米国トランプ政権の政策と電力
「All-of-the-Above」エネルギー・アプローチへの帰着


一般社団法人 海外電力調査会 調査第一部長

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【はじめに】

米国とイスラエルが本年2月28日にはじめたイランへの軍事攻撃は、エネルギー輸送におけるチョークポイントであるホルムズ海峡の封鎖を現実のものとしながら、石油および石油製品のサプライチェーンの混乱がもたらす経済影響のマグニチュードを世界に実感させることとなった。産油国として原油の供給において大きな影響力を持ちつつも、自国のエネルギー価格においてはプライステイカーとしての側面が強い米国自身がガソリン価格の高騰を受けて、政治的課題に直面することとなった。この過程で、トランプ大統領が第一次政権時に離脱したオバマ政権のレガシーの一つ「イラン核合意」がハードルとなって、戦闘終結に向けた米イラン協議が難航してきたことは周知のこととなっている。


米国内のエネルギー供給構造に目を向けても、現トランプ政権(第二次)は、「エネルギー・ドミナンス」を標榜しつつも、オバマ政権以降続く「All-of-the-Above」エネルギー・アプローチ(エネルギー安全保障と経済成長を念頭に国内で利用可能なすべてのエネルギー源を開発・活用するという政策方針)の描いた姿から大きく異なった道筋をつけることができたようには思えない。

戦略的技術資源としての先進炉、既存大型軽水炉への期待

米国の有識者のなかには、第一次トランプ政権と現在を比較して、「何を実現したいのか、そのために何をするのかということがより鮮明になり、政権期間中に初号機を実装するためには規制のあり方をも変えていくという強い政治的意志のもとに、SMRをはじめとする先進炉についてはこれがプラスに働き、推進力となっている」との見方が存在する。

2025年5月にカイロス・パワー社が進めるフッ化物塩冷却高温炉の発電を伴わない試験炉「ヘルメス(Hermes)」の安全関連施設へのコンクリート初打設が行われ、2026年4月には、テラパワー社が進める高速炉「ナトリウム(Natrium®)」を装着予定のケンメラー1号機がワイオミング州ケンメラーで、また、カイロス・パワー社の実証炉「ヘルメス 2(Hermes 2)」がテネシー州オークリッジにおいて、それぞれ起工するなど、先進炉の実装に向けて、着実に進展がみられる。筆者が初めて両社を訪問した2019年には、そこに働く人々の熱気は感じながらも、コンセプチュアルな域を脱さない印象が強かっただけに、現在の想像を超える進展に、データセンター需要が牽引するかたちでの電力需要のブレイク、米ビッグテックの安定したクリーン電力の供給源としてのこれらの技術へのアペタイト(欲求)がいかに大きな変化を誘発しているかを実感する。カナダのオンタリオ電力公社(OPG)が、同州ダーリントン原子力発電所で建設を進めるSMR「BWRX-300」を含めると、2030年前後には、北米で複数の先進炉が電力を供給しはじめることになる。

HermesおよびHermes 2を擁するカイロス・パワー社のオークリッジキャンパス
(出典:Kairos Powerホームページ)

一方で、「これらのドライバーがもたらす変化は意義ある一歩であっても、エネルギー全体のポートフォリオを俯瞰した場合、短期的、量的な効果は限定的」との見方も少なくない。当面は、異次元のスピードで伸びるデータセンター需要、これに伴うマイクロソフト、アマゾン、グーグル、メタとの長期売電契約の締結など、事業基盤の改善が見られる既存の大型炉軽水炉の運転延長、或いは、廃止措置から方針転換した再稼働に期待が集まる。少なくとも現在の状況は、一部の州でゼロエミッション・クレジット(ZEC)の付与を通じて退役を回避するべく政策支援してきた時代とは一線を画している。ペンシルベニア州スリーマイルアイランド(TMI)1号機(「クレーン・クリーン・エネルギー・センター(CCEC)」に改名)、シングルユニット・サイトであるミシガン州パリセード、ワイオミング州デュアンアーノルドなど再稼働を目指す大型炉軽水炉のなかで、パリセードが先行する。

