米国トランプ政権は石炭火力を強化できるか


環境政策アナリスト

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欧州で石炭火力の見直しの動きがある中で、米国トランプ大統領は2月11日に国防総省(戦争省と改称も法的にはそのまま)に対して石炭火力発電所の電力を調達するようにとの大統領令を発出した。大統領令では「わが国の豊富な石炭資源とベースロード電源を提供している石炭火力の実証済みの信頼性を考慮すると、戦争省は石炭ベースのエネルギー資産を維持・戦略的活用を優先することが必要である。石炭火力により、防衛施設、司令部そして防衛産業の基盤が自然災害時、戦時緊急時にも、つまりいかなる条件においても、最大限の電力供給を受けることが確実になる。この能力を維持することは国家安全保障、戦略的抑止力、アメリカのエネルギー支配上の問題である」と述べている。そして国防総省長官はエネルギー省長官と協力して防衛施設および任務遂行上不可欠な施設で石炭火力発電所の電力の長期売買契約を目指さなければならないとしている。さらに、そこには送電線信頼性と停電回避措置、オンサイト燃料保障、防衛およびインテリジェンス能力の機能保障の強化に優先順位がつけられている。トランプ大統領の大統領令は詳細が不明なことが多いが、上記のような施設は電力会社から供給を受けており、直接石炭火力発電に基づいたものではないので、どのように買電契約をするのかなどの具体的措置はまだ見えてきていない。

しかしながら、電力会社はバイデン政権で停止を予定せざるを得なかった石炭火力を多少なりとも延命できるのは歓迎しているようだ。エネルギー情報局(EIA)によれば今年1,100万kWの設備が廃止される予定だった。うち石炭火力が58%を占め、シングルサイクルの天然ガス火力が42%を占める。しかしながら、トランプ政権になって廃止時期を遅らすことが容易にできるようになった。例えば2025年は1,230万kWが廃止される見込みであったが、実際に廃止されたのは460万kWに過ぎなかった。実際、大統領令発出当日TVAの取締役会は二つの石炭火力(キングストンおよびカンバーランド)の廃止を2年先送りすることを決定した。

さらに政策レベルではエネルギー省は緊急的に6石炭火力に対して175億ドルをかけて廃止を延期することを決定したと報じられている。また、バイデン政権の発電所に対する水銀と大気汚染物質基準(MATS)を無効化するとともに、環境保護庁は州の大気汚染対策実施計画に対して明確化のためのガイダンスを発出している。石炭火力に制約を課したバイデン政権の脱炭素政策が誤ったものであったことを訴えるというメッセージを、この石炭火力保持政策に持たせている。さらに雇用確保、産業とくに鉱業振興を支援するという産業政策としても意味を持たせているという点で石炭火力政策はより広い政策実現のひとつとして理解する必要がある。

しかしながら米国の石炭火力は老朽化しており、補修あるいはコストのかかる改修を必要としている。電力会社の中には費用のかかる延命よりは天然ガス火力のほうがよい選択肢と考えている会社もある。エネルギー省ライト長官、内務省バーガム長官をトップとするホワイトハウス国家エネルギー支配評議会は新規石炭火力建設について、いくつかの電力会社と協議をしていると伝えられている。しかしながら、石炭火力は2013年以来新設がなく、次期政権が石炭火力を支援しないかもしれないということを考慮すると、短期の延命はともかくとして新規石炭火力プロジェクトにはファイナンスはつかないだろうとする見方もある。また、電力の脱炭素政策は州の権限となっているため連邦の動きよりも優先される。トランプ政権の州への影響力が進むかどうかは、11月の中間選挙の結果をみなければならない。