ゲイツ氏、ケリー加首相、気候変動対策で方針修正?騒ぎに
―争いではなく、冷静な問題の検証をー


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ビル・ゲイツ氏
(出所:Wikipediaより)

ゲイツ氏、気候変動の意見を変えた?

最近話題になった有名人の行動がある。一つはマイクロソフトの共同創業者で、自らの持つ富を社会慈善事業に使ってきたビル・ゲイツ氏の意見だ。

「気候変動は深刻だが、破局が訪れて人類が滅亡するなどということは起きない」

「排出量抑制だけではなく、気候変動に耐えられるプログラムを支援するべきだ」

「人類の繁栄と福祉は気候変動に対する最善の防御だ」

自らのサイト「ゲイツ・ノート」内の記事、「Three tough truths about climate」(気候に関する3つの厳しい事実)https://www.gatesnotes.com/home/home-page-topic/reader/three-tough-truths-about-climateで10月28日に言及した。

ゲイツ氏はおかしなことを言っているわけではない。同種のことは以前から発言した。ただし「優先順位を考えよう」という呼びかけは、彼はこれまで強調していなかった。ゲイツ氏は気候変動が人類を壊滅させるといった「終末論的な見方」が、社会問題をめぐる対策を排出削減策に偏らせていると指摘している。

ブラジルで11月に開かれた国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)を前に、限られた資金を「貧困層の生活向上に焦点を当てるべきだ」との主張をしたのだろう。

トランプ大統領が「勝利宣言」、話がずれる

ところがこの寄稿は欧米で騒ぎになった。気候変動の懐疑論の人々がこの発言に飛びついた。それを堂々と述べてきたトランプ米大統領は、自分の運営するTruth Socialというソーシャルメディアに25年10月29日に、以下の投稿を行なった。

「私たち(WE!)はでっち上げの気候変動に対する戦争に勝利した。ビル・ゲイツはついにこの問題で完全に間違っていたことを認めた。これを認めるのに勇気が必要だった。それに感謝する。MAGA!!!」

トランプ氏は、以前から気候変動問題に資金を投じることを批判し、今年9月には国連総会でそれを「史上最大の詐欺」と批判している。ゲイツ氏は11月3日、米メディアに対してトランプ氏の見解を「大きな誤読だ」と述べて否定した。

トランプ氏の行動は、相変わらず問題を混乱させる困った行為だ。しかし喝采を叫ぶ人が日本を含めたどの国にもいた。気候変動問題に資金を投じることに疑問を持つ人が、どの国にもかなりの割合でいることが可視化された。

注目されるカナダ首相の環境政策見直し

世界ではもう一つ、気候変動で注目を集める著名人の行動転換がある。今年3月に就任したマーク・カーニー・カナダ首相の行動だ(ウォールストリート・ジャーナル紙の10月2日記事「Mark Carney’s Shift From Climate-Change Warrior to Fossil-Fuel Cheerleader」。https://www.wsj.com/world/americas/mark-carneys-shift-from-climate-change-warrior-to-fossil-fuel-cheerleader-97d17782)。

カーニー首相は、カナダ中央銀行総裁から初の外国人のイングランド銀行総裁に就任した。そして金融機関のネットゼロのためのネットワーク「GFANZ」(グラスゴー・ファイナンシャル・アライアンス・フォー・ネットゼロ)の運営の中心人物だった。そこでは環境配慮のプロジェクトへの融資や投資の促進、気候変動対策の指標づくりなどを提案してきた。

ところがカーニー氏は政治家に転じ、今年3月に首相に就任した。カーニーは、炭素税と2026年までに自動車販売におけるEV比率を20%にする義務を廃止し、石油とガスの増産と輸出を積極的に進めている。またカナダは原子力産業を持っているが、その国内での開発、輸出も支援している。もちろん、彼も気候変動への対応を否定したわけではないと強調している。特にCCS(炭素貯蔵)の拡大を表明している。米国の相互関税により大きな影響を受けるカナダでは、政策手段が限られるので、世論は、米国依存からの脱却につながるとして、この経済重視政策を好意的に受け止めている。

気候変動をめぐる世界の雰囲気の変化

私もゲイツ氏やカーニー氏の考えに賛同する。気候変動は、大きな問題である。しかし、それへの対応が過剰な関心、過度な社会運動になってしまい、他の問題を打ち消すどころか、いびつな資金配分を産んでしまったと思う。

最近の気候変動分野での流行語になった「ネットゼロ」(温室効果ガス、二酸化炭素の排出をなくす)の実現は、地球、国、地域、企業、個人の各レベルでほぼ実現不可能で、目指すために費用負担が深刻になってきた。でも多くの企業にとってネットゼロは実現不可能であり、それを目指すというだけで膨大なコストがかかる。資源と資金は有限だ。それを効率的に使うために、気候変動に対するその支出は意味があるのかと常に問い、行動の優先順位をあらゆる場で考え直した方がいいと思う。