エネルギー自立を国策の根幹へ

~ S+3Eの高度化に向けた意見 ~

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代表幹事 山口 明夫
エネルギー政策委員会 委員長  北野 嘉久
委員長 見學 信一郎
委員長  兵頭 誠之

近年、国際社会を取り巻く環境は大きく変化している。中東情勢の緊迫化やウクライナ情勢の長期化、米中間の覇権争いの激化など、地政学リスクが高まっている。これに伴い、化石燃料価格は不安定化し、エネルギー供給の脆弱性が改めて顕在化している。また、AIの急速な進化・普及により、データセンターをはじめとする電力需要は今後大幅に増加することが指摘され、エネルギー政策は経済・産業基盤を左右する重要な局面を迎えている。

こうした状況下において、経済安全保障の観点から自立性の高い「安全性、安定供給、経済性、環境適合」(以後、S+3Eと呼ぶ)の同時達成は、我が国の国力の基盤である。エネルギーの安全かつ安定的な確保はもとより、国民負担や産業活動に配慮した経済性、脱炭素社会の実現に向けた環境適合を総合的に満たすことが不可欠であり、いずれか一要素に偏した政策運営は避けなければならない。

自立性の高いS+3Eを同時に達成するためには、長期的視野に立って非電力と電力双方を捉えたエネルギーシステム全体の最適化を目指すことが肝要である。日本は、地理的条件、電力系統の特性、自然災害の多発、そして資源輸入構造といった、他国とは異なる制約を抱えている。こうした日本固有の状況を踏まえ、海外のエネルギーモデルをそのまま適用するのではなく、日本型のS + 3Eの最適解を構築していくべきである。

なお、エネルギー自立に向けては、動力、還元や熱等に利用される化石燃料(非電力エネルギーシステム)の問題も重要であるが、本意見はその第一歩として、主に電力供給に論点を絞り、非電力並びにその電化等に関しては、別の機会に譲りたい1

1.問題意識

我が国は一次エネルギーの大宗を海外からの輸入に依存しており、資源価格の変動や国際情勢の不安定化が、企業活動や国民生活に直接的な影響を及ぼしやすい構造にある。特定の地域や撚料に過度に依存しない供給源の多角化を進めるとともに、中長期的には、国内で確保可能なエネルギーを最適なかたちで活用し、エネルギー自立度を可能な限り高めていくことを、戦略的かつ継続的に進めていく必要がある。

この観点からも、また、脱炭素社会の実現に向けた努力の観点からも、太陽光や風力といった再生可能エネルギーの拡大は不可欠である。また、再生可能エネルギーには大規模電源化に比し導入のリードタイムが短く、需要の増加に対し機動的な導入が可能となる点や、一定の条件下では限界費用が低くなる点に利点がある。一方で、我が国では、地形や土地利用の制約に加え、近年、太陽光パネルの設置等を巡る自然環境への影響や景観、地域共生といった観点から、立地を巡る課題も顕在化しており、再生可能エネルギーの利活用にあたり、競争力に長けた立地には限りがある。また、良好な自然条件を有する地域が需要地から離れている場合も多く、電力を大量かつ安定的に送電するための系統整備には時間とコストを要する。加えて、太陽光や風力由来の電力は天候や時間帯によって発電量が大きく変動するため、導入拡大には、周波数や電圧の安定化・調整力を補強する設備、バックアップ電源や蓄電設備の導入などが必要となる。

こうした点を踏まえると、エネルギーの経済性を評価する際には、個々の電源の発電単価といった限定的で短期的な想定に基づく指標のみで判断するのではなく、中長期的な想定に基づく指標や、供給途絶や価格急変による影響、脱炭素対応に伴う追加的な設備投資共運用コスト、需要家側で発生するコストなどを含めた、社会全体としての総コストをいかに最小化するかという観点から捉えることが重要である。

さらに、エネルギーシステムの強靱化においては、あらゆるリスクに備えて、すべての設備や機能に一律な冗長性を持たせることは、システム全体では過度な冗長性に陥る可能性があるので、必ずしも合理的な解とは限らない。想定されるリスクの大きさや発生確率、影響の範囲を踏まえ、どの分野にどの程度の備えを講じることが最適かを見極め、レジリエンスを適切に最適化していくことが求められる。限られた資源や過度とならない負担の下で、安全性と安定供給を両立させるためには、全体としてバランスの取れたエネルギーシステム設計が不可欠である。

