大手新聞が報じないゲノム編集トマト「ハイギャバ」の快進撃!
小島 正美
科学ジャーナリスト/メディアチェック集団「食品安全情報ネットワーク」共同代表
日本はいま、ゲノム編集食品の開発・実用化で世界の先頭を走っていることをご存じだろうか。その先兵役を果たしているのが、「血圧が高めの方の血圧上昇を抑える」などの機能性をもったギャバ(GABA)を多く含むゲノム編集トマト「ハイギャバ」だ。大手メディアはほとんど報じないが、実は、このトマトはいま関東地方のスーパーマーケットを中心に約500店舗で販売されている。7月にはトマトジュースの販売も実現した。反対運動をはねのける快進撃だ。
中堅スーパーで「ハイギャバ」
私(筆者)の自宅近くにある千葉県白井市内のスーパー「ヤオコー」で「ハイギャバ」と大きく表示されたトマトを見つけた(写真1)。「ギャバ」(GABA=ガンマ-アミノ酪酸)はアミノ酸の一種。どんな機能性があるかは、商品の包装を見てすぐに分かる。トマト1個で「血圧が高めの方の血圧を下げる」、2個で「仕事や勉強による一時的な精神的ストレスを緩和する」、5~7個で「睡眠の質を高める」と「肌の健康を守る」と4つの機能性が表示されている。4つの機能性を同時に訴求する生鮮食品は極めて珍しい。包装の裏を見ると、「このトマトはゲノム編集技術で品種改良をしました。厚生労働省・農林水産省へ届出済」と表示されている。
関東地方を中心に約500店舗で販売
ハイギャバトマトは、2020年に日本で初めて国(消費者庁)へ届け出られたゲノム編集食品の第1号だ。筑波大学発のベンチャー企業「サナテックライフサイエンス社」(東京)が開発した。消費者のイメージが特に良くなったと思われるのは、2022年に健康効果を表示できる「機能性表示食品」(消費者庁所管)を取得してからだ。
当初はインターネット販売だったが、約3年前から、スーパーでの本格的な販売が始まった。当初は比較的高級な店舗で販売されていたが、「健康によいトマトで消費者の健康増進に寄与したい」との必死の営業努力が実り、徐々に販売網が拡大していった。そして、ついに今年6月時点で関東地方のスーパーを中心に約500店舗で販売されるまでになった。さらにいまでは東北、東海、関西などでも販売する店が出てきた。
25年9月、テレビ朝日系列の人気番組『林修の今知りたいでしょ!』でハイギャバトマトが取り上げられ、血圧上昇を抑える効果が紹介されたことも、取り扱いスーパーが増えた一因だという。
また、GABAの機能性をうたう機能性表示食品としての生鮮トマト(通常の品種交配で誕生)は他にもあるが、ゲノム編集技術で生まれたハイギャバトマトのGABA含有量(100gあたり95mg以上)は他のトマトよりも際立って多いという付加価値の高さも取り扱い量を増やしているようだ。いずれにせよ、これだけ広範囲の地域で生鮮のゲノム編集食品が手軽に買える状況は、間違いなく世界で初めてだろう。
生産地も10県以上へ拡大
これだけ多くのスーパーで販売ができるようになったのは、25年夏、同社が自前の物流センター(パッキング加工工場)を関東地方に新設し、直接、スーパーや卸売店に配送し始めてからだ。以前は東京の大田市場(中央卸売市場)を通していた。トマトを栽培するハウス生産施設の場所も徐々に増え、いまでは北海道、青森、栃木、茨城、千葉、広島、熊本など10県を超える。
将来は海外での販売も視野へ
これまで生鮮トマトとトマトピューレが販売されていたが、7月には缶入りトマトジュースも登場した。1缶あたりハイギャバトマト約20個分に相当する200mgのGABAを含む。価格はオープン価格だが、1缶約250~300円(税別)だ。
このトマトジュースの発売を記念して、7月22日、以前からハイギャバトマトをメニューに取り入れている東京都千代田区のレストラン「エノテカドォーロ平河町店」で試食を兼ねたメディア向けセミナーが行われた。ハイギャバトマトを食べ始めてから、薬の降圧剤が不要になったという男女が体験談も披露した。
このセミナーで分かったことは、すでにシンガポール、フィリピン、カナダでもハイギャバトマトの販売が承認され、年末には米国でも承認される見込みだ。いずれは海外の会社と提携し、日本と同様の生産販売ビジネスモデルを築いていく構想もあるという。
当初からハイギャバトマトの普及に力を入れてきた竹下達夫・サナテックライフサイエンス代表取締役会長は「巨大資本がなくても、新しいテクノロジーを生かしたゲノム編集食品がここまで来たという意義は大きい。反対運動で何度も営業妨害にあっているが、食べ続けた結果、血圧が下がったという人が増えるなど口コミ効果もあり、伸びている。将来的には海外の会社とも提携していきたい」と今後の抱負を述べた。
反対運動との攻防
ゲノム編集トマトがここまで延びるとは私の予想を上回る快進撃だ。ただ、残念なことに日本消費者連盟などが中心となって、多くのスーパーに公開質問状を送り、販売中止を求める抗議活動を続けている。この抗議は、自分たちの気に入らない商品は店で売るな、というだれがどう見ても独善極まりない活動のように思える。私の知り合いのスーパー関係者は「店側は営業妨害だと訴えてもよいのでは」と憤りを隠さない。かつては、反対派の人が店に来て抗議の声を挙げたため、販売をやめた例も少ないながらある。
こうしたことから、サナテックライフサイエンス社は、「ハイギャバトマトはゲノム編集技術を用いて品種改良したと表示し、消費者の知る権利に配慮している。安全性に懸念があると反対されているが、その科学的な根拠を示す査読付き論文や研究報告などを示してほしい。販売中止の要請は消費者の選択する権利を奪うものだ」といった内容の質問状(同社ホームページに掲載)を日本消費者連盟に送るなど積極的な対応を見せている。
いまのところ、反対運動に共感するメディアは出てきていない。ゲノム編集食品に関するルールを決めたのは国であり、そのルールに則って販売する事業者に何ら落ち度はない。抗議をするなら国にするべきで、店舗への反対活動は業務妨害にあたると思っている人はメディアの中にも多いのではないかと察する。
現在、日本では、国に届け出られたゲノム編集食品は海外発の開発事例も含め、肉厚のマダイや成長の速いフグ、褐変しにくいバナナなど11品目ある。一見多く見えるが、身近なスーパーで購入できるのは、このハイギャバトマトだけだ。今後、日本発のゲノム編集食品が広く普及するかどうかは、このハイギャバトマトの成功いかんにかかっているといっても過言ではない。
※「ゲノム編集技術とは」。狙った遺伝子を効率よく書き換える技術。自然界でも起きる突然変異を人為的に効率よく引き起こす技術と言い換えてもよい。外部から遺伝子を挿入する遺伝子組換え技術とは異なる。従来の品種改良と変わらないため、安全性に問題はなく、法的な安全性審査も不要だが、実際には届け出の段階で関係省庁が「外来の遺伝子が入っていないか」など安全性をチェックしている。












