ファクトチェックはどうあるべきか、「目に見えぬ検閲」の可視化が必要!
小島 正美
科学ジャーナリスト/メディアチェック集団「食品安全情報ネットワーク」共同代表
SNSで世界最大手の米国メタ社(旧フェイスブック)が1月7日、第三者が事実関係を確認する「ファクトチェック」をやめると発表した。ファクトチェックは「言論の自由」か「検閲」かで議論が続く。これを機に日本の言論空間でどういうファクトチェックが必要かを考えてみたい。
2年前の誤報が放置
みなさんは、昨年11月に起きた靖国神社参拝をめぐる共同通信社の誤報を覚えているだろうか。実は、この誤報はファクトチェック機能が働いていれば未然に防げた。
簡単に経過を記す。昨年11月24日に新潟県佐渡市で世界文化遺産「佐渡島の金山」の労働者追悼式が行われた。だが、日本政府の代表として出席した生稲晃子外務政務官(参院議員)が2年前、靖国神社に参拝したことが報道され、韓国側は反発して追悼式に欠席、日韓の外交関係を揺り動かす大問題に発展した。
この問題を受けて、11月27日に共同通信社は「22年8月15日に生稲参院議員が靖国神社を参拝したとする報道は誤りでした。深くおわびします」と訂正した。
生稲晃子参院議員(現外務政務官)の靖国神社参拝報道は誤りでした 。深くおわびします|インフォメーション|共同通信社
ここで重要なのは、2年前の誤報がなぜ起きたのか、そして、なぜそのまま放置されていたかである。共同通信社のおわび(12月5日)によると、靖国神社の取材は他社と分担で行い、他社の記者の誤った情報をそのまま信じて記事化し、確認を怠ったことが原因だったという。それにしても、こんな重要な取材を他社と分担していたことに驚きを禁じ得ない。しかも、通常、この種の取材では必ず本人に確認を取るはずだが、なぜ、本人に参拝理由などを尋ねなかったのか不思議でしようがない。
地方紙は共同通信の配信記事をどうチェックするのか
この誤報を受けて、共同通信社は対策のひとつとして「取材は自社で完結することを原則とする。信用できる他社と取材協力することを必ずしも否定しないが、共有される情報はあくまで未確認情報の一つとして扱い、共同通信として報道する場合には裏取りや確認を前提とする」(12月5日)とした。
この文言は実は極めて重大な問いを突きつけている。ご存じのように日本の地方紙は共同通信社の配信する記事で新聞を作っている。「原則として取材は自社で完結する。共有される情報はあくまで未確認情報」だということになると、地方紙は共同通信社が送ってきた記事を一つひとつチェックする必要性が出てくる。しかし、現実問題として、そんな手間暇のかかる裏付け作業ができるはずもない。
これは裏を返せば、共同通信社の配信ニュースが間違っていれば、必然的に地方紙の記事も間違いになることを意味する。もちろん、そうそう間違いニュース(誤報)はないと思うが、私が気になるのは、共同通信特有の偏った内容のニュース(たとえば、福島第一原発の処理水報道など)がそのまま地方紙に掲載されているという点だ。
しかも、地方紙の記事を読んでも、どの記事が共同通信の配信ニュースかが明記されていない。一般的に国際的なニュースには「共同」というクレジットが記されているが、社会面や経済面など一般的なニュースには署名(最近は地方紙でも自社の記者の署名が増えているが)が少なく、共同通信の配信記事かどうかが分からない。やはりどの記事にも出どころを明記すべきだろう。
大手新聞も「共同通信」なら明記すべきだ
大手では毎日新聞、産経新聞、日本経済聞が国内記事に関しても共同通信社の配信記事を利用している。しかし、記事を見ても、国際ニュースを除き、共同通信の配信かどうかがほとんど分からない。毎日新聞の場合は原則としても自社記事には記者の名前を記しているため、署名のない記事は共同通信の記事だと分かるが、そんな事情を知っている人は少ないだろう。
私が毎日新聞社の現役記者のときも、ときどき共同通信の記事(科学や健康・医療記事)を採用してよいかどうかについて相談を受けていた。しかし、不正確な内容や偏り(バイアス)があり、どこまで信じてよいかが見極められず、掲載に「ノー」と言ったことがしばしばあった。
