自民総裁選、候補9人の意見をエネルギーで比べる
石井 孝明
経済記者。情報サイト「&ENERGY」(アンドエナジー)を運営。
候補9人の経済・エネルギー政策の一覧
自民党総裁選が9月12日に告示された。9人が立候補し、27日の投票の予定だ。各候補の出馬会見時から新聞・メディアで盛り上がりをみせている。エネルギーに焦点を当てて、各候補の考えを紹介してみよう。表にまとめてみた。
日本のメディアは、政治家の人柄や権力闘争を伝える「政局」記事は好きだが、政策記事は少ない。有権者のためにその政策を整理する意味はあるだろう。
以前に再エネの拡大を目指す小泉進次郎、石破茂、河野太郎の「小石河」3氏と、新型原子炉に異様な関心を示す高市早苗氏の違い、これまでの発言と行動を紹介した。(IEEI、8月30日寄稿「自民党総裁選、エネルギーで対立軸-目立つ高市氏の原子力への関心」)残り5氏の考えを中心にまとめてみよう。
エネルギーは主要争点でなくなった?
上記4人はエネルギーで目立つ考えや行動をする人だ。残り5人の候補者は、これまでの経験から、エネルギー常識的な発想をする人たちだった。今回の総裁選で、露骨な反原発を訴え、エネルギー産業と対立する過激な考えの人は、河野太郎氏ぐらいだ。
ただし、かつてのように政治の場でエネルギー・原子力は主要な争点ではなくなっている。またこの10年続いたエネルギーシステム改革、再エネ振興、原子力政策の混乱を本格的に是正、検証するという主張はなかった。
前回言及しなかった候補5人の政策をまとめてみよう。小林鷹之氏は内閣府特命担当大臣(経済安全保障担当)に第一次岸田内閣で抜擢された。当時から自国産業育成を主張していた。以前から再エネの過剰振興、外国製機器による再エネ拡大、外国企業の日本のエネルギーシステムへの参入を疑問視していた。
林芳正氏は、岸田政権の「GX政策」の継承を打ち出している。他の候補はGXをそれほど強調していないので、目立つ。岸田政権の政策、つまりエネルギー改革の定着・検証、原子力の活用、気候変動に伴う投資を継承すると思われる。ただし口では勇ましいが、具体策が乏しかった岸田政権の政策を継承することは困る。
茂木敏充氏は、原発の新増設を主張する。クリーン電源、おそらく高性能火力、火力での水素使用や再エネも振興するという。
加藤勝信氏は社会保障、上川陽子氏は外交に関して知見を示しているが、エネルギーについては簡単に言及しているだけだ。
候補たちの印象記
またこの9人の中で、私は記者として、小林氏、加藤氏、上川氏以外の6人と会ったことがある。5年ほど前まで、エネルギー問題の専門誌で政治家インタビューを担当していたためだ。
記者の取材は相手の表面的なことしかわからない。たいていは短時間の面会であり、相手も身構えるためだ。ただしこれは5年ほど前の話で、政治家は日々変わっているかもしれない。またあくまで、これらは私の私的な印象だ。読者の方は、一参考情報として受け止め、深く信じないでほしい。
石破氏は、何度か取材し、その勉強好きと、物腰の柔らかさ、政策の理解の深さ、話し上手、聡明さを感じた。相手のことも配慮する。一級の人物だと思った。しかし政党や派閥を渡り歩き、政敵であった安倍晋三氏を首相の際に批判し、野党に利益になるような態度を示した。記者に見せる表の姿と裏の本当の姿が違うのかもしれない。そして、最近の彼の政見を聞くと、弱者救済などのリベラル色がかなり強くなりすぎている印象を受けている。
河野太郎氏は私がエネルギー専門誌の取材だったこともあり、エネルギー業界に攻撃的な態度を示した。頭の回転の速さは理解するが、その攻撃性に危うさを感じた。
高市早苗氏とは学者グループと集団で会った。人当たりがよく、原子力に深い理解があること、エネルギー安全保障の詳しさに驚いた。
茂木敏充氏、林芳正氏も取材した。いずれも詳細なメモを準備し、その周到さと、聡明さが印象に残った。ただ取材を速やかに片付けようという冷たさを感じてしまった。1回だけの取材だから、そのような態度を記者に示すのは仕方ないだろう。しかし、面倒くさがらずに暖かさを感じさせ、一度きり会うだけでも面会した人を信用させるのが大政治家と思う。それが見当たらなかった。
小泉進次郎氏は記者会見で会った程度だ。確かに明るい、目立つ印象を与える人だ。しかし、話し始めると、「言語明瞭意味不明」と要約できるような内容で、質問に対応した気候変動政策の答えができなかった。
次の首相では、エネルギー問題の混乱是正を期待
今の日本のエネルギーシステムは、福島原発事故からの混乱の後始末が続いている状況だ。特に電力システムが脆弱になり、電力料金の上昇、停電増加が発生している。エネルギーの安定供給が「首相案件」になる程、日本の経済と社会に重要な問題になる可能性もある。原子力再生、エネルギー自由化の功罪の検証など、もはや官僚レベルでは対応できない問題になっている。
残りの期間で、今回の総裁選でどれほどエネルギーをめぐる議論が深まるかは不明だ。ただし、ぜひこの機会に経済政策、エネルギーをめぐる議論を深め、次の首相に対策を打ってほしいと思う。