環境問題の解決 利点と欠点
山本 隆三
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授
(「環境市場新聞 2026年(令和8年)夏季 第85号[季刊]」より転載)
中国の大気汚染の写真を見たことがあるでしょうか。10年程前まで中国の大都市では微小粒子状物質(PM2.5)による大気汚染が深刻な問題でした。1960年代、70年代の高度成長期の日本も公害問題を抱えていたので、経済発展がもたらす副産物といえます。
大気汚染がある時期でも、中国の大都市で国際会議などを開く際には汚染もなく青空が見えました。なぜでしょうか。開催前から近郊の工場や発電所の操業停止、建設工事の中断が命じられ、期間中は自動車の走行も、ナンバー末尾の偶数、奇数で制限されました。
日本では公害対策に硫黄酸化物(SOX)、ばいじんなどの排出量、濃度を規制する法律と条例が定められました。国や地方自治体による排出の抑制は規制的手法と呼ばれます。自動車の排ガスのように機械性能の規制もあります。メリットは確実に削減できることですが、規制のための行政のコストが必要です。
コストがかかる規制ではなく市場のメカニズムを利用し削減を図る手法もあります。物品の価格は需要と供給の関係で決まると習います。価格が高すぎると購入者は出てこず価格が下がります。 安すぎると購入者が殺到し価格が上昇します。需要量と供給量が一致する点で価格が決まります。 一旦決まった価格が上昇すれば何が起きるでしょうか。需要は減少します。
市場を利用する方法では、環境へ負荷をかける物品の価格を上昇させ販売数量を削減することで環境問題の解決を図ります。例えば二酸化炭素(CO2)排出量の削減のためガソリンに税金をかけ価格を上昇させます。日本をはじめ多くの国ではガソリンに課税していますが、炭素税によりガソリン価格を高くする国もあります。日本にも石油石炭税があります。
ただ市場メカニズムを利用する方法には大きな課題があります。価格の上昇が消費量を減らすかどうかは、対象の物品次第だからです。
例えば、特定の野菜の価格が上がると需要は落ちます。では、ガソリンの需要は落ちるでしょうか。価格上昇により需要が減少する関係は、価格弾性値と呼ばれます。キャベツの価格が10%上がり、需要が20%減れば価格弾性値は20%を割る10%で2.0になります。では塩ではどうでしょうか。必需品の塩の価格が上昇しても、需要はほとんど減らないことがわかっています。価格弾性値はゼロに近くなります。
ガソリンの価格弾性値については国内外で多くの研究があります。正確な数字はわかりませんが日本では0.05から0.1。米国では0.1から0.2との研究もあります。仮に0.1として単純計算してみると、価格が2倍になっても消費量は10%落ちるだけです。イラン戦争により米国ではガソリン価格が3月に平均30%上がり需要は3%減りました。価格弾性値は0.1です。炭素税でCO2の排出量削減を図るためには大きな価格上昇が必要になり、消費者の負担が大きくなるという問題があるのです。










