イデオロギー偏向に沈んだ「情報災害」対策(4)
林 智裕
福島県出身・在住 フリーランスジャーナリスト/ライター
Metaのファクトチェック廃止とその背景
Meta(旧Facebook)のCEO、マーク・ザッカーバーグ氏は2025年1月7日、外部のファクトチェック団体との提携を終了し、ユーザー参加型の仕組みへの転換を発表した。同氏は「(提携してきたファクトチェック団体について)政治的に偏りすぎており、信頼をつくりだす以上に破壊してきた。私たちは原点に戻り、誤りを減らし、ポリシーを簡素化し、私たちのプラットフォームで自由な表現を取り戻すことに集中します」と、ファクトチェック団体のイデオロギー偏向が理由であることを明言した。
同社グローバル渉外部門のトップを務めるジョエル・カプラン氏も7日のブログ投稿で、「何をどのように事実確認するかという選択において」ファクトチェッカーのバイアスが見られたとし、「あまりに多くの正当な政治的議論が封じられていた」とも述べている。
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/539c528cbff32a0bd6497a8a11f38a24f8a7f851
https://www.facebook.com/watch/?v=1525382954801931
https://news.yahoo.co.jp/articles/294cc61c7f3d8b959cd92834d08900156ecef19c
決定の背景には、「ファクトチェック団体の政治的偏向とその影響がある」ということだ。
この方針転換は一部で歓迎された一方、国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)などの関係者からは批判も上がっている。IFCNディレクターのアンジー・ホラン氏は、「正確で信頼できる情報を求めるユーザーを傷つける決定だ」「Metaが利用するファクトチェッカーは、非党派性と透明性を要求する原則規範に従っている。この決定が、新政権とその支持者からの極端な政治的圧力の後に下されたことは残念だ。ファクトチェッカーは、その仕事において偏見を持ってはいない。その攻撃ラインは、反論や矛盾なしに誇張や嘘をつくことができるべきだと感じている人々から来るものだ」と主張し、ファクトチェックの廃止が誤情報の拡散を助長する可能性を懸念している。
一方で、ホラン氏の主張の「ファクト」は何に担保されているのか。同氏は、Metaの指摘とも一部重複する以下3点、これまで度々批判されてきた報道機関やファクトチェック団体の問題点に対し、何ら客観的な解決策を提示できていない。
- ①
- 「何を報じて何を報じないか」テーマや優先順位選定、テーマによっては「何が正しいか」結論からさえ報道機関やファクトチェッカーの主観・志向・独断を排除できない
- ②
- あらゆる問題に高いレベルでの専門性を持ち、報道やファクトチェックの質を担保することは困難
- ③
- 報道やファクトチェック団体自身がフェイクに加担する可能性。相互を批判・検証する制度やインセンティブが無い
現に、このニュース自体を巡るNHKや日テレ報道さえ、ザッカーバーグ氏らが明言したはずの『ファクトチェック団体の偏向』という根本的な理由には全く触れないまま、「自由な表現を取り戻すことに集中する」との部分ばかりを取り上げ「今回の方針転換の背景には、トランプ氏との関係を改善する狙いがあるとみられます」などと報じている。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250108/k10014687371000.html
https://topics.smt.docomo.ne.jp/article/ntv_news24/world/ntv_news24-2025010803614538
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO85938140Y5A100C2EA2000/
代替としてコミュニティノートを実施することには触れたものの、これでは「ファクトチェックを排除し、偽・誤情報を自由な表現として広める」かのような誤解も生じかねない。日経新聞は「SNS空間は今後投稿の自由度が高まるが、過激な言論や偽・誤情報が増加する可能性もはらむ」とまで断じた。なぜ、主張の根幹となる発言を勝手に切り取ったのか。「ファクトチェック団体の偏向」という核心部分には触れないのか。
報道やファクトチェック団体が偏向や切り取りをすれば、情報の信頼性を揺るがす重大な課題となる。著者はこれまでの記事でALPS処理水問題を具体例として、日本のアカデミアとマスメディアにおける客観性・中立性を逸脱し、自分達の独善を「疑いようのない正しさ」であるかのように既成事実化させようとしてきた政治イデオロギー偏向が、「情報災害」──まさに偽・誤情報拡散による被害への対策を阻害してきた状況を明らかにした。
