう。

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