原子力への否定的意見、少し和らぐ-原文財調査


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原子力発電所。

日本原子力文化財団(原文財)は3月に、「原子力に関する世論調査・2025年版」を公開した。「今後日本は原子力発電をどのように利用していけばよいと思いますか」との問いに、肯定的意見が42.0%、否定的意見が35.0%となった。肯定的意見は2018年以降、おおむね横ばいの一方、否定的イメージは2017年度以降、低下傾向が続いている。2011年の東京電力の福島第一原発事故で広がった原子力をめぐる国民の否定的な感情は少し和らいでいる。(図1)

筆者は、「2024年版」でも、この調査の内容をIEEIで寄稿した。同じような改善が継続したが、その変化はゆっくりだ(「原子力容認広がる、では何をすれば?-世論調査から考える」(2025年4月7日寄稿)。

筆者の考えは、原子力発電を活用することで、安いエネルギーを大量に使える状況を作り出して日本を豊かにしたいというものだ。その立場から、この調査をどのように活かすべきか考えたい。

国民感情を把握できる継続調査

2025年版の調査は同年10月に全国の15-79歳の男女1200人を対象に実施された。2006年から同一手法で継続している全国規模の原子力についての唯一の調査で、今回は19回目になる。原子力や放射線に対するイメージ、関心、情報保有量、信頼、再稼働や利用に対する考え方など多岐にわたる項目で構成されている。中立的立場に立ち、世論の変化を見られることから、原子力関係者に注目されてきた。その継続と発展を筆者は応援したい。

上記の質問「今後日本は原子力発電をどのように利用していけばよいと思いますか」は今年から新設の質問だが、17年ごろから原子力をめぐるイメージでは改善の傾向があった。25年版では、「使っていく」「どちらかといえば使っていく」を肯定的意見、「やめていく」「どちらかといえばやめていく」を否定的意見としている。「わからない」は22.6%だった。

また意見の内訳を見ると、男性で肯定的意見が多く、女性では否定的意見が多い傾向だった。年齢別では25-44歳の現役世代で肯定的意見が比較的高い一方、24歳以下の若い世代では「わからない」とする回答が目立った。原子力に関する情報保有量が多い層ほど肯定的意見が多く、保有量が少ない層では「わからない」とする割合が高い傾向が確認された。情報量の差が原子力に対する感情の形成に影響を与えていた。

原子力に対する否定的なイメージ(複数回答)では、「危険」が52.9%、「不安」42.6%など高いものの、2017年ごろから低下が続いており、また現在は福島原発事故の前の水準よりやや低くなっている。

身近な問題が関心を左右する

またこの調査はエネルギーをめぐる人々の関心の傾向も分析している。それによると2025年度に、最も関心が高かった原子力・エネルギー関連ニュースは「地球温暖化」で、70.3%となった。「電気料金の値上げ」(56.4%)、「自然災害による停電」(53.9%)、「電力不足」(48.3%)が続いた。

一方、原子力の個別テーマへの関心は低く、「女川原子力発電所の再稼働」が13.9%、「AI普及に伴う電力需要増加」が11.4%、「原子力発電所のリプレース」が10.8%、「第7次エネルギー基本計画」が4.5%だった。

原子力に否定的な意見を持つ人ほど、災害や防災対策の不安、放射性廃棄物、福島第一原子力発電所の廃炉問題の批判に関心を向けた。暮らしに直接的に影響する問題、また事故への恐怖感が原子力への態度に影響を与えている。

エネルギーの情報収集では、テレビのニュース番組から得るという人が最も多かった。どの年齢層も半数以上で、65歳以上は82.1%だった。ところが24歳以下では53.5%と低下。さらに新聞、テレビ情報番組の影響力は若い世代ほど低下している。また検索サイト上のニュース、SNSによる情報収集も増えている。

高レベル放射性廃棄物問題では、全体の38.7%が「私たちの世代で処分しなければならない」と答え、「私たちの世代で考えなくてもよい」と答えた5.3%を大きく上回った。一方で、処分施設が自分の住む地域や近隣に計画されても「反対しないと思う」という人は9.2%にとどまり、「反対すると思う」は42.1%となった。問題解決の難しさがうかがえた。

結果をどう見るか-社会集団ごとに広報を

「原子力に関する情報提供は、不安や否定的認識に関わる項目に対する情報の充実が重要だ。そしてテレビに加えSNSでの広報に効果がある」。この調査結果から、このような共通の知見をえられるだろう。

ここから一歩進んで考えてみたい。

この調査で示されたように、原子力について国民の感情的な批判は一服し、原子力を肯定という人が批判派を上回った。しかし、ここからいくら努力をしても、原子力の肯定的意見は劇的に増えそうにないと思う。この調査を19回行っても、原子力活用が圧倒的多数によって支持されることはなかった。

エネルギー業界や電力業界は、関わる人が真面目で、社会全体の賛成を得ようとする。しかし原子力問題をめぐっては、全員の同意は得られそうにない。また原子力の理解の浸透は時系列で眺めるとゆっくりだ。世代の入れ替えは進み、今後若い世代は原子力の容認が多いため、原子力事故や不祥事が起きなければ、容認派は増えていくだろう。しかし時間がかかりすぎる。

もちろん、これまでのように原子力をめぐる事実を丁寧に伝えていくことは必要だ。それに加えて、原子力を理解し、その活用を求める声が多い現役世代(25−45歳程度)、若い世代(24歳以下)の方々に、重点を置いた広報にしてはどうだろうか。

さらに原子力広報で、経済的利益や生活の利便性などを中心にした情報を広報してはどうだろうか。これまでは、「お金」「利益」「エネルギーが大量に使える快適さ」を、強調してこなかった。利益情報を広報で露骨に出すのはみっともないし、奥ゆかしさが美徳として残る日本社会には馴染まないだろう。しかし身近な情報、得する情報に人は反応しやすいことが、この調査で明らかになった。適度にそれを訴えてもいいように思える。

民意に振り回されるのではなく割り切る

物を売るマーケティングの広報活動では、その支持層を固め、また購買可能性のある社会集団に狙いを定める。そして関心を持たない層には積極的にアプローチをしない。もちろん原子力広報は、物を売る広報とは違う。関わる人は、そのようなことは十分理解しているだろうが、割り切る方向に踏み出していなかったように思う。そして政治と行政が積極的に原子力の広報を行うことから逃げている印象がある。エネルギー産業に過剰に負担が背負わされた。

これまで原子力発電の活用については、民意に左右され過ぎた。福島事故の反省は必要だが、そろそろ関係者が声をあげ、原子力の活用促進に一歩踏み出すべき時ではないか。広報、世論対策でもそうだ。

この調査結果から、私はこのようなことを考えたが、読者の皆様はどう思うだろうか。

図1