https://ieei.or.jp/2024/08/special201706062/
https://ieei.or.jp/2024/08/special201706063/
https://ieei.or.jp/2024/08/special201706064/
ファクトチェック団体にはマスメディア出身者も少なくない。アカデミアやマスメディアと比べ「偏向していない」と断言できる状況だろうか。以下、これまでと同様にALPS処理水問題をテーマに、ファクトチェック団体がどのような動きをしてきたかを示す。
ALPS処理水の偽・誤情報に消極的だったファクトチェック団体
2021年5月に福島民報・福島テレビが福島県民を対象に行った調査によれば、当事者は処理水の海洋放出における懸念点として「新たな風評の発生」(40.9%)、「県民への偏見・差別」(18.1%)、「県内産業の衰退」(12.1%)と答えている。つまり処理水問題において、当事者たちは風評と偏見差別を最も恐れていた。
ところが、報道や著名人(政治家等)は処理水の安全性を積極的に伝えようとはせず、不安や怒りといった感情論や反対運動にばかり焦点を当てようとしてきた。中には当事者が恐れる偏見差別や風評に直結する言説も珍しくない。
『「海を汚さないで」「漁業を守れ」 福島で処理水放出の反対集会』(朝日新聞・力丸祥子記者2023年6月21日)
https://www.asahi.com/articles/ASR6N6W1NR6NUGTB001.html
「普通に考えて、世界最大の原発事故を起こした福島が放出するものと、事故を起こしていない国が放出するものと、同じ土俵で比べることが出来ると思いますか?」
(社民党副党首 大椿ゆうこ参議院議員2023年6月23日ツイッターでの発信)
https://x.com/ohtsubakiyuko/status/1671900334506283008
「処理水、トリチウム水、何と呼ぼうが汚染水である」
(れいわ新選組代表 山本太郎参議院議員 2023年5月24日東日本大震災復興特別委員会での発言)
https://www.youtube.com/watch?v=0quvBjHdHxo
「私たちが食べる魚、さらに生態系に影響を及ぼす可能性もある」
(2023年4月23日しんぶん赤旗記事)
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik23/2023-04-23/2023042301_02_0.html
しかも、これら処理水の「汚染水」プロパガンダの背景には、北朝鮮による偽・誤情報を用いた情報工作があった実態も明らかになっている。
https://www.yomiuri.co.jp/world/20250108-OYT1T50155/2/
ところがファクトチェック団体は、外国勢力による露骨な偽情報攻撃にさえ機能してこなかった。たとえばファクトチェック団体の記事を「処理水」で検索してみると、ファクトチェック団体「リトマス」では記事が1件もヒットしない。「汚染水」で検索してもゼロだった(2025年1月8日時点)。 リトマスは処理水放出より後の2024年9月、Metaの第三者によるファクトチェックプログラム提携先になっている。
https://about.fb.com/ja/news/2024/09/third_party_fact-checking_program_in_japan/amp/
社会で連日大きな話題になり続け、SNSにも報道にも偽・誤情報が溢れていたにもかかわらず、どういう基準でテーマを選定しているのか。
https://litmus-factcheck.jp/?s=%E5%87%A6%E7%90%86%E6%B0%B4
日本ファクトチェックセンター(JFC)は海洋放出実施直前の2023年7月19日に初めて「福島第一原発の処理水と汚染水の違いは何?海洋放出は危険?【ファクトチェックまとめ】」、8月1日には日本の汚染水はトリチウムも含む他の核種もオールスターの排水?【ファクトチェック】」との記事を出した。その後、海洋放出実施後の8月24日以降に9件の記事を出した。
一方で、これらの記事は社会から「ファクトチェック」が求められていたタイミングに対し、遅きに失していた。世論は日本ファクトチェックセンターが記事を書く半年以上前、2022年12月の時点で既に科学的理解が一定以上浸透し、海洋放出賛成・容認が反対を上回っていた。しかも、同センターは
- 1.
- 報道機関は、報道倫理に基づく訂正の仕組みを有しており、その報道倫理と仕組みに基づき自主的に訂正を行うべきであることから、まずはその仕組みに委ねること。
- 2.