2.目措すべき方向性

エネルギーの自立性、安全性、安定供給、経済性、環境適合を同時に満たすためには、単一のエネルギー源や技術に依存するのではなく、原子力、再生可能エネルギー、 移行期における化石燃料を適切に組み合わせた一次エネルギーミックスを構築することが不可欠である。移行期の化石燃料については、従来型の利用にとどまらず、CO2回収・貯留や水素・アンモニア利用等について、その実効性やコスト、脱炭素への寄与を合理的に検証した上で活用を検討する必要がある。こうした多様な選択肢を前提に、日本の国情や技術進展、国際環境の変化を踏まえながら、最適なエネルギーミックスを不断に追求していくことが重要である。

あわせて、電力エネルギー供給のあり方については、大規模電源と分散型電源、安定電源と変動電源の役割分担を、日本の条件に即して戦略的に設計していく必要がある。電力供給は、発電量の確保だけでなく、電力系統全体を安定的かつ効率的に運用するという観点から総合的に検討することが重要である。

これまで、火力発電や原子力発電といった大規模電源は、電力を安定的に供給する主力電源としての役割に加え、電力系統(送電網)全体の安定運用を支える基盤的な機能を担ってきた。具体的には、大型の回転機械を用いた発電設備として、回転の慣性により電力の周波数の乱れを抑えるとともに、回転速度を自動調整するガバナー機能により、需給バランスの変化にも迅速に対応してきた。また、これらの設備は、送電網の電圧を安定させるために必要な電力(無効電力・VAR)を十分に供給することができる。大規模電源が担ってきたこれらの機能は、日常的には目に見えにくいものの、 停電や電力品質の低下を防ぎ、電力の安定供給を確保する上で不可欠である。

一方、太陽光や風力といった再生可能エネルギーを由来とする電力は、脱炭素に大きく貢献する一方、天候や時間帯によって発電量が変動する特性を有している。この変動性に対応するため、近年では蓄電池等を組み合わせ、制御技術を高度化することで、悪天候時の出力低下への対応、エネルギー不足の補填、周波数調整、電圧調整といった機能を、技術的には実装可能になりつつある。しかしながら、現時点で、悪天候の長期化や季節間ギャップまで含めて、全てを蓄電池等で包括的に担おうとすると、 大規模な設備追加が必要となり、電力システム全体のコストが増大する可能性が高にもかかわらず、再生可能エネルギーや蓄電池由来の電源に対して、従来の火力・原子力由来の電源と同等の周波数調整や電圧調整の機能等を個別に一律要求することは、再生可能エネルギー由来の電源が有する一次エネルギー自給性や低限界費用といった強みを毀損し、電力システム全体のコストを不必要に増大させるおそれがある2

したがって、系統安定化機能は、電源の区別なく同等要件を一律に課すのではなく、 供給信頼度や周波数・電圧の安定性といった系統全体のKPIとして定義したうえで、 必要十分な機能を最小コストで実装するという「システム全体最適」の考え方に立脚すべきである3。その際、系統全体最適の観点から適切に設定するとともに、地域系統の安定運用に資する導入規模を示していく必要がある。

諸外国の中には、太陽光や風力発電の比率を高めたエネルギーシステムを構築している国も存在する4が、日本は、自然条件や国土の制約、需要地と電源立地の距離、電力系統の構造といった前提条件が大きく異なる。また、我が国では、高密度エネルギー多消費型・ベースロード型の基幹素材産業が、製造業全体のサプライチエンを下支えする役割を果たしており、安定的かつ競争力あるエネルギー供給は、産業基盤の維持に不可欠である。また、その他の産業においても、同様の電源を必要とするケースが多い。こうした違いを踏まえ、大規模電源が担ってきた系統安定機能と、再生可能エネルギーおよび蓄電由来の電源の役割を適切に組み合わせた「日本型」の全体最適を追求していく必要がある5

3.具体的施策の提言

上記を実現するため、「原子力利用拡大、規制のアップグレーディング」、「再生可能エネルギーの検討深化、電力システム最適計画の制度化」、「国民理解・信頼の再構築」 につき、具体的施策を以下の通り提言する。

(1)原子力利用拡大、規制のアップグレーディング

原子力発電は、長期にわたる自立性の向上や安定供給、脱炭素を支えるとともに、 電力系統の安定運用に不可欠な機能を提供する現実的な主力電源オプションの一つとして位置づけられる。原子力発電は、事故リスク、廃炉・廃棄物対応、立地地域との関係といった固有の課題を併せ持つ電源であるが、これらの課題に真摯に向き合い、安全性の不断の向上と社会的理解の確保を前提として、活用していくことが重要である。

