国産の再生可能エネルギー”環境熱”の統計化の重要性


一般財団法人 電力中央研究所 グリッドイノベーション研究本部 ENIC研究部門 上席研究員

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ヒートポンプで利用される再生可能エネルギー“環境熱”

 ヒートポンプは、ヒートポンプへの投入エネルギーに比べて、3から7倍程度の熱供給を行う。ヒートポンプがエネルギー保存則に反してエネルギー増幅することはあり得ず、ヒートポンプは環境熱(ambient heat)を利用することで、投入ネルギーを上回る熱供給を実現している。
 環境熱は、大気熱源 (air source)、地中熱源 (ground source)、水熱源 (water source)から構成される。国際エネルギー機関(IEA)、欧州連合(EU)などでは、バイオマス起源の熱、太陽熱、地熱と並んで、環境熱(温熱)を再生可能の熱(renewable heat)の一つとして定義している。わが国では、高度化法(エネルギー供給構造高度化法)施行令において、太陽光、風力、水力、地熱、太陽熱と並んで、大気中の熱その他の自然界に存する熱(環境熱)を、「再生可能エネルギー源」と定義している (図1)。同法における再生可能エネルギー源の定義は、永続的に利用できる非化石エネルギー源であり、環境熱はその条件を満たしている。
 ヒートポンプは、熱供給のためのエネルギー投入が少ないという意味では省エネ機器であるが、ヒートポンプの本質は、再生可能エネルギーである環境熱を利用する再生可能エネルギー機器である。

図1 わが国における再生可能エネルギーの定義
出典:https://www.hptcj.or.jp/Portals/0/data0/information/whatsnew_bn/doc/newsrelease090907.pdf
元文献は総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会(第37回)資料

ヒートポンプで利用される環境熱の定量化と統計化

 環境熱の定量化と統計化はEUで先行している。EUでは、2009年のEU指令に基づき、ヒートポンプで利用する再生可能エネルギーである環境熱(温熱)の定量化を開始し、2019年以降エネルギー統計に環境熱(温熱)を計上している。
 IEAでは、EUと共通の考え方で、環境熱(温熱)の情報収集を始めているが、現状では、EU加盟国だけが環境熱データを報告するに留まるため、環境熱のエネルギー統計化には至っていない。ただし、IEA独自の推計として、世界レベルの環境熱(温熱)の推計結果を公表している。
 わが国の総合エネルギー統計では、地熱の熱利用、雪氷冷熱と同じく、環境熱(大気熱源、地中熱源、水熱源)の統計化には至っていない。ただし、ヒートポンプと蓄熱に関する技術開発と普及啓発を行う一般財団法人ヒートポンプ・蓄熱センター(HPTCJ)が、EUに近い推計方法で、環境熱を推計して公表しており、データの整備が進められている。

ヒートポンプと環境熱から生産される冷熱の取り扱い

 ヒートポンプと環境熱を用いることで、環境温度よりも高温の温熱だけでなく、環境温度よりも低温の冷熱の生産が可能である。
 IEAは、再生可能な熱(renewable heat)に、ヒートポンプと環境熱から生産される温熱を含めているが、冷熱に関しては触れていない。
 EUでは、冷熱に関しては2021年のEU再エネ指令向けのデータ収集を開始した段階であり、統計化には至っていない。
 EUでは、環境熱に由来する温熱は、既存の化石燃料ボイラを代替すると想定し、一次エネルギー基準で1.15以上のエネルギー効率を持つヒートポンプで用いる環境熱(温熱)を再生可能エネルギーと見なしている。一方、環境熱に由来する冷熱は、既存のヒートポンプ冷房システムを代替すると想定されるが、化石燃料とCO2を削減する再生可能エネルギーとしての環境熱(冷熱)を単純に定量化できない。

ヒートポンプで利用する環境熱は再生可能エネルギーの統計化の意義

 ヒートポンプで利用する環境熱の統計化には次のような意義があると考えられる。

(1) エネルギー利用実態とエネルギー統計の整合
 実態として、われわれは環境熱とヒートポンプにより生産される、温熱エネルギーを利用している。環境熱をエネルギー統計に明示することで、エネルギー利用の実態とエネルギー統計の整合性を高めることができる。また、環境熱の統計化を行えば、環境熱とヒートポンプの利用によるエネルギー消費の減少と、断熱等の省エネルギーによるエネルギー消費の減少の、省エネ効果の分離が可能になる。

(2) 環境熱を含めた再生可能エネルギー比率とエネルギー自給率の向上への取り組み
 環境熱の統計化で先行するEUでは、再生可能エネルギー比率とエネルギー自給率に環境熱を含めている。わが国でも、国産の再生可能エネルギー源である環境熱を含めて、再生可能エネルギー比率やエネルギー自給率を高める取り組みを進めることは、将来の輸入化石燃料削減やCO2削減のために重要と考えられる。

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熱需要の脱炭素化・エネルギー自給率向上は、ヒートポンプで解決、https://ieei.or.jp/2023/08/okamura_20230828/
欧州ヒートポンプ市場の急成長と日本への示唆、https://ieei.or.jp/2023/09/asahi_20230907/
【参考文献】
IEA 「The Future of Heat Pumps」「Renewable Heat」
https://www.iea.org/reports/the-future-of-heat-pumps
https://www.iea.org/reports/renewables-2022/renewable-heat
(一財)ヒートポンプ・蓄熱センター「HPによる再生可能エネルギー熱利用量の推計結果」
https://www.hptcj.or.jp/index/newsrelease/tabid/2010/Default.aspx
Eurostat 「Energy Balances」
https://ec.europa.eu/eurostat/cache/infographs/energy_balances/enbal.html
EU [REPowerEU」
https://commission.europa.eu/strategy-and-policy/priorities-2019-2024/european-green-deal/repowereu-affordable-secure-and-sustainable-energy-europe_en
資源エネルギー庁 「総合エネルギー統計」
https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/total_energy/