- 総務省プラットフォームサービスに関する研究会及びDisinformation対策フォーラムにおける、当センター設立に至る議論の経緯を踏まえ、インターネットに流通する偽情報・誤情報を優先的に対象とすること。
を理由に掲げ、ファクトチェックの対象から既存のメディアを原則として除外している。「報道機関は、報道倫理に基づく訂正の仕組みを有しており」などというが、実態として機能していない状況は何度も示した通りだ。このような「ファクトチェック」が社会から真に必要とされ、信頼を得られるだろうか。
別のファクトチェック団体INFACTは2021年、《 [Fact Check] 共同通信見出し「国連、処理水放出に『深い憂慮』」は不正確 意見は独立の特別報告者によるもの》《[Fact Check]「トリチウムのゆるキャラが電通に3億700万円で発注されていた」は誤り キャラクターに投じたのは「数百万円」》という二つの記事で処理水の報道や広報に対するミスリードやネガティブキャンペーンを検証していた。しかし、その後は放出開始までの長期間、処理水関連の偽・誤情報への沈黙を続けた。
ところが放出開始から2ヶ月以上が過ぎた2023年11月になり、突然「【Fact Check】「安全基準を満たしている処理水」の「安全」は十分に開示されているのか」という記事を出し、<ファクトチェックの結論 現状の開示で「安全」を確認するのは困難>などと締めた。処理水が汚染は基より風評被害も概ね起こさなかったことも明らかになり、社会からほとんど話題にならなくなった「後だし」で、しかも不安を正当化するような記事を出したのは、誰の為、何の為のファクトチェックだったのか。
https://infact.press/2023/11/post-22274/
更に、INFACTは福島の原子力災害に関連し、「ファクトチェック」とは対極にある記事も出してきた。たとえば《「米兵のトモダチは高線量で被ばくしていた」フクシマ第一原発事故プロジェクト第2弾》などという記事では震災当初に使われ、被災地へのスティグマと差別が問題視された片仮名表記「フクシマ」を2018年10月にもなって敢えて用い、「(東日本大震災発生時に)トモダチ作戦として被災住民の救助にあたっていたアメリカ軍の空母が当時、極めて高い放射線を浴びていたことがわかった」と断言した。あたかも数多くの米軍兵士が高線量の放射線被曝を因果とした健康被害があったかのようにほのめかす記事だった。詳細はここに記したが、
https://gendai.media/articles/-/113066?page=4
INFACTの記事は「フェイクニュース」と言っても過言ではない内容だ。他にも、『福島第一原発事故で新事実 事故直後の首都圏で高レベルの放射線量が計測されていた』、『311緊急シリーズ「福島第一原発事故から6年」「甲状腺がん多発 − 被曝の影響は本当に無いのか?」』などと謳った記事まである。
このようにファクトチェック団体が自ら「フェイク」に加担した場合、誰が検証するのか。
自浄も反省も無きファクトチェック団体
2024年7月、ファクトチェックの推進・普及に取り組むNPO法人ファクトチェック・イニシアティブは、ファクトチェックアワード2024を発表した。
https://fij.info/archives/12737
【大賞】
該当なし
【優秀賞(5作品、応募順)】
ひろゆき氏「沖縄は親を寝たきりにして年金で暮らす」をファクトチェック【沖縄タイムス】
政治資金問題に関する記事3本【InFact】
新型コロナ禍での感染対策に関する記事3本【InFact】
のり弁当の添加物表示ラベル画像は正確 偽造疑う指摘拡散も【リトマス】
JAL機と衝突した海上保安庁機がフライトレーダーに表示されない理由【ryo-a】
【特別賞】
「安全基準を満たしているを処理水」(原文のまま)の「安全」は十分に開示されているのか【InFact】
同団体は、処理水問題に関連したファクトチェック記事の中から唯一、前述した海洋放出後2ヶ月以上経ってから<ファクトチェックの結論 現状の開示で「安全」を確認するのは困難>と記したINFACT記事を、「特別賞」を新たに創設してまで表彰した。理由について<特別賞は今回初めて設定されたものですが、言説を直接的に検証したものではない応募作品が複数あった中で、委員からもっとも高く評価された作品として、特別賞をお贈りしたいと思います>としている。一方で、著者はINFACTが「トモダチ作戦」に関するフェイクニュースに加担したことを指摘した記事をノミネートしていたが、落選した。
一方で、今回優秀賞で表彰された沖縄タイムス記者は、ALPS処理水を「汚染水」と混同させる発言を度々繰り返し、コミュニティノートが付けられている。なぜ、ALPS処理水に対する偽・誤情報問題はここまで軽視され続けたのか。
https://x.com/ABETakashiOki/status/1682718155658117120