いずれにしても、米国では、現在も94基の原子炉が稼働し、93%という高い利用率のもと、全米の電力のおおよそ2割を供給するという強固なベースがあり、減少する基数を業界挙げてのイニシアティブ「デリバリング・ザ・ニュークリア・プロミス」のもと、好事例を水平展開し、利用率の向上で補ってきた歴史があることを忘れてはならない。また、気候変動対策、アフォーダビリティーの観点から民主党の支持も得て、超党派アジェンダとして政策的に一貫した推進力があり、これに加えて規制の合理化が進められていることも、戦略的技術資源としての先進炉を超えて、既存大型軽水炉にとっても良い環境を提供している。

政治介入と洋上風力の停滞

現トランプ政権からの最も大きな政治介入を受けているのは、洋上風力だろう。第一次トランプ政権においても、環境アセスメントの修正などを求め、これがプロジェクトの遅延につながったが、現政権下では、連邦海域での洋上風力発電の新規リースの停止にはじまり、既存リース契約にもとづき建設が進められている複数のプロジェクトに対しても建設停止命令が下された。連邦地裁でその正当性に疑義が呈され「仮差し止め」判決が下されたものの、プロジェクトの遅延、コストに少なからず影響を及ぼす直接的な措置がとられている。

2026年3月には、仏石油・ガス大手のトタルエナジーズと米内務省との間で、カロライナ・ロングベイおよびニューヨーク湾沖を対象に、洋上風力リース権の放棄、支払い済みのリース料の返金の代わりに、テキサス州でのLNGプロジェクトおよびメキシコ湾での石油・ガス開発に再投資する合意が締結された。更に同年4月には、仏エンジーとポルトガルEDPリニューアブルズの合弁会社が進めるニューヨーク州沖(Bluepoint Wind)およびカリフォルニア州沖(Golden State Wind)についても、同様の合意が結ばれたことを公表している。一部の州から合法性を巡る調査の動きも出はじめているが、既に運転を開始、もしくは、建設の終盤を迎えているプロジェクト以外は、中止、或いは、停滞を余儀なくされている。洋上風力の停滞は、資器材の高騰、高金利、米国特有の内航船規制(ジョーンズ法)、港湾インフラ整備の遅れなど、政治介入以前の問題も関わる事象であり、シェール革命に次ぐビッグウェーブとの期待がありながら、何を契機として成長軌道に戻ることができるのか、未だ見通せない。

成長を続ける太陽光

太陽光については、少し様相が異なる。2025年の全米での太陽光導入量は43.2GWとなっており、前年比(2024年比)14%減になったとは言え、容量ベースで新設電源の54%を占め、風力13%、蓄電池25%、天然ガス火力8%と比べて格段に多い。容量ベースで太陽光の全体導入量の80%を占めるユーティリティースケールの太陽光(所謂メガソーラー)導入量は34.7GWで、前年比16%減となっているが、第1~3四半期は前年並みを記録、第4四半期は、税制優遇措置の変更に伴う以下のようなプライオリティーの変化によって、前年同期比40%減となった。

トランプ政権になって成立した2025財政調整法(One Big Beautiful Bill Act)によって、太陽光・風力は、タックスクレジット(投資額、或いは、発電電力量に応じた法人税減税が受けられる仕組み)の恩恵を受けるための着工・運転開始期限が大幅に前倒しされることとなった。太陽光プロジェクトの多くが利用する投資タックスクレジットが付与されるためには、2027年12月31日までに運転を開始することが条件となっているが、例外措置として、2026年7月4日までに建設を開始するプロジェクトについては、4暦年の間に運転開始することを条件に適用外とされた(例えば、2025年中に建設を開始したプロジェクトは2029年12月31日までに運転を開始することが条件)。更に2025年12月31日までに建設を開始したプロジェクトについては、プロジェクトレベルでの「Foreign Entity of Concern要件(米国政府が安全保障やサプライチェーン強靱化の観点から指定する中国などの特定国と関係の深い企業が一定割合で製造に関与する製品をタックスクレジットの対象外とする仕組み)」についても適用外とすることになっており、これらが相まってユーティリティースケールの太陽光事業者は現行プロジェクトの完遂よりも建設開始要件を満たすことに注力し、上記の4四半期の減少傾向に寄与したとされる。

