CO2排出のリアルと将来シナリオ,国際交渉
中山 寿美枝
J-POWER 執行役員、京都大学経営管理大学院 特命教授
(「世界経済評論 2026年3・4月号 Vol.70 No.2」より転載:2026.3.15発行)
世界のエネルギー期限CO2排出量は過去50年以上にわたり、リーマンショックと新型コロナ蔓延の2回の例外を除いて増加の一途を辿っている。これは、人口と経済にエネルギー需要が比例して成長しており、エネルギー供給に占める化石燃料の割合が8割を占めている実態によるものである。地域別には、中国のCO2排出量増加が先進国の近年のCO2排出量低下を大きく上回って世界合計の増加を牽引しているが、一人あたりのCO2排出量では今なおOECD地域が中国を上回っている。一方で、IEAのフォアキャスト型のシナリオSTEPSでは近い将来、世界のCO2排出量が減少に転じると示されているが、その背景には中国における化石燃料から再エネへの劇的なエネルギー転換が想定されていることが地域別のデータ分析により確認された。紆余曲折を経てCOP21で合意されたパリ協定では、2℃を十分下回るレベルに気温上昇を抑制する目標を定めているが、最新のCOP30では各国が提出したNDC(国が決定する貢献:温室効果ガス削減目標)が全て達成されても、そのレベルには遠く及ばないことが示された。
1.化石燃料利用とCO2排出量の動向
1.1世界の動向
世界のGDP、人口、一次エネルギー需要、エネルギー起源CO2排出量について、1971年の値を1として2023年までの変化を描いたのが図1である。世界のGDP、人口、エネルギー需要、エネルギー消費、エネルギー起源CO2の変化を1971年を100として比較⇒全ての指標は2022年まで50年以上概ね増加し続けており、京都議定書もパリ協定も影響を与えていないが、例外は、リーマンショックの起きた2009年と新型コロナの大流行が起きた2020年の2回だけ。同期間、一次エネルギー需要に占める化石燃料の割合は80%以上を維持しており、世界は低炭素化していないことを示している。
次に、エネルギー種別の世界の一次エネルギー供給合計に占めるシェア(1971~2023年)を図2に示す。
図中には交点が一つもなく、即ち、過去約50年間、石油>石炭>ガス>再エネ>原子力というランキングは不変であったことを意味する。その要因は一つではなく、石炭>天然ガスが維持されてきたことは経済性によるもの、石油がトップであり続けるのは(特に輸送用燃料としての)利便性および非代替性によるもの、など様々である。また、サプライチェーンのインフラ整備が進むことによる硬直性(ロックイン)もその一つである。例えば、近年LNGのサプライチェーンが続々と強化されつつあるが、脱炭素化のために水素に転換しようとすれば、現在の液化装置、専用船、ターミナルが全て使えず、新たにインフラを構築するための莫大な投資と期間が必要となり、激変しづらくなる。
次に、世界の部門別エネルギー起源CO2排出量を見ると、全ての部門のCO2排出量は増加し続けているが、特に電力・熱供給部門が大幅に増加しており、最新の状況ではエネルギー供給部門と最終消費部門がほぼ同量のCO2を排出していることがわかる。(図3)
脱炭素を目指すのであれば、エネルギー供給部門からのCO2排出量と最終エネルギー消費部門からのCO2排出量の双方を減らしていって、ゼロにする必要があるということである。
図1では、一次エネルギー、CO2排出量、GDP、人口の全てが(2回の例外を除いて)右肩上がりに変化しているが、これら主要なエネルギー指標間の相関係数を計算した結果を表1に示す。
一次エネルギー、CO2排出量、GDP、人口の間には極めて強い相関があり、特に一次エネルギー需要とエネルギー起源CO2排出量の相関係数は0.997と非常に1に近く、一次エネルギー需要に占める化石燃料の割合が期間中80%程度で大きく変化していないことが反映されている。
1.2地域別の動向
図4に地域別のエネルギー起源CO2排出量を示す。ここで、地域区分は、IEAのWorld Energy Balancesによる9つの地域区分(OECD3地域と非OECD6地域)を用いている。図4からは、中国は2000年頃から急増し、それまでトップを維持していたOECDアメリカを抜き去り世界一になっていること、OECDアメリカとOECD欧州は2000年代半ばから減少に転じていること、などが見て取れる。中国以外も、非OECD地域の多くは増加中であり、特にインドおよびASEANを含む非OECDアジア太平洋(中国除く)の伸びが著しい。
次に、地域別の一人あたりのエネルギー起源CO2排出量を図5に示す。