ファクトチェック団体は、偽・誤情報が飛び交い、外国からの情報工作まで明らかになったALPS処理水問題に対する自分達の仕事に対し、何の反省も総括も無いのか。このような実態を見ても、ザッカーバーグ氏らが指摘した「ファクトチェック団体の偏向と機能不全」は、日本も全く他人事とは言えないのではないか。
(複製した記事) イデオロギー偏向に沈んだ「情報災害」対策(4)
林 智裕
福島県出身・在住 フリーランスジャーナリスト/ライター
Metaのファクトチェック廃止とその背景
Meta(旧Facebook)のCEO、マーク・ザッカーバーグ氏は2025年1月7日、外部のファクトチェック団体との提携を終了し、ユーザー参加型の仕組みへの転換を発表した。同氏は「(提携してきたファクトチェック団体について)政治的に偏りすぎており、信頼をつくりだす以上に破壊してきた。私たちは原点に戻り、誤りを減らし、ポリシーを簡素化し、私たちのプラットフォームで自由な表現を取り戻すことに集中します」と、ファクトチェック団体のイデオロギー偏向が理由であることを明言した。
同社グローバル渉外部門のトップを務めるジョエル・カプラン氏も7日のブログ投稿で、「何をどのように事実確認するかという選択において」ファクトチェッカーのバイアスが見られたとし、「あまりに多くの正当な政治的議論が封じられていた」とも述べている。
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/539c528cbff32a0bd6497a8a11f38a24f8a7f851
https://www.facebook.com/watch/?v=1525382954801931
https://news.yahoo.co.jp/articles/294cc61c7f3d8b959cd92834d08900156ecef19c
決定の背景には、「ファクトチェック団体の政治的偏向とその影響がある」ということだ。
この方針転換は一部で歓迎された一方、国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)などの関係者からは批判も上がっている。IFCNディレクターのアンジー・ホラン氏は、「正確で信頼できる情報を求めるユーザーを傷つける決定だ」「Metaが利用するファクトチェッカーは、非党派性と透明性を要求する原則規範に従っている。この決定が、新政権とその支持者からの極端な政治的圧力の後に下されたことは残念だ。ファクトチェッカーは、その仕事において偏見を持ってはいない。その攻撃ラインは、反論や矛盾なしに誇張や嘘をつくことができるべきだと感じている人々から来るものだ」と主張し、ファクトチェックの廃止が誤情報の拡散を助長する可能性を懸念している。
一方で、ホラン氏の主張の「ファクト」は何に担保されているのか。同氏は、Metaの指摘とも一部重複する以下3点、これまで度々批判されてきた報道機関やファクトチェック団体の問題点に対し、何ら客観的な解決策を提示できていない。
- ①
- 「何を報じて何を報じないか」テーマや優先順位選定、テーマによっては「何が正しいか」結論からさえ報道機関やファクトチェッカーの主観・志向・独断を排除できない
- ②
- あらゆる問題に高いレベルでの専門性を持ち、報道やファクトチェックの質を担保することは困難
- ③
- 報道やファクトチェック団体自身がフェイクに加担する可能性。相互を批判・検証する制度やインセンティブが無い
現に、このニュース自体を巡るNHKや日テレ報道さえ、ザッカーバーグ氏らが明言したはずの『ファクトチェック団体の偏向』という根本的な理由には全く触れないまま、「自由な表現を取り戻すことに集中する」との部分ばかりを取り上げ「今回の方針転換の背景には、トランプ氏との関係を改善する狙いがあるとみられます」などと報じている。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250108/k10014687371000.html
https://topics.smt.docomo.ne.jp/article/ntv_news24/world/ntv_news24-2025010803614538
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO85938140Y5A100C2EA2000/
代替としてコミュニティノートを実施することには触れたものの、これでは「ファクトチェックを排除し、偽・誤情報を自由な表現として広める」かのような誤解も生じかねない。日経新聞は「SNS空間は今後投稿の自由度が高まるが、過激な言論や偽・誤情報が増加する可能性もはらむ」とまで断じた。なぜ、主張の根幹となる発言を勝手に切り取ったのか。「ファクトチェック団体の偏向」という核心部分には触れないのか。