原子力の利用拡大を進めるためには、安全性の不断の向上と同時に、事業環境としての合理性や予見性を高め、長期的な投資判断が可能となる制度設計を確立していくことが不可欠である。現行の規制体系は、福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえ、高い安全水準を実現するために重要な役割を果たしてきた一方で、審査の長期化や判断プロセスの見通しにくさが指摘されており、これが原子力発電の既設の再稼働だけでなく、新増設や関連投資の大きな制約要因となっている。こうした課題を踏まえ、安全性の確保を前提に、規制の実効性と投資の予見性を両立させる制度へと、原子力規制のアップグレーディングを進めていくべきである。地政学リスクが高まるなか、安全性確保のうえで既設の再稼働が進むことは、エネルギー安全保障の強化にも資する。

 ①審査の効率化・合理化

まず、限られた審査資源を真に重要な安全論点へ集中させるために、審査の効率化・合理化が求められる。すべての案件に画一的な対応を行うのではなく、案件の内容や安全上の重要度を踏まえ、審査資源を適切に配分することが重要である。

具体的には、安全性への影響が限定的な変更や手続については、手続の簡素化を進めるなど、実質的な安全性を損なうことなく、審査プロセスの適正化を図る必要がある。これにより、規制当局・事業者双方の負担を軽減し、より重要度の高い審査に注力できる体制を整えることが、結果として安全性の向上と投資環境の改善の両立につながる。

 ②規制の予見性向上

また、事業者が投資判断を行うためには、審査に要する期間や、審査過程における評価の考え方や判断の方向性について、一定の見通しが得られることが不可欠である。しかしながら、現状では、安全審査が長期に及ぶケースが少なくないことに加え、審査の進行過程において、どのような論点が重視され、どの段階で追加的な検討や対応が必要となり得るのかについて、事前に把握することが難しいとの指摘もある。こうした状況は、原子力発電の新増設や関連投資における不確実性を高める一因となっている。

このため、規制の厳格性や個別案件ごとの専門的判断を前提としつつ、審査プロセス全体の予見性が高まるような運用の実現が重要である。他国の事例等6を参考に、安全性の確保を前提に、審査に要する時間、評価の観点、追加的な検討が必要となる可能性について、合理的に理解し見通すことのできる規制運用を実現することが、原子力分野への安定的な投資を促すものと考えられる。

 ③革新炉対応

加えて、小型モジュール炉(SMR)をはじめとする革新炉については、出力規模や設計思想、受動的安全機能の活用など、従来の大型軽水炉とは異なる特性や安全設計が採用されていることを踏まえ、既存の安全規制の基本的考え方を維持しつつ、これらの特性に即した規制の適用のあり方を検討していくことが必要である。

既存炉向けの規制を形式的に適用した場合、革新炉の特性に必ずしも即さない要求や論点整理が生じ、結果として審査の長期化や審査プロセスの不確実性が拡大し、技術開発や事業化に向けた見通しを立てにくくするおそれがある。安全性の確保を前提に、革新炉のリスク特性や安全上の特徴に応じた規制運用の在り方を検討・整理することにより、技術開発から社会実装に至るまでの見通しが高まり、将来に向けた原子力分野への研究開発や投資を後押しすることにつながる7

 ④人材・体制の強化

これらの取組を着実に進めていくためには、その基盤として、原子力規制当局等における人材・体制の継続的な強化が不可欠である。原子力分野の安全規制は高度な専門性と慎重な判断を要するとともに、再稼働審査、高経年化対応、福島第一原子力発電所の廃炉対応、さらには革新炉への対応など、業務内容が多様化・高度化している。こうした状況を踏まえ、審査の厳格性を維持しつつ、安定的かつ持続可能な規制運用を支える体制整備が求められる。

具体的には、原子力規制に不可欠な専門分野における次世代人材を計画的に育成するとともに、現場経験や高度な技術的知見を有する人材が中長期的に知見を蓄積・継承できる環境を整備することが求められる。あわせて、規制当局としての独立性・中立性を確保することを大前提に、透明性の高いルールの下での人材流動や多様なバックグラウンドを持つ人材の活用を検討し、専門性と公正性を兼ね備えた体制の維持・強化を図ることが重要である。

(2)再生可能エネルギーの検討深化、電カシステム最適計画の制度化

再生可能エネルギーは、エネルギーの自立性向上と脱炭素の実現に向けた中核的なエネルギー源であり、その導入・活用の拡大は不可欠である。技術進展や蓄電コスト低減の成果を最大限活かしつつ、日本の自然条件や電力システムの特陛に適合した形で導入・活用を進めていくことが重要である。