共同通信社の論調は、私の見方では朝日、毎日と同じように左派リベラルに属する。それだけに、どの新聞社も共同通信の記事(社説も含め)を採用したときは、共同の配信だと分かるように必ず明記すべきだろう。記事の出どころが分からないとファクトチェックのしようがない。
また、間違った記事(誤報)が放置されると、あとあと引用される恐れもある。誤報は分かった時点で記録に残すことが必要だ。だが、残念ながら新聞記事の真偽をファクトチェックする第三者的な機関はない。日本新聞協会は社会的責任の一環として、外部の識者から成る第三者機関を設けるべきだろう。そして、全新聞の記事の訂正や間違いが一目で分かるアーカイブ的なファクトチェックサイトの開設も必要だろう。
コロナワクチン報道で知らぬ間に「検閲」
共同通信社のような誤報は関係者に取材して裏取りをすれば真偽が分かる。その意味ではファクトチェックとしては労力のかからない簡単な部類に入る。難しいのは、科学的なテーマの記事(ニュース)の場合だ。米国のメタ社が投稿内容の事実関係をチェックするファクトチェックを廃止すると公表したが、それには正負の両面がある。
負の典型例を挙げよう。コロナワクチン接種が感染防止にどこまで効果があったかの検証は非常に重要だが、大手メディアはその重要な検証作業をほとんどやっていない。
そうした中、ワクチンを接種した人ほど感染率が低いという国のデータの誤り(改ざんに近い情報操作だったと私は思う)を突き止めた名古屋大学名誉教授の小島勢二氏(名古屋小児がん基金理事長)はユーチューブの出演動画でそうした重要な事実を話していたが、「ことごとく削除された。国会議員や厚労省の担当官を対象にした講演の動画でさえも即座に削除された」と著書「検証・コロナワクチンpart2」(花伝社)で告白している。
ワクチンを接種しても、感染を防ぐ効果はほとんどなかったということは、当初ワクチン接種のお手本と言われたイスラエルなどが早々とワクチン接種をやめていった経過を見ると、いまでは当たり前になっている。しかし、当時はその事実が広く知られていなかった。大手メディアがほとんど報じなかったからだ。小島氏の発言や講演は匿名による誹謗中傷とは訳が違う。小島氏の研究内容は非常に重要な科学的言説だったわけだが、「反ワクチン」という名目で削除されていったのは言論への検閲に等しく、許されることではない。
意外に知られていないプラットフォーマーの情報操作
こんな見方もある。「ユーチューブの親会社のグーグルが、検索履歴の追跡や個人ごとに検索結果を変える『個別化』という手法も駆使した露骨な検索結果の操作をおこなっているのは、周知のとおりだ。ツイッター(現在のX)も特にワクチン問題でアカウント凍結などの強硬措置をおこなってきた」(『ウクライナ・コロナワクチン報道に見るメディア危機』(嶋崎史崇氏・本の泉社)。この嶋崎氏の本はプラットフォーマーの恣意的な情報操作を知るうえで非常に役立つ。
ユーチューブが知らぬ間にいろいろな情報を削除していたという事実を多くの人は知らないのではないか。そういう意味ではプラットフォーマーの恣意的な自己検閲が廃止されることは非常によいことである。ただ、そうなると、誹謗中傷やトンデモ科学はますます流布することにもなる。その意味で今後はSNSを見る側のリテラシー(情報を読み解く力)がますます必要になってくる。プラットフォーマーによる目に見えない検閲ではなく、だれもが公開で読める第三者的な機関(専門家組織)によるファクトチェック(一方的な削除ではなく、どこがどう問題かを解説するサイト)がいまこそ必要だろう。重要なのは透明性である。
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- 岡崎正彦著『新型ワクチン騒動を総括する』(花伝社)
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- 大橋眞著『ワクチン幻想の危機』(共栄書房)
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- 小島勢二著『検証・コロナワクチンpart2』(花伝社)
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- 嶋崎史崇著『ウクライナ・コロナワクチン報道に見るメディア危機』(本の泉社)