報道やファクトチェック団体が偏向や切り取りをすれば、情報の信頼性を揺るがす重大な課題となる。著者はこれまでの記事でALPS処理水問題を具体例として、日本のアカデミアとマスメディアにおける客観性・中立性を逸脱し、自分達の独善を「疑いようのない正しさ」であるかのように既成事実化させようとしてきた政治イデオロギー偏向が、「情報災害」──まさに偽・誤情報拡散による被害への対策を阻害してきた状況を明らかにした。
https://ieei.or.jp/2024/08/special201706062/
https://ieei.or.jp/2024/08/special201706063/
https://ieei.or.jp/2024/08/special201706064/
ファクトチェック団体にはマスメディア出身者も少なくない。アカデミアやマスメディアと比べ「偏向していない」と断言できる状況だろうか。以下、これまでと同様にALPS処理水問題をテーマに、ファクトチェック団体がどのような動きをしてきたかを示す。
ALPS処理水の偽・誤情報に消極的だったファクトチェック団体
2021年5月に福島民報・福島テレビが福島県民を対象に行った調査によれば、当事者は処理水の海洋放出における懸念点として「新たな風評の発生」(40.9%)、「県民への偏見・差別」(18.1%)、「県内産業の衰退」(12.1%)と答えている。つまり処理水問題において、当事者たちは風評と偏見差別を最も恐れていた。
ところが、報道や著名人(政治家等)は処理水の安全性を積極的に伝えようとはせず、不安や怒りといった感情論や反対運動にばかり焦点を当てようとしてきた。中には当事者が恐れる偏見差別や風評に直結する言説も珍しくない。
『「海を汚さないで」「漁業を守れ」 福島で処理水放出の反対集会』(朝日新聞・力丸祥子記者2023年6月21日)
https://www.asahi.com/articles/ASR6N6W1NR6NUGTB001.html
「普通に考えて、世界最大の原発事故を起こした福島が放出するものと、事故を起こしていない国が放出するものと、同じ土俵で比べることが出来ると思いますか?」
(社民党副党首 大椿ゆうこ参議院議員2023年6月23日ツイッターでの発信)
https://x.com/ohtsubakiyuko/status/1671900334506283008
「処理水、トリチウム水、何と呼ぼうが汚染水である」
(れいわ新選組代表 山本太郎参議院議員 2023年5月24日東日本大震災復興特別委員会での発言)
https://www.youtube.com/watch?v=0quvBjHdHxo
「私たちが食べる魚、さらに生態系に影響を及ぼす可能性もある」
(2023年4月23日しんぶん赤旗記事)
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik23/2023-04-23/2023042301_02_0.html
しかも、これら処理水の「汚染水」プロパガンダの背景には、北朝鮮による偽・誤情報を用いた情報工作があった実態も明らかになっている。
https://www.yomiuri.co.jp/world/20250108-OYT1T50155/2/
ところがファクトチェック団体は、外国勢力による露骨な偽情報攻撃にさえ機能してこなかった。たとえばファクトチェック団体の記事を「処理水」で検索してみると、ファクトチェック団体「リトマス」では記事が1件もヒットしない。「汚染水」で検索してもゼロだった(2025年1月8日時点)。 リトマスは処理水放出より後の2024年9月、Metaの第三者によるファクトチェックプログラム提携先になっている。
https://about.fb.com/ja/news/2024/09/third_party_fact-checking_program_in_japan/amp/
社会で連日大きな話題になり続け、SNSにも報道にも偽・誤情報が溢れていたにもかかわらず、どういう基準でテーマを選定しているのか。
https://litmus-factcheck.jp/?s=%E5%87%A6%E7%90%86%E6%B0%B4
日本ファクトチェックセンター(JFC)は海洋放出実施直前の2023年7月19日に初めて「福島第一原発の処理水と汚染水の違いは何?海洋放出は危険?【ファクトチェックまとめ】」、8月1日には日本の汚染水はトリチウムも含む他の核種もオールスターの排水?【ファクトチェック】」との記事を出した。その後、海洋放出実施後の8月24日以降に9件の記事を出した。
一方で、これらの記事は社会から「ファクトチェック」が求められていたタイミングに対し、遅きに失していた。世論は日本ファクトチェックセンターが記事を書く半年以上前、2022年12月の時点で既に科学的理解が一定以上浸透し、海洋放出賛成・容認が反対を上回っていた。しかも、同センターは
- 1.
- 報道機関は、報道倫理に基づく訂正の仕組みを有しており、その報道倫理と仕組みに基づき自主的に訂正を行うべきであることから、まずはその仕組みに委ねること。
- 2.