なお、同法ガイダンスにおいて着工要件が厳格化され、2026年9月2日以降、従来認められていた「5% Safe Harbor(総事業費の5%以上を支出すれば着工扱い)」ルールは小規模太陽光を除き原則禁止され、「Physical Work Test(設計・許認可取得の準備を除く物理的工事の開始)」が必須とされた。結果して、2026~2029年に運転開始するプロジェクトが潜在的に膨らむこととなっている。

米太陽光プロジェクトの分布(青色は運転中、水色は建設中プロジェクト、円の大きさは設備容量1~100MW超)
出典:Major Solar Projects List, SEIA (Solar Energy Industries Association), May 28, 2026

米国太陽エネルギー産業協会(SEIA)および米Wood Mackenzie によれば、2025財政調整法以降の太陽光の全体的な減速・遅延傾向は否めないものの、ユーティリティースケールについては、電力購入者側の安定需要は継続的に見込まれており、2025年にファイナンシャルクロージャーを迎えたプロジェクトは前年比26%増、系統連系契約は同16%増と着実に伸びているとされる。また、2025年末までの累積導入量(家庭用・商業用・ユーティリティースケールの合計279GW)に対して、今後、10年間(2035年末断面)で累積導入量は3倍(769GW)まで伸びるとの推計も示されており、これは上記のような理由から短期的にユーティリティースケールの太陽光のプロジェクト・パイプラインが増強されたこと、電力需要の増加が期待されることなどを反映している。

太陽光の価格の低下、高効率化も少なからずこういった傾向に貢献している。Lazard LCOE(2025年6月)によれば、全米平均でのユーティリティースケール太陽光の均等化発電原価(LCOE)は$38~78/MWh、投資タックスクレジット反映後では$24~57/MWhとなっており、新設の天然ガス火力(CCGT)の同$48~109/MWh(減価償却済み設備については$31/MWh)に比べて優位性があり、許認可・建設期間が相対的に短いこと、加えてPPA価格が上昇してきていることも、新設電源としての太陽光の選択を後押ししている。ただ、市場によっては、太陽光プロジェクトの増加、熱波などの自然現象の変動、天然ガス価格の低下などを反映して、収益性は低下してきており、地域間での開きは大きい。

おわりに

米国の有識者のなかには、「ガスは支配的地位であり続け」、トランプ政権は「太陽光の成長をスローダウンすることができたが、これを止めるに至らず。石炭火力については、退役をスローダウンすることができたが、これを止めるに至っていない」との声も聞かれる。政権のフォーカスが変わったことで、米国のエネルギー移行の大きな流れに変化が生じたようには見受けられず、データセンター需要の加速度的需要増という未曽有の社会的変化に直面し、これを満たすために利用可能なエネルギーを総動員しているというのが実態のように思えてならない。

2026年5月には、ネクステラ・エナジー(NextEra Energy)社とドミニオン・エナジー(Dominion Energy)社が経営統合に向けた契約締結を発表した。連邦エネルギー規制委員会(FERC)、原子力規制委員会(NRC)および各州当局の承認を得て統合が成立した暁には、石炭火力も保有しつつ、原子力、天然ガス火力、再エネにバランスした発電ポートフォリオを有する北米最大級の電力会社が誕生する。データセンター需要を前に、大規模な電源・送配電投資を迅速に実行する力が求められており、最大手クラスの電力会社であっても規模の拡大を伴って経営体力を確保した上で、電源については「All-of-the-Above」アプローチに帰着するという、一つの大きな転換モデルなのかもしれない。

ホルムズ海峡の封鎖を経験して、一地域への過度の依存が内包するリスクが改めて浮き彫りになった。自国に化石燃料資源を持たない我が国がデータセンターを含む今後の成長需要に応えていくためには、エネルギー安全保障、レジリエンスの観点を踏まえた燃料調達、電源・技術選択に加えて、エネルギーを担う企業の経営体力を維持していく仕組みについても再考が求められている。