一人あたりに換算すると、急増した中国も最新データでまだ4位の位置にあり、OECDアメリカが依然トップである。総量では中国に次ぐ高成長を見せる非OECDアジア太平洋(中国除く)も低いレベルで微増しており、総量を示した図4と印象が大きく異なって見える。
エネルギー起源CO2の総排出量からはCOPにおける先進国の「途上国はCO2排出削減目標を引き上げるべき」という主張に、一人あたりのCO2排出量からは途上国の「先進国が率先して取り組むべきである」という反発に、それぞれ一理あることが理解できる。
2.WEOの将来シナリオの変化
2.1 WEOのシナリオ
国際エネルギー機関(IEA)が毎年発刊しているWorld Energy Outlook(WEO)は複数の将来シナリオを示している。WEO2006からWEO2024までのシナリオの体系を描くと、表1のようである。
かつてのWEOシナリオは大きく3つiのグループ;過去のトレンドが将来も継続すると想定するBAUシナリオ、公表されている新政策の導入を想定する中心シナリオ、そして将来2℃目標と整合させた2℃シナリオ、に分類できた。BAUシナリオに分類されるのはリファレンスシナリオとCPS、中心シナリオはNPSとSTEPS、そして2℃シナリオは450シナリオ、SDSである。WEO2010からWEO2020まではシナリオ名は変化しながらもこの「BAU、中心、2℃」の3本立ての時代が続いた。そして、WEO2021からは1.5℃シナリオのNZEと、カーボンニュートラル宣言をした国は達成すると想定したAPSがレギュラーシナリオとなり、「STEPS、APS、NZE」の3本立ての時代に移ったii。
シナリオのデザインのアプローチとしては、BAUシナリオと中心シナリオはフォアキャスト型(シミュレーションによる将来予測)、2℃シナリオと1.5℃シナリオはバックキャスト型(将来目標を設定してそこに至る経路を描く)のアプローチで描かれたシナリオであり、APSはそのハイブリッドである。
本稿では、WEOの中心シナリオNPSとSTEPSについてWEO2010~WEO2024の比較分析による15年間の変化、および、その変化の原因究明のためのSTEPSのWEO2021~WEO2024の地域別シナリオ比較分析について記載する。
2.2 WEO2010~WEO2024の一次エネルギー、CO2排出量の中心シナリオの比較分析
図6は、WEO2010からWEO2024までのNPS/STEPSの世界の一次エネルギー供給量について、実績を点で、シナリオの展望を線で示す。この図が示す通り、WEO2010からWEO2020までは実績値と同じ傾きで将来も増加するという展望であったが、WEO2021でその傾きの角度が下方に変化し、そしてWEO2021以降もその傾向が続いている。定量的には、WEO2010からWEO2020までは「将来のエネルギー供給は過去の実績と同じ年率1%で増加する」という展望から、WEO2021で「将来のエネルギー需要は年率0.5%(過去の実績の半分)で増加する」という展望に変化し、WEO2024では増加率は0.3%に低下している。
次に、図7でWEO2010からWEO2024までのNPS/STEPSのCO2排出量(世界合計値)について、実績を点で、シナリオの展望を線で示す。この図が示す通り、WEO2010からWEO2019までは実績値よりやや緩い一定の傾きで将来も増加するという展望であったのが、WEO2020でその傾きの角度が下方に変化している。そして、WEO2021では減少に転じ、WEO2021以降は毎年、減少のペースが速くなる傾向が続いている。
定量的には、WEO2021までは将来のCO2排出量は年率約0.5%のペースで増加するという展望していたが、WEO2020で「将来のCO2排出量は年率0.1%で増加する」に変化し、WEO2021で「将来のCO2排出量は年率0.4%で減少する」という展望に変化している。そして、CO2排出量の減少率はWEO2021の年率0.4%からWEO2024では年率1.3%へと増加しており、2050年のCO2排出量は、WEO2021からWEO2024で5Gt以上低下している。
以上から、WEO2020とWEO2021の間で将来展望に大きな変化が見られる、ということが確認できた。2021年はIEAが5月に“Net Zero by 2050”を発刊してNZEを世にデビューさせた年であり、WEOではWEO2021に初めてNZEが登場している。新たに登場したNZEが目を引く中で、WEO2021ではSTEPSに関しても、これまでのWEOの中心シナリオの歴史を変える大きな変化が起きていたのである。
2.3 CO2排出量減少の原因究明
