プラスチック容器包装および製品プラスチックの利用用途市場拡大について
前川 惠士
日本容器包装リサイクル協会 業務執行理事 プラスチック容器事業部長
昨年欧州のプラスチック容器包装のリサイクル事情を調査するため訪欧した。
まず市場(スーパーマーケット)での印象として、多くのプラスチック容器に入ったトイレタリーや化粧品の製品にプラスチックの再生材料が使用されている旨の表記が環境配慮のメッセージやリサイクルマーク等と共に記載されていた。
一方で脱プラスチックをうたう製品として紙製の容器包装も見かけた。例えばプラスチックフィルムと紙の包装をされているおむつ製品が、それぞれ並べて販売されており紙包装の製品は環境をアピールしていた。ただ、残念なことにそれらの製品の一部に紙包装が破れているものがあり中のおむつが見えていた。衛生的な製品に対して日本では考えにくい包装設計であり、また破れている製品が販売されていることも見かけない光景である。容器包装とは中身を保護する役割があると考えると紙が破れにくいようにプラスチックフィルムを貼合したものを使用する設計となるが、そういった複合品を使用せず紙のみの包装であった。意図しない破れや水の浸透などを防止するためには見た目が紙であっても実は裏面にプラスチックフィルムを貼合することで補強することとなる。ただ、欧州では消費者が誤認しないように紙にプラスチックが貼合されているような製品にはプラスチックを使用していることがわかるようなマークが施されている。消費者に対して正しい理解を促しており環境への意識付けの工夫を感じた事例であった。
このように消費者との接点である製品への環境に関する表示は重要であると考えるが、その背景には欧州のプラスチック再生材料の使用を義務化する法令が関係している。プラスチックを使用する生産者がその法令を遵守しつつ、環境に敏感な消費者に対して購買意欲を高めると共に環境への貢献をアピールすることで企業価値を高めているわけである。
欧州ではソーティングセンターをいくつか訪問した。再生処理業界では分別および異物除去のため様々な技術開発を行っている。その1つにソーティングセンターがある。ソーティングセンターでは家庭から収集したプラスチック資源ごみを材料毎に分別した材料を必要とされる再生処理事業者に販売している。分別しきれないものに対しては純度を複数の水準に分類することで利用用途に合わせた再生材料として販売している。その結果、約95%が再生材料として販売できているとのことであった。高い品質と収率を確保するための工夫も見られ、例えば近赤外線の光学選別機のみではなくX線とAIも利用した異物除去も実施している。混入させたくない容器包装をAIに覚えこませて画像に加えてX線を利用することで形状を確認して除去すべきものであるか否かを判断するシステムである。品質保証の為に現状では人手による最終選別を実施しているが、いずれはこのシステムに置き換えたいようである。ソーティングセンターで分別された材料は再生処理事業者にて破砕・洗浄・異物除去および色選別が行われ白色および透明のみの再生材料を販売していた。価格としてバージンレジンより高いということである。
一方日本では、再生材料の使用をアピールしているプラスチックの容器包装の製品はほとんど見かけない。また、市民から排出されたプラスチック資源ごみの中間処理の段階で異物除去された材料から再生材料を生産する比率は約50%であり、残りの50%は熱回収されている。再生材料はバージンレジンの2割程度の価格で主としてパレット、雨水貯留槽、建材等に利用されている。これは再生材料の品質が低いため欧州のように容器包装などに利用されずに用途が限定されてしまうため、需給のバランスから価格も低迷しているのが現状である。もちろん全てがそうではなく品質の高い再生材料の技術開発をしている事業者もいるが、利用する側と密に協業することができれば効果が増すのは言うまでもない。日本のように安ければ購入するというニーズがメインのなかでは、利用製品拡大のための利用者との協業や利用者からの支援が乏しく品質向上のための技術開発が進まないこととなり利用市場の拡大が進まないのである。
この欧州と日本の差におけるもっとも大きな要因として再生材料の使用義務化の制度が考えられる。欧州ではPPWRが制定され利用者は再生材料を一定比率使用することが法令で求められている。この法令おかげで再生材料の利用用途の研究や技術開発が進み利用市場が拡大していると痛感した。日本でも資源有効利用促進法が改正され再生材料の義務化が盛り込まれた。義務化の対象は今後決定されるという事だが、対象が幅広く設定されることで利用市場が拡大し、容器包装をはじめ再生材料の一層の利用促進が期待できる。
再生材料の利用用途開発の国内成功事例として、材料リサイクル手法で製造した使用済みPETボトルを100%使用した飲料製品が挙げられる。成功の要因として考えられることは、①再生材料を作る側と使う側が協働で進めたこと、②必要な事項は全てオープンにしてお互いに課題を共有できたこと、③両者の開発責任者が強力なリーダーシップを発揮したこと、である。飲料メーカーからすれば中身と直接接触する容器に再生材料を使用するわけであるから中身の安全性や味わいに慎重にならざるを得ない。当時、飲料メーカーは再生材料の使用義務を課せられていなかったので、PETボトル製品の他社との差別化および環境貢献による企業価値向上へのチャレンジそのものである。再生材料の新たな利用用途のために義務化は重要なフックになることは間違いないが、実現するためには作る側と使う側のオープンマインドやチャレンジ力が不可欠と考える。そういった協働を期待したい。