その際、再生可能エネルギー由来の電源の活用にあたっては、電力の需要特性に応じた役割分担を明確にすることが有効である。すなわち、大規模かつ24時間365日稼働のベースロード的電力需要については安定的な大規模電源で支える一方、地域分散型の需要については再生可能エネルギー由来の電源やその他の分散電源を効果的に組み合わせる余地がある。こうした需要と電源配置の最適化を通じて、系統全体として最小コストで最大の安定性を実現する導入のあり方を追求すべきである8

例えば、大都市圏に広く整備されている都市ガス配給網との連携を活かし、オンサイト型の分散電源や電力・熱併給(CHP)を適切に活用するとともに、デマンドレスポンス、省エネルギーといった需要側資源を含め、電力と熱を一体として捉えた統合的な最適化を進めていくことも有用であろう。

このように、再生可能エネルギーのー次エネルギー自給性という価値を最大化しながら、電力系統の安定性・信頼性・経済性を同時に確保するためには、日本固有の地理的・社会的制約条件を定量的に把握した上で、電力システム全体を対象としたシステム工学的な最適設計の考え方を計画策定や制度運用の中に組み込んでいくことが不可欠である。具体的には、電力システムを複数の要素が相互に関係する「System of Systems」 として捉え、以下のアプローチを基本計画概念として明示するとともに、定期的に最適化プロセスを回す枠組みを整備すべきである9

電カシステム最適計画の制度化(System of Systems) 基本計画概念10


 ①原子力電源立地に関する現実的な前提設定

社会的制約として、限られた原子力電源立地を所与の上限とし、楽観的な新増設を 前提としない現実的な計画とする。

 ②再生可能エネルギー由来観夏の立地制約の明示

限られた国土面積や平地条件、自然環境保護に対する社会的価値観を尊重し、太陽光発電等についても過度な導入期待を排し、用地制約やゾーニングを計画に織り込む。

 ③需要特性を踏まえた電源・系統配置の最適化

中低圧系に属する分散型需要と、高圧・特別高圧における大容量・高VAR変動型需要という需要ポートフォリオや需要プロファイルを踏まえ、既存の超高圧から低圧までの電力系統の価値を最大限に活用しつつ、集中大型電源、分散型中小電源、蓄電池、需要応答、系統増強の最適な配置を図る。

 ④ガスインフラとの連携による総合効率の向上

大都市圏に普及する都市ガス配給網との組み合わせにより、オンサイト分散型の電力・熱併給(CHP)等を活用し、一次エネルギー利用効率の向上と電力系統への負担低減を図る。

 ⑤現実的な電源ポートフォリオの構築

上記を前提に、太陽光・風力・蓄電池と、系統の安定性を支えるアンカーとしての原子力、ならびに移行期における可制御電源としての高効率火力等を、現実的かつ実践的に組み合わせた電源構成を策定する。

 ⑥定量的最適化の制度化と継続的更新

社会的総コスト最小化を目的関数として明示し、自立性、供給信頼度、周波数・電圧の安定性、立地・用地上限、燃料調達や価格変動リスクといった制約条件を設定した上で、シナリオ分析、感度分析、ロバスト性評価を通じて、計画を継続的に検証・更新する仕組みを制度として定着させる。

(3)国民理解・信頼の再構築

エネルギー政策の持続性を確保するためには、技術や制度の整備に加え、国民の理解と信頼の再構築が不可欠である。エネルギー問題全体について、国民一人ひとりが便益・費用と課題、リスクや不確実性を理解できるよう、国や事業者が率直かつ分かりやすく情報を開示し、継続的な対話を重ねていくことが重要である。

特に原子力を含むエネルギー政策においては、電力を利用する消費地と、発電所等を受け入れてきた立地地域との間に、認識や関心の差が生じやすい構造にある。このため、エネルギーの恩恵を享受する消費地が、立地地域の役割やこれまで担われてきた負担への理解を深め、ともに考えていく立地地域・消費地の相互理解促進の取組を重視していく必要がある。こうした双方向の対話と連携を通じて、エネルギー供給を社会全体で支えるという認識を共有していくことが、政策への信頼の再構築につながる。

さらに中長期的には、国民一人ひとりがエネルギー問題を主体的に考える基盤を整えるため、エネルギー教育の一層の充実が求められる。現在、学校教育等においてエネルギーに関する学習は一定程度行われているものの、原子力や再生可能エネルギーを含め、それぞれの電源の特性や課題、コストや安定供給との関係を横断的・体系的に理解する機会は必ずしも十分とはいえない。このため、学校教育や社会人教育を通じて、エネルギーの選択肢やトレードオフを整理し、比較・判断するための基礎的なリテラシーを高めていくことが重要である。こうした取組は、科学的で建設的な議論を可能とし、原子力を含むエネルギー政策に対する国民の理解と信頼を中長期的に支える基盤となる。