- 総務省プラットフォームサービスに関する研究会及びDisinformation対策フォーラムにおける、当センター設立に至る議論の経緯を踏まえ、インターネットに流通する偽情報・誤情報を優先的に対象とすること。
を理由に掲げ、ファクトチェックの対象から既存のメディアを原則として除外している。「報道機関は、報道倫理に基づく訂正の仕組みを有しており」などというが、実態として機能していない状況は何度も示した通りだ。このような「ファクトチェック」が社会から真に必要とされ、信頼を得られるだろうか。
別のファクトチェック団体INFACTは2021年、《 [Fact Check] 共同通信見出し「国連、処理水放出に『深い憂慮』」は不正確 意見は独立の特別報告者によるもの》《[Fact Check]「トリチウムのゆるキャラが電通に3億700万円で発注されていた」は誤り キャラクターに投じたのは「数百万円」》という二つの記事で処理水の報道や広報に対するミスリードやネガティブキャンペーンを検証していた。しかし、その後は放出開始までの長期間、処理水関連の偽・誤情報への沈黙を続けた。
ところが放出開始から2ヶ月以上が過ぎた2023年11月になり、突然「【Fact Check】「安全基準を満たしている処理水」の「安全」は十分に開示されているのか」という記事を出し、<ファクトチェックの結論 現状の開示で「安全」を確認するのは困難>などと締めた。処理水が汚染は基より風評被害も概ね起こさなかったことも明らかになり、社会からほとんど話題にならなくなった「後だし」で、しかも不安を正当化するような記事を出したのは、誰の為、何の為のファクトチェックだったのか。
https://infact.press/2023/11/post-22274/
更に、INFACTは福島の原子力災害に関連し、「ファクトチェック」とは対極にある記事も出してきた。たとえば《「米兵のトモダチは高線量で被ばくしていた」フクシマ第一原発事故プロジェクト第2弾》などという記事では震災当初に使われ、被災地へのスティグマと差別が問題視された片仮名表記「フクシマ」を2018年10月にもなって敢えて用い、「(東日本大震災発生時に)トモダチ作戦として被災住民の救助にあたっていたアメリカ軍の空母が当時、極めて高い放射線を浴びていたことがわかった」と断言した。あたかも数多くの米軍兵士が高線量の放射線被曝を因果とした健康被害があったかのようにほのめかす記事だった。詳細はここに記したが、
https://gendai.media/articles/-/113066?page=4
INFACTの記事は「フェイクニュース」と言っても過言ではない内容だ。他にも、『福島第一原発事故で新事実 事故直後の首都圏で高レベルの放射線量が計測されていた』、『311緊急シリーズ「福島第一原発事故から6年」「甲状腺がん多発 − 被曝の影響は本当に無いのか?」』などと謳った記事まである。
このようにファクトチェック団体が自ら「フェイク」に加担した場合、誰が検証するのか。
自浄も反省も無きファクトチェック団体
2024年7月、ファクトチェックの推進・普及に取り組むNPO法人ファクトチェック・イニシアティブは、ファクトチェックアワード2024を発表した。
https://fij.info/archives/12737
【大賞】
該当なし
【優秀賞(5作品、応募順)】
ひろゆき氏「沖縄は親を寝たきりにして年金で暮らす」をファクトチェック【沖縄タイムス】
政治資金問題に関する記事3本【InFact】
新型コロナ禍での感染対策に関する記事3本【InFact】
のり弁当の添加物表示ラベル画像は正確 偽造疑う指摘拡散も【リトマス】
JAL機と衝突した海上保安庁機がフライトレーダーに表示されない理由【ryo-a】
【特別賞】
「安全基準を満たしているを処理水」(原文のまま)の「安全」は十分に開示されているのか【InFact】
同団体は、処理水問題に関連したファクトチェック記事の中から唯一、前述した海洋放出後2ヶ月以上経ってから<ファクトチェックの結論 現状の開示で「安全」を確認するのは困難>と記したINFACT記事を、「特別賞」を新たに創設してまで表彰した。理由について<特別賞は今回初めて設定されたものですが、言説を直接的に検証したものではない応募作品が複数あった中で、委員からもっとも高く評価された作品として、特別賞をお贈りしたいと思います>としている。一方で、著者はINFACTが「トモダチ作戦」に関するフェイクニュースに加担したことを指摘した記事をノミネートしていたが、落選した。
一方で、今回優秀賞で表彰された沖縄タイムス記者は、ALPS処理水を「汚染水」と混同させる発言を度々繰り返し、コミュニティノートが付けられている。なぜ、ALPS処理水に対する偽・誤情報問題はここまで軽視され続けたのか。
https://x.com/ABETakashiOki/status/1682718155658117120
ファクトチェック団体は、偽・誤情報が飛び交い、外国からの情報工作まで明らかになったALPS処理水問題に対する自分達の仕事に対し、何の反省も総括も無いのか。このような実態を見ても、ザッカーバーグ氏らが指摘した「ファクトチェック団体の偏向と機能不全」は、日本も全く他人事とは言えないのではないか。