子どもたちがエネルギーミックスを体感できる教材
佐桑 徹
環太平洋大学客員教授
エネルギー管理者の立場でじっくり話し合う
日本原子力産業協会という団体がある。原子力と名前がつく団体には、日本原子力研究開発機構、原子力安全技術センターなどがあるが、日本原子力産業協会は、原産年次大会を開催していて、2024年大会のテーマは「今何をなすべきか。国内外の新たな潮流の中で原子力への期待に応える」である。私も新聞記者時代に原産大会を取材したことがある。大所高所からエネルギー問題を議論する場との印象をもっていた。組織名からも推測されるように、言うまでもなく原子力推進を目指す団体であろう。
その同協会が「エネルギーミックスボードゲーム」を今年1月末に発売した。このゲームは、幅広い世代に、エネルギーミックスがいかに国の発展・繁栄を左右するかについて理解してもらうものだという。私は面白そうだと思い、興味津々で、知り合いを通じ入手した。
エネルギー・環境教育に携わっている身からすると興味深い。ゲームをする人(プレイヤー)は、エネルギー管理者となる。自らの国が必要としている電力供給量を確保し、温室効果ガス排出量の制限を守りながら国を発展させていくという本格的なゲームである。原子力や水力、火力、再生エネルギー等、それぞれの発電方法のメリットやデメリットを確認しながら、エネルギーのベストミックスの難しさを実感できるゲームになっている。単に座学で説明を受けるよりも、じっくりとエネルギーについて考え、ゲーム参加者と意見を交換し合いながら、エネルギー供給について体感できるのである。エネルギーについてじっくり時間をかけて話し合う時間こそが重要である。
エネルギーミックスの本格的ゲーム
例えば、「発展レベルとは、プレイヤーの担当する国家の発展度合いを示すものです。上昇するほど得られる資金(税収)や勝利点が大きくなりますが、必要な発電量が上がり、温室効果ガスへの制限が厳しくなります」「発展レベルに応じた発電量を確保しなければなりません。そのためには、よりよい発電設備を建設し、またその設備で消費する資源を購入しておく必要があります。自分の国家がどれくらい発電することができるのか、発電するためには何が必要になるのかを常に確認する」といった本格的なものだ。高性能な発電設備を建設することや、さまざまな技術への投資、多様な発電設備によるエネルギーミックスを考える機会になるだろう。
日本原子力産業協会は「エネルギーミックスへの関心が深まることで、日ごろの生活、例えばエネルギーに関するニュースを聞いた際に『自分事化』して考えていただけることを期待している」としている。詳細は下記ホームページを参照のこと。
https://www.jaif.or.jp/med/pressrelease/electronation
若手研修にも活用できる
何人かの若手会社員に実際にゲームを体験してもらった。すると、「国別のイニシアチブなど、ルールが細かく設定されており、リアルなゲームだと思った」「エネルギー業界のインターン・若手研修など、エネルギーについて学び始めた層が本ゲームで遊ぶと、エネルギーミックスについてより理解が深まるのではないかと感じた」との感想が寄せられた。その一方で、このゲームが本格的で凝ったものである分、「ルールが複雑で理解に時間がかかった」「エネルギーに関する知識が乏しい人だけで遊ぶのは少し難しいかも」との声も聴かれた。