経済同友会は、多様な経歴や視点を持つ経営者が個人として参加し、自由闊達な議論を行うことを特徴とする経済団体である。本会は、今後も、関係省庁、地方自治体、研究機関、教育界、産業界、地域社会など幅広い主体や、各地同友会との熟議を通じて、社会の多様な声をつなぎ、建設的な議論を促すカタリスト(触媒)としての役割を果たしつつ、長期的視野に立ったエネルギー自立の実現に向けた提言を提言していく。

脚 注

1.
動力、還元、熱等に利用される化石燃料については電化や非化石化が求められるが、電化の進展には、その前提として、自立性の高いS+3Eを満たす電力の供給の確保が不可欠である。このため、本意見ではまず電力供給を論点として取り上げる。
2.
例えば、100万kW級の24時間365日稼働する大規模ベースロード型電源(大規模電源)と同等の安定電力供給を、 日本特有の長梅雨時における低日照条件下においても、太陽光発電と蓄電池等で確保しようとする場合、大規模な蓄電容量あるいは大規模な太陽光発電設備容量が必要となる。その結果、一定の前提条件のもとでCAPEXおよびOPEX を算出すると、大規模電源と比較して、電力コストが10-20倍に増加するとの試算がある。
3.
エネルギーシステムは、さまざまな楽器が役割を分担して演奏する 「オーケストラ」に例えることができる。それぞれの楽器には、音域や音色、得意とする役割があり、すべての楽器に同じ音や同じ機能を求めることはかえって全体の調和を損なう。同様に、電源にも固有の特性や強みがあり、それぞれの役割を活かして組み合わせることで、初めて系統全体として安全性・安定供給・経済性・環境適合(S+3E)を高い水準で実現できる。特定の電源の一部の特徴だけに着目し、すべての機能を一律に求める設計は、全体の効率を下げ、結果的にコスト増や安定性の低下につながるおそれがある。
4.
例えば、欧州域内では、大規模洋上風力発電の開発が行われてきた。今後、日本で洋上風力を活用するにあたっては、先進地域である欧州の知見を取り入れつつ、日本の自然条件や電力システムの特性を踏まえ、エネルギーシステム全体の最適化という観点から検討することが重要である。
5.
本意見では詳述していないが、次世代型地熱発電や、ペロブスカイト太陽電池についても、今後の導入・活用にあたっては、自立性・経済性・環境適合等、それぞれ固有の強み・弱みを総合的に考えて、システム全体最適の観点から検討されるべきである。
6.
例えば、米国では、原子炉の具体的な設計や建設許可の審査に先立ち、立地地点に関する安全性や環境条件等を先行的に評価・確認する「早期サイト承認(Early Site Permit)」の制度が導入されている。この制度は、立地条件に係る論点をあらかじめ整理・確定することにより、後続の建設許可等の審査において、同一の立地条件に起因する論点の再発や手戻りを抑制し、審査プロセス全体の効率性や予見性の向上に資するものとして運用されている。
7.
例えば、米国では、原子力規制において「グレーデッドアプローチ」が用いられ、リスクの大きさや影響範囲に応じて、立証の詳細度や審査の着眼点を差別化する考え方が制度的に整理されている。
8.
本会では「第7次エネルギー基本言価に向けた意見」(2024年8月2日)にて、『「ベストアロケーション(最適割当)」、すなわち、全ての分野・領域での省エネ(エネ利用効率向上)を徹底することを大前提に、誰が(例えばセクター別)、どのようなエネルギーを使うか(非電力含む)について、「ベストミックス」 と同様に将来シナリオを描くべきである」とし詳述している。
9.
日本のエネルギー総需要の約半分を占める非電力については、電化や非化石化の進展が見込まれ、また、その動きは日本の産業政策、社会政策、地方創生等の動向に大きく影響される。これにより、電力システム全体における需要構造は、短期・中期・長期にわたり継続的に変化する可能性がある。したがって、こうした構造変化を踏まえ、前提条件を適時更新しながら、電力システムの最適化を図るための枠組みを整備し、投資環境整備(予見性強化)に資するように運用することが重要である。
10.
今後、上述の「電力システム最適計画の制度化」の更なる具体化・試算にあたっては、外剖機関との連携等も検討し進めたい。