原子力発電の中間貯蔵施設問題、前進に期待


経済記者。情報サイト「&ENERGY」(アンドエナジー)を運営。

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 原子力発電で使われた使用済み核燃料の中間貯蔵施設の建設で、先行きの見通せなかった関西電力の問題が動き出した。山口県上関町で、中国電力と関電が共に建設調査を行う方針が公表され、8月に同町と町議会がそれを認めた。関電はあらゆる可能性を探るとしており、福井県での施設建設や、青森での施設共同利用の可能性も残る。関電と原子力関係者は、立地地域の人々の生活に配慮しつつ、冷静に合意を積み重ねてほしい。この問題を解決すれば、原子力発電の活用が促進される大きな意味を持つ。

上関原発の建設予定図(中国電資料)

上関町の海と場所(同町ホームページより)

まもなく燃料プールがいっぱいに

 原子力発電で言う「中間貯蔵」とは、使用済み核燃料を再処理まで一時的に保管する施設だ。発電に使った直後の燃料は高熱であり、各原子力発電所のプールに置き水冷で保管する。中間貯蔵では、その燃料を数年が経過して温度下がった時点で特殊合金製の容器(キャスク)に入れ、コンクリート製の頑丈な建屋の中で保管する。乾式保管と言われる。

 青森県六ヶ所村の再処理工場が現時点で稼働していないために、使用済み核燃料は持ち出されていない。そして再稼働の進む西日本の原発の各プールで、保管される使用済み核燃料が溜まりつつある。この種の燃料は英仏にある再処理施設でこれまで一部を処理していたが、現時点で両施設は受け入れを止めている。

 関西電力は福井県で三つの原子力発電所を持つ。このまま使用済み燃料が増え続ければ、あと5−7年程度でいっぱいになり、原発が稼働できなくなる状況になっていた。また福井県は中間貯蔵を認めず、施設の県外立地を1990年代から求めてきた。関電は2023年までにその方法を決めるとしていた。ところが、いまだに建設のめどが立っていない。

福井、青森で拒否

 関電は、会社として明確に公表してはいないが、東京電力と日本原子力発電が青森県むつ市に建設し23年に運用を始める中間貯蔵施設を、一緒に使う計画だったらしい。2020年には電気事業連合会が、他会社の利用を青森県とむつ市に申し入れた。ところが当時むつ市長だった宮下宗一郎氏が突然の提案を批判し、棚上げになった。その宮下氏は今年6月に青森県知事に当選した。知事当選後も、宮下氏はその態度を変えていない。

 関電は今年6月、「研究目的でのフランスへの使用済み核燃料の搬出」を福井県に報告した。「福井県外に搬出されるという意味で、中間貯蔵と『同等の意義』がある」と、表明し、23年中の中間貯蔵の候補地提示との約束を「ひとまず果たされたと考えている」とした。経産省もそれに同調した。しかしこれは関電と政府の一種の詭弁だ。福井県内では批判が出て、杉本達治福井県知事は態度を保留している。

 そこで今年8月に、上関町での中間貯蔵施設の建設調査が行われることになった。建設には10年以上の長い時間がかかりそうだ。上関町では1980年代から、中国電力が原子力発電所の建設を計画していた。ところが東日本大震災の後で、その建設が止まっていた。地元からの要望で、その代替の貢献が求められていた。そこで中国電は中間貯蔵施設の建設を検討して、費用負担を軽減するために関電と組もうとしている。

 他電力では、中部電力、四国電力、九州電力が原子力発電所敷地内での中間貯蔵施設建設に向け動き出している。原子力発電所がまだ再稼働していない、東北、北海道電力は、まだ方針を示していない。

乾式貯蔵は安全性を高める

 これが中間貯蔵施設をめぐる現在までの状況だ。つまり、関電の森望社長は「あらゆる可能性を追求」と繰り返す。

 私の個人的意見だが、この問題は解決可能であると思う。中間貯蔵は、別に技術的に難しいことでもないし、新しいことや不可能なことにチャレンジする話ではない。原子力発電所内のプールに置くよりも、安全度の高くなる保管方法だ。

 東京電力福島第一原発事故では、使用済み核燃料を保管していた4号機の原子炉建屋のプールで、停電や給水設備の破損で水が冷却されない状況が一時的に起こり、格納プールそのものの破損も懸念された。乾式貯蔵ならば、大地震があったとしても、プールの破損による冷却の停止、使用済み燃料の管理不能という状況はなくなる。

 むつ市の中間貯蔵施設は、今年度中に運用を開始する。私は2016年に工事の大半が終わった時点で取材した。巨大なコンクリートの頑丈な建物で、その中に高さ5メートル超のキャスクが置かれる。写真は保安上の配慮で撮影できなかったが、そのキャスクと施設の堅牢さが印象に残った。

乾式貯蔵キャスクの写真、ブレーリー・アイランド原子力発電所(米)(電事連資料)

解決可能な問題、関電・政府の頑張りを期待

 使用済み核燃料を中間貯蔵の形で引き受け続けることに、原子力施設の立地地域、特に青森や福井の方々が、不快感を持つことは理解できる。しかし可能なものをキャスクで乾式保管をすれば、安全度は高くなる。そして六ヶ所再処理施設の稼働は2024年中に行われる予定だ。使用済み核燃料が中間貯蔵施設に置かれ続けることはない。さらに原子力施設を立地すれば、税や電力会社からの支援で、地域の自治体の収入は増えるメリットもある。

 「政府と関電が宮下知事と、青森県民に真剣にお願いし、支援を用意すれば状況は変わる」。青森県の政治家から、こんな本音を取材の中で聞いた。これは楽観的すぎる考えとは思うが、青森では状況を動かせる可能性はあるようだ。

 この中間貯蔵の問題が停滞したことは、反原発の立場の人からの批判材料にもなっている。関電は、社業のためだけではなく、日本の原子力の未来のためにも、ぜひ問題を解決してほしい。関電が状況を変えれば、他社も中間貯蔵施設の建設を、各原子力発電所内で行いやすくなるだろう。

 私は、原発立地地域の住民の方の理解と、電力会社と政府による十分な支援で、早急に中間貯蔵が行われることを期待する。それが無理なら上関での中間貯蔵施設の建設と運営を早急に行なってほしい。中間貯蔵は技術ではなく、政治的な議論で解決できる問題だ。解決可能なこの問題で原子力発電の活用が遅れ、そして日本のエネルギー全般が停滞するのは、非常にもったいない。