一次エネルギー需要が増加しながらCO2排出量が減少していく原因を探るため、WEO2021~WEO2024の地域別STEPSの分析結果を行った。STEPSが描くエネルギー起源CO2排出量について、WEO2021~WEO2024の地域別の展望の変化を図8に示す。この図から、中南米と中東を除く全ての地域で、WEO2021(図中の赤線)から毎年下方シフトしていることが見てとれる。また、中国を除く地域では実績と将来シナリオが連続的に変化していて、フォアキャスト型のシナリオらしい変化である一方で、中国だけは実績(急増)とシナリオ(急減)が不連続に変化していて、フォアキャスト型のシナリオとしては不可思議な変化を見せている。
他の地域と異なる変化を示す中国の展望に注目して、図9にWEO2021~WEO2024における中国の一次エネルギー供給中の再生可能エネルギー、石油、石炭、天然ガスの実績値とSTEPSを示す。2050年値に注目して見てみると、再生可能エネルギーはWEO2021から毎年大きく上方シフトしており、一方で、石油と石炭はWEO2021から毎年下方シフトしている。そして、この石油と石炭の「実績は急増」でありながら「将来は激減」というフォアキャスト型シナリオとは思えない非連続的な変化と、再エネの激増が、一次エネルギー需要およびエネルギー起源CO2排出量の非連続的な変化の原因と考えられる。
以上のように、WEO2021~WEO2024の地域別STEPSの比較から、STEPSの世界のCO2排出量が減少し、その減少幅が毎年拡大している要因は、世界のCO2排出量の1/3を占める中国のシナリオが「石油と石炭の不自然な激減を再エネの激増がオフセットする」と描かれ、石油と石炭の激減と再エネの激増が毎年強化されていることである、ということが確認できた。フォアキャスト型のシナリオであるSTEPSで劇的なトレンドの変化を想定している根拠がWEOに記載されていないことは透明性、信頼性の観点で問題があり、IEAにはきちんとした説明が求められる。
3.COPとパリ協定
気候変動対策の国際枠組として、1992年に国連サミットで採択されたUnited Nations Framework Convention on Climate Change:国連気候変動枠組条約がある。1994年に発効して、1995年から毎年同条約の締約国会議(Conference Of Parties, COP)が開催されている。
同条約は第2条「目的」で、「気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準において大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させる」と定めており、具体的な数値目標は定めていない。また、第3条「原則」パラ1において、「締約国は、衡平の原則に基づき、かつ、共通だが差異のある責任と各国の能力に従って、人類の現在と将来の世代のために気候システムを保護するべきである。」と定めている。これはCBDR原則と呼ばれ、京都議定書で先進国のみがGHG排出削減義務を負うことの背景となった。
196の締約国の代表(環境大臣クラス~首相)が出席して開催される締約国会議で合意されれば、GHG削減目標を持つ準国際条約を決定できる。COPでの決定は、締約国の満場一致の合意が条件(コンセンサス方式)であり、合意は容易ではないが、これまでにCOPで決定され発効したGHG削減目標に関する準国際条約は、「京都議定書」(1997年COP3決定、2005年発効)と「パリ協定」(2015年COP21決定、2016年発効)の2つである。京都議定書は、前述の通り先進国のみが排出削減義務を負う片務的なものであったが、パリ協定は21年かかって初めて合意された「世界全体での取り組み」と言える。これまでの主なCOPについて、表3に示す。
京都議定書はCOP3で合意された初めてのGHG削減の数値目標を持つ国際条約であるが、CBDR原則に基づき、先進国(附属書I国)のみが削減義務を負うものであった。第一約束期間(2008-2012年)の削減義務は、EU△8%、米国△7%、日本△6%(いずれも1990年比)などと定められていたが、米国は不公平性を理由として京都議定書を批准しないことを2001年に宣言した。
エネ起GHG排出量は、2000年代には削減義務のない途上国(正確には「非附属書I国」)が先進国(正確には「附属書I国」)を追い抜いており、その上、米国が抜けたことで、京都議定書のカバー率は世界のエネ起CO2の約3割に過ぎなかった。ほとんどの附属書I国は京都議定書第一約束期間(2008~2012年)の削減目標を達成(未達だったカナダは2012年に京都議定書を離脱)したが、その期間の世界のGHG排出量は減少ではなく「増加」であったことは、図1および図3が示している。京都議定書がGHG削減に効果があったか否かについては両論あるが、世界全体での取り組みの必要性を示すには十分な効果があった。
