2011年に向けて新しい議定書案の提示を


国際環境経済研究所前所長

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 温暖化交渉で今回ほど日本が脚光を浴びたのは、京都議定書ができた1997年の第3回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP3)以来ではないか。そう思わせるほど、メキシコ・カンクンで開催されたCOP16では日本の話題で持ちきりだった。理由は、会議開催の冒頭、日本は京都議定書の第二約束期間の設定をしないと啖呵を切ったからだ。

 いつまでも削減義務から逃れようとする途上国、排出量取引市場の市況を維持しようとするEU(欧州連合)が京都議定書の延長に傾くなか、日本は「(米国や新興国が削減義務を負わない)京都議定書では温暖化を防げない。新たな枠組みを考えるべきだ」と主張した。

 これまで、日本外交のひよわさに辟易していた産業界のなかには、こうした毅然とした日本政府の交渉態度に胸のすく思いをした人も多かったであろう。現地、カンクンでも
「よくぞ言ってくれた」
という評価が大半だった。日本政府は期間中、さまざまな国と二国間会談を行って、日本の立場に同感してくれる“友好国”を増やしていく努力を続けた。

 その甲斐あって最終合意では、日本の立場が相当盛り込まれた決定となり、さらに昨年のコペンハーゲン合意の諸要素を盛り込んだ文書が、米中も入る形で正式に採択された。ここまでくれば、産業界としても快哉を叫びたくなるであろう。

新しい議定書案に何を盛り込むか

 しかし、一時のカタルシスに酔っていると、実際の戦況判断を誤る。よく考えてみると、京都議定書そのものが存在しなくなったわけではない。一方、米中も賛成した文書の性格は、法的拘束力がある義務を定めたものではない。つまり、京都議定書に替わる次期枠組みができた、ということにはならないのである。合意の二重構造はまだまったく解決していないのだ。したがって、2011年のCOP17で、日本が今年と同じ状況に陥ることは明白である。

 京都議定書の第二約束期間の設定について同意しなかったことは、同議定書締約国の(拒否)権利としてもともと認められていたものであり、国際法上問題ある行為ではない。今回は、単にそれを再確認したにすぎないという評価もありえる。

 来年までに状況を好転させておかなければならないが、日本に何ができるのだろうか。一言でいえば、新しい議定書案を提示することだと考える。

 新しい議定書案のなかには、これまで真剣に検討されてこなかった途上国に対する具体的支援策について提示することが欠かせない。削減目標のレベルも大事だが、法的に拘束すべき対象を削減目標達成のための政策措置とできないものだろうか。また、これまで劣後してきた「適応」について、本当に困っている途上国に対して何が貢献できるのかを検討するべきではないか。こうした点が手掛かりとなるであろう。

 議定書に基づく国際システムを支える法的構造も重要となる。その点については、温暖化交渉は貿易交渉と似ている。多国間がぎりぎりのバランスで妥協しつつ、成り立った国際システムをどのようにガバナンスするか、貿易交渉の世界では、さまざまな方法論が編み出されてきた。温暖化交渉でも、こうした先達の知恵を拝借し、次の議定書の骨格を検討していくことが重要なのである。

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