そして、2007年のCOP13で2012年(京都議定書第一約束期間終了年)より先の京都議定書に代わる国際枠組みを、2年後のCOP15で合意することを決定した。しかし、コペンハーゲンで開催されたCOP15では、合意文書案作成プロセスが透明性に欠けるなどの理由で反対した数カ国によりコンセンサスに届かず、合意に失敗した。この合意失敗により、国連気候変動枠組条約の下での新たな枠組み合意は不可能なのではないかとも言われたが、その翌年カンクンで開催されたCOP16で新たな枠組みの交渉を継続することを合意でき、翌年ダーバンで開催されたCOP17で「全ての国による取り組み」を行うことに合意し、その4年後のCOP21でようやく、パリ協定を合意することができた。新たな枠組み作り合意から8年を要したことになる。第4表に、京都議定書とパリ協定の比較を示す。
パリ協定は、第2条で「世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも摂氏2℃高い水準を十分に下回るものに抑えること」を目的とすると定めており、そのために、カーボンニュートラルを21世紀後半に実現させると第4条に記載している。しかし、SBTiやGFANZなどのイニチアチブや日本のメディアによる「1.5℃の約束」キャンペーンは、パリ協定が1.5℃抑制のために2050年カーボンニュートラル達成を定めている、という解釈に基づいている。実際には、パリ協定の第2条では「世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも摂氏一・五度高い水準までのものに制限するための努力を継続する」と記載されており、1.5℃抑制は努力目標である。このようなパリ協定の誤解により、本来の目標達成のための適切な資源配分が阻害される可能性があることに注意が必要である。
締約国がパリ協定の定めによって提出した初回NDCに記載された2030年のGHG排出作減目標を統合したNDC統合報告書は、NDCが全て達成されても2℃および1.5℃抑制には遠く及ばないことを示している(図10)。
2025年は次期NDC(2035年のGHG排出目標を記載)提出期限であり、COP30で提出済みの次期NDCを反映したGHG排出経路が示された。(図11)2035年までのパリ協定依然の想定排出量に比較すると大きく減少しているが、well below 2℃に抑制するレベル(図10によれば2035年に40Gt未満)には及ばず、1.5℃に抑制するレベル(図10によれば2035年に30Gt未満)には遠く届かない。
しかし、図11に示されたNDCを反映した排出経路は、米国のパリ協定脱退に伴って上振れすることに注意が必要である。というのは、図11のGHG排出経路には、米国が2024年12月(バイデン政権期)に提出した「2035年に2005年比でGHG排出量を61-66%削減する」というNDCが含まれているからである。2025年1月にトランプ大統領令により米国はパリ協定脱退を国連に通知しており、パリ協定の規定により、通知から1年後には米国はパリ協定から正式に脱退することになり、米国NDCも無効になる。
毎年のCOP交渉もパリ協定も、結果としてCO2排出量に影響を与えていないことを図1で示したが、米国代表団が欠席したCOP30での決定が劇的な影響を与えるはずもない。それどころか、1月7日に米国トランプ政権が表明した国連気候変動枠組離脱により、COPの意義も役割も不透明性が高まるばかりである。
エネルギーの将来についても同様で、このように不確実性が高い状況においては、どのような権威ある期間のシナリオも鵜呑みにすることなく、自らの思考能力で正確な幅広いデータを読み解いて行く必要があるのではないか、というのが筆者の思いである。
脚注
- i
- 「中心シナリオ」についてはWEOの中でNPSをそう表現していたのに倣っているが、「BAUシナリオ」、「2℃シナリオ」、「1.5℃シナリオ」は筆者による分類であり、IEAによる分類ではない。
- ii
- WEO2025では、CPSが復活して、APSが(時期NDCが揃っていないという理由で)示されていない。
電源開発株式会社執行役員 中山 寿美枝
なかやますみえ 京都大学経営管理大学院特命教授、Global CCS Institute 取締役を兼務。長年にわたり気候変動を担当して得られたエネルギーと気候変動に関するファクトと知見を、多くの人が脱炭素という課題を現実的に自ら考えられるように、大学の授業や各種研修などで提供している。東京工業大学工学院機械系エネルギー博士課程後期修了、